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だって夢も希望も俺には許されてない。そんな事言えるのは、竹丘さんが恵まれてるからだって言いたかったけど必死に飲み込んだ。
「じゃあ――竹丘さんは…何のために高校に行ってるの?」
俺から逆に質問された竹丘さんは。珍しく答えにくそうに口ごもってから。
「俺は、将来やりたい事のために行きたい学校があるんだよ。だから俺が今やってる高校生活ってのは――言い方悪いけど夢に向かっての通過点だな。その為の環境が凄く揃ってるのが某都立高校だってことだ」
突然鞄の中を引っ掻き回し始めた竹丘さんは、鞄の底から分厚くて赤い辞書みたいな本を掴みだして俺に差し出してきた。
受け取って表紙を眺めたら。日本カギ大学の10年分の過去問題集だったから。
「日本カギ大?東大じゃなくて?」
某都立高校って言ったら旧帝大か早慶しか行かないってイメージから大分外れてて。凄く驚いてる俺を見た竹丘さんは、頷きながら。
「そりゃあ俺なら東大理Ⅲ余裕だけど。俺はそういう事で学校選んでないの。あの学校って勉強は出来ても、面白くはなれそうにないだろ?――想像してみろよ。俺が医者か官僚か就職かって。全く向いてないだろ。だから――此処なんだよ」
で?オマエは、何かやってみたい事ないのか?って聞かれて。
「俺竹丘さんみたいに頭良くないし…別に勉強したい事も無いし」
将来なんて考える余裕がないって言ったら。
「まあ高校行って大学行くだけが人生じゃねぇ。――今すぐ決めろとは言わねぇけど。――コンビニのバイトなら何時だって出来るだろ?それは最後の手段に取っておいて。もうちょっと考えろよ。学生長くやるほど、社会に出るまでの時間が稼げると思え」
「解った」
素直に答えてるのに。竹丘さんは苦笑いしながら俺の返事を聞いて。
「よし――じゃあ其れ飲み終わったら帰るぞ?。俺は明日も中間テスト続きがあるし。コレでも受験生だから、帰って勉強しねえとな」
神社に帰る頃にはすっかり日も暮れていて。90段の階段を上りきったら。今日も境内でお父さんが灯篭に火を入れているところだった。
「お帰りなさい。珍しいですね。2人一緒に帰るなんて」
と声を掛けられて。竹丘さんはただいま、と返した後で。
「下で会ったから」
なんて嘘をついたから。俺はどうしたらいいかわからなくてとりあえず竹丘さんを見たら『余計なこと言うなよ』って目で合図されたのが解った。
「ただいま――…」
お父さんには挨拶だけして。裏手の屋敷に向かって黙って歩いてたら。
「おい成瀬。そんな顔すんなよ。親父殿に今日の事全部喋っていいのか?」
って竹丘さんに言われてようやくその意図が理解できた俺は。
「あ、そっか。――言えないね…」
面倒臭いんじゃない。竹丘家の人たちに心配を掛けたくない、って思うのは。今まで居た家では考えられなくて。
自分でもどうしてそんな風に思うのか理由が解らなくて。いつの間にか黙ったまま2階の自分の部屋まで戻ってきて、はっと気が付いた。
隣の部屋に竹丘さんがドア開けて入ろうとしたところに慌てて。
「竹丘さん」
声を掛けたら、なんだ?って顔で振り返ってくれた。
「今日は有難う」
少し驚いた後で、苦笑いして見せた竹丘さんは。
「まぁ。今日は気まぐれで行ったにしては、少しはお互いの事が解ったいい機会になっただろ?――面白そうだから、気が向いたらまた迎えに行ってやるよ」
また迎えに来てもらえるんだ。って思ったらうれしくて思わず。大きく頷いたら。
「はいはい、じゃあ、お疲れ」
竹丘さんの部屋のドアが閉まるのが見えて、何だかさみしく思いながら。俺も自分の部屋に戻った。
翌日。
どうしてだろう。何時もなら『顔貸せ』とか『生意気なんだよ』とか声かけられて鬱陶しいのが登校から下校まで一日中続くのに。今日は久しぶりにそれがなかった。
授業以外の時間も穏やかに過ごせたから凄くいい日だった、って満足して。
6時間目もあと残り1分。一番後ろの席で教科書とノートを机に仕舞って。鞄掴んで走り出す準備をした。
終了のチャイムが鳴り始めると同時に立ち上がって、廊下に飛び出す。
上の階の足音がしないって事は、今日は追いかけられない、って解ったけど。とりあえず走り出したからとっとと学校を出て行こう、って。何時もみたいに1段とばしで階段下りて昇降口にたどり着いたら。
耳を澄ませてもやっぱり誰も追いかけてくる気配がなかったから。ようやく走るのをやめようってのんびり靴を履き替えた。
珍しく歩いてグラウンドを横切って校門前までたどり着いたら。
これまた珍しく、校門前に先客がいた。
黒い詰襟で俺とおんなじ制服。
見れば3Aの緑色したクラス証が詰襟についてた。
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