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「お待たせしました」
竹丘さんの前には小さなカップに入ったコーヒーと何故か紙に包まれたミルクチョコが一緒にセットされて。
俺の前にはホットココアと、卵よりは少し小さいくらいの大きさの、焼目がついたはんぺんみたいなモノが置かれた。
相変わらずニヤニヤしてた竹丘さんは。テーブルに両肘ついて組んだ両手の上にカッコよく顎を乗せてみせたら。
「初めはそのまま飲んでみろ。って言っても、絶対にひとくちの量は舐める程度にしろ」
相変わらずの上から目線だけど。反抗する気もなくて黙って言うとおりにする。
「――」
恐る恐るカップに口つけて傾けたら。香りはココアだったから、想像してる味が来ると思って少し舐めたら。
「――っ!!?」
苦い!
余りの苦さに驚いて、渋い顔して無言で文句を言う態度を示したのに。俺の反応を予測してた竹丘さんはやっぱりニヤニヤとドヤ顔が止まらないみたいだ。
「苦いだろー?それココアの癖して砂糖入ってないからな。まぁフツーはそのまま飲む奴はいない」
甘くないなんてココアとして間違ってるだろ。
「砂糖を入れたらいいんですか?」
シュガーポットを掴んで引き寄せようとしたら。その手を留められた。
「待て待て。目の前のモノを良く見なさい。」
って。カップと一緒に皿に乗ってた白くて丸い奴を指先で示されて。
「コレは何ですか」
「マシュマロだよ。食ったことないのか?」
はんぺんが乗ってくるわけないか。とりあえずコレがマシュマロなのはわかったけど。
「こんなデッカイのとか、焼いてあるのとか見た事無い」
って不機嫌なまま答えたら。
「あー、そう言うこと。コレは、こうするんだよ」
対面から手を伸ばしてきた竹丘さんは。マシュマロをつまみあげて俺のココアのカップにぽとり、と落したから。
「えっ?…えー!?」
食うもんじゃないのか!!って驚いてたら。しゅわしゅわと小さく音を立ててマシュマロが融けるのが聞こえてきた。
そのまま手を伸ばしてティースプーン持ち上げた竹丘さんがココアの上に浮かぶマシュマロをつつき始める。
「イイからつついて遊んでろ」
ってスプーン渡されて真似してつついてたら、どんどん解けていって何だか面白くなってきた。
「――…」
融けるマシュマロをスプーンで追いかけてる間。
竹丘さんがチョコレートの紙パッケージを捲って、ぱき、って音立てて折り取ったのを食べてるのが気配で解った。
そのまま小さいコーヒーカップを取り上げてエスプレッソをひと口飲んでる。
「――」
マシュマロが融けきって、これからどうしたらいいかな、って前を見たら。
何だか俺が前に居るの忘れてるみたいに、凄く満足した顔で目を閉じてコーヒーカップを傾けてた。
「竹丘さん…?」
って声かけると、ああ、悪い。なんてつぶやきながらこっちを見て。
「全部溶けたか?」
って聞かれたから。次どうしたらいいのか指示がほしくて頷いたら。
「よーしよしよし」
なんて、犬にするみたいに手を伸ばして頭を撫でられた。
――また撫でてもらえた。
「待たせたな。思う存分飲み干せ」
言うとおりに、両手でカップを掴んだらぐいぐい中身を飲み干した。
俺の知ってるココアってただ甘いチョコみたいな味だったけど。
この目の前の飲み物のカカオ豆の香りと、砂糖とは違う穏やかな甘さは。今まで飲んだモノは何だったんだろう、って思えるくらいの代物だった。
「美味いか?」
って尋ねられて。凄く美味しかったって伝えたかったのに。
「――…」
「どうした」
どういったらいいのか解らなくてもう一回飲んで確かめようと思ったら、もう底には残ってなかった。
「大事に飲めばよかった。――もうなくなっちゃった…」
「ああ、悪かったよ。俺が飲み干せって言ったからだな」
すみませーん、って手を上げた竹丘さんは。
「ココアお代わりくださーい」
って。俺のためにまた二杯目を頼んでくれた。
もうこうすれば美味いって解ったから、とにかくマシュマロを早く融かそうって一生懸命つついてたら。
「じゃあ。旨いもの飲みながら順番に話してみようか?」
竹丘さんは自分の飲み終わったカップをテーブルの端に避けて、目の前で頬杖ついて俺のことじっと見つめてくる。
「…何を?」
何でだろう。悪いことしてないのにドキドキする。
「とぼけるんじゃないよ。どうしてあんな奴らに追っかけられてたんだよオマエは」
ああ、そのことか。って少し残念な気持ちになりながらスプーン置いて起き直る。
「いちいち相手にするのが段々面倒臭くなってきたんだ」
って。とりあえず竹丘家に来てから1か月、学校であったことを話始めたら。
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