第41話 招かれざる来訪者5
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「どうしたんだとはご挨拶ですね。我が主様にとって唯一の眷属である世餘野木様がその後お変わりないか確認することも、主様の側近である私の役目でしょう?」
二ヤリ、ガーヴェインは僕に対してシニカルな笑みを浮かべる。
「……まあこんなところで話すのも近所迷惑だし、とりあえず上がれよ」
「おや? よいのですか?」
ガーヴェインは少し意外そうな顔をする。
「最近このあたりに不審者がよく出没していてね。玄関先でその不審者とトラブルになることも多いんだ。だから玄関先であまり口論はしたくないんだよ」
「おや、それはそれは。世餘野木様も苦労されてますな」
何が楽しいのか、ガーヴェインは僕の話を聞くとニヤニヤとまた皮肉っぽく笑う。
「とはいえ、私もそんなに長居をするつもりはないのですよ。ですのでこのままお暇させていただきます」
あれ? なんだ、てっきり僕に対してもっと嫌味なことを言ってくるのかと思ったけれど、どうやらそうではないらしい。
「側近としての任務とはいえ、私も初めて来る町ですからね。せっかくですから私もしばし観光と洒落込もうかと」
「残念ながらこんな田舎町に観光するところなんてないよ」
「そんなことはありませんとも。案外住んでいると身近にあるもののよさに気が付かなくなるものですよ」
どうやら本当にガーヴェインはそれ以上、話すつもりはないらしく、僕の嫌いな笑みを浮かべながらゆっくりとした足取りで僕の家の前を後にしようとする。
「まったく、本当に何をしに来たんだよ……」
僕がため息を漏らすと、
「ああ、そういえば――」
と、帰り際にいかにもたった今思い出したと言わんばかりにガーヴェインが口を開く。
「この町に宣教師が向かっているとの情報が入りました。まあ世餘野木様ほどの吸血鬼が遅れをとることはないと思いますが、一応忠告です」
「なんだ、わざわざそんなことを伝えに来てくれたのか?」
意外だった。これではまるであのガーヴェインが僕の安否を気遣っているかのようではないか。
「おやおやこれは心外ですな。側近である私が主様の眷属である世餘野木様を心配しないわけがないでしょうに」
「ふん、よく言うよ」
僕は不機嫌そうに返す。
「ええ、本当ですとも。私は心配なのですよ。世餘野木様は強い。それはもう間違いなく。しかしそれは世餘野木様一人なら、という話です。一人よりも二人、二人よりも三人、と思ってしまうのは人間の常ですが、しかしながらそれは人間の話です」
「――? 要領を得ないな。結局、君は何が言いたいんだ?」
結論を急かす僕をまたあざ笑うかのように
「いえいえ、所詮は年寄りの戯言ですとも。でも老婆心ながら申し上げますと、誰かがそばにいてくれることで強くなることもあれば、逆に弱くなることもあり得るということです」
「…………」
「世餘野木様は、どちらでしょうかね?」
そう言ってまたガーヴェインはゆっくりとした足取りで僕の家を後にした。
今度は、振り返らなかった。
「……どっちかなんて、そんなもの……決まっているじゃないか」
気が付くと僕もまたシニカルな笑みを浮かべながら、玄関のドアを閉める。
「お客さんですか?」
不機嫌そうな表情のまま鳴が尋ねてくる。やはりまだ機嫌は直っていないらしい。
「ああ、ちょっと……昔の知り合いだよ」
自分で言っておきながらも、僕はどこか後ろ暗いものを感じて玄関の鍵を閉めた。
どうか今日はもう誰も来ませんようにと、僕は柄にもなくそんなことを願っていた。
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