第45話 招かれざる来訪者9

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「ならどうぞこれをお使いください」


 そう言ってガーヴェインは僕に小さな小瓶を渡した。


「ん? なんだこれ?」


「我が主様の血です」


 ガーヴェインはまるでこともなさげに答える。


「カーミラの……血?」


「ええ、銀の弾丸に撃ち抜かれて吸血鬼の力を失ったといえども、世餘野木様が我が主様の眷属であるということは変わりません。なので、その血を飲めば一時的に世餘野木様は吸血鬼の力を取り戻せるでしょう」


「そ、そんなことが……」


「ただし、世餘野木様の体は人間のままです。ゆえに吸血鬼の不死性だけは再現できません」


「つまり……」


「ええ、死ぬほどのダメージを受けることも、あるいは恋人様に触れることもできません」


「……そうか」


「世餘野木様、あの宣教師から銀の弾丸を奪うのです」


「銀の弾丸を?」


「ええ、世餘野木様が力を失ったのは銀の弾丸に吸血鬼の力を吸い取られたからです。なので銀の弾丸を奪い返せば――」


「僕は吸血鬼に戻れるってわけか」


 言うが早いか、僕は小瓶の中に入っているカーミラの血を一気に飲み干した。それは苦いけれど、どこか少しだけ懐かしい味がした。


 ――ぶわっ!


 すると、懐かしい感覚が体の中をめぐる。つい昨日まで当たり前のように僕の中にあったものそれが僕の中に帰ってきたようだった。


「気を付けてください、世餘野木様。これは一時的なものです。もしもう一度敗れるようなことがあれば――」


「大丈夫だよ、ガーヴェイン。僕は――もう負けない」


「……ご武運を」


 ガーヴェインは心配そうに一言つぶやく。


 僕はそんなガーヴェインに背中を向けて病室のドアを開けると、


「ありがとうございます」


 そう言って、急いで病室を後にした。


「……バカ」


 病室からは小さく寂しそうな声が響いていた。

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