第39話 招かれざる来訪者3

003


 穏やかな波の音を聞きながら、僕たちは仲良く手を繋いで、沈んでいく夕日を二人で眺めている。


 昼頃にひたすらはしゃいでいた人の多い海水浴場とは異なり、今僕たちが佇んでいるのは誰も来ないような岩場だった。本当はもう少し鳴と海水浴を楽しんでいたいという気持ちはあるのだけれど、残念ながら僕たちにそれは許されない。


「もうすぐ日が沈みますね」


 夕焼けに照らされた鳴の横顔はどこか名残惜しそうだった。


「ああ、夏が終わるまでにまた一緒に来よう」


 僕はそんな鳴を元気づけるようにそんな提案をする。


「ええ、約束ですよ」


 でも、そうやって無邪気そうに笑う鳴を見ていると、少し心が痛んだ。もちろん鳴とこうやって穏やかな時間をずっと過ごしていたいという気持ちは嘘偽りないものだけれど、それでも次にここに来るときまでに僕が無事であるということは保証されていないのだ。


 もちろんそんなことは僕に限らず、人間であれば皆同じことなのかもしれないし、それは永遠の時間を生きる吸血鬼であっても例外ではないのだけれど、しかしながら、僕は他の人のそれよりもやや危険にさらされる確率が高いことは間違いなかった。


「鳴、僕は――」


 と、そのときぷつんと急に僕の意識が途絶えた。



◇◇◇◇◇


「あら、もうお目覚めですか?」


「ああ、もう夜になったのか」


 ふと見ると、先ほどまで海面に見えていた夕日は完全に海に沈んでいた。どうやら知らないうちにまた死んでいたらしい。


「帰りましょうか」


「……ああ。帰ろう」


 そうやって僕たちは当たり前のように同じように帰路について同じ家に帰る。


 他人から見れば決して普通ではないただれた関係に見えるかもしれないし、実際問題としてそれを否定することは難しいのだけれど、それでも僕はこんな穏やかな時間がいつまでも続きますようにとそんなことを願わずにはいられなかった。


 自分から吸血鬼になって人の道を外れておきながら勝手なものだとは自覚しているけれど、それでも――


「匠さん、今日の晩御飯は何がいいですか?」


 こうやって僕の横で微笑む愛おしい存在とずっと一緒にいたいと――そんなことを思ってしまうのだ。

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