第47話 招かれざる来訪者11
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公園に着いてすぐ、僕は鳴の元に駆け寄った。今の彼女に触れてしまえば死んでしまうかもしれないけれど、しかしそんなことは気にならなかった。――彼女が無事で本当に良かった。
「あいつを倒してまた帰ろう。僕たちの日常に」
そんなかっこつけなセリフを言ったかと思うと僕は目の前の宣教師へ向き直った。
「おい兄ちゃん、お前頭おかしいのか?」
宣教師はまるで信じられないものを見たというような顔でこちらを見る。
「ああ、よく言われるよ」
「せっかく人間に戻れるんだぞ? そこの女なんか見捨ててさっさとこんな世界なんかやめちまえばいいだろうが」
「ああ、僕も我ながらバカなことをしているという自覚はあるよ。でも、ダメなんだ」
「…………」
「最初は吸血鬼になった寂しさを埋めるために鳴を好きになった。でも、今は違う。僕は吸血鬼だから橘鳴を好きになったんじゃない。たとえ僕が人間であっても、吸血鬼であっても、きっと僕は変わらず橘鳴のことを好きになっていた。これは間違いなく言える」
「そうかよ」
「ああ、だから恋人をもう一度抱きしめるために僕は――吸血鬼になる」
「……兄ちゃん、あんたも大概狂ってるな」
「ああ、それもよく言われるよ」
僕は不敵な笑みを浮かべながらそう返す。
「もうつべこべ言っている場合じゃねぇな。分かってると思うけど兄ちゃん、今度は――殺す気でいくぞ?」
言うが早いか、宣教師はものすごい速さで目の前から姿を消し、僕の死角から殴りかかる。
「――!?」
しかし、次の瞬間に驚きの表情を浮かべたのは僕ではなく、宣教師の方だった。
――ガシッ!
僕は殴りかかってきた宣教師の腕を掴んだ。
「鳴を人質にとられた前回ならいざ知らず、一対一で戦って僕に勝てると思っているのか?」
「くっ!? この……化け物が!」
僕は宣教師の腕を掴んだまま、そのまま反対の手で宣教師の胸ぐらを掴んだ。
「ぐっ……」
こいつの息を止めることが目的ではない。こいつが持っているであろう……
「見つけた!
銀の弾丸を奪い返した。
――バリン!
まるでガラスでも割れるかというくらいあっけなく銀の弾丸は僕の手の中で粉々に砕けた。
「――!?」
次の瞬間、僕の体の中に力が戻ってくるのを感じた。
あの日、カーミラに出会って自ら望んだ力。後悔することもあったし、きっとそしてそれはこれからも変わることはないのだろうけれど、それでも――
「悪いな。これは――僕が一生背負っていくべきものだ」
そう、これは誰かに背負わせていいものではない。僕が一生背負い、後悔し続け、そして――大切な人に触れるための力だ。
「じゃあな、宣教師。もう二度と僕たちの前には来るなよ!」
そう言って僕は片手で宣教師のを拘束したまま、腕を前に突きだした。
「くそ、くそ、この化け物どもが! お前らなんて一生不幸でもがき苦しめばいいんだ!」
宣教師は僕の腕に拘束されたまま、そんな呪詛にも似た言葉をただ発しているだけだった。
「ああ、そんなことは君に言われるまでもない。じゃあな、宣教師」
僕が突きだした腕に力を込めると、そのまま宣教師は大きく吹き飛ばされ、やがて夜空の闇に消えていった。生死の確認など、するまでもなかった。
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