第33話 初恋の悪霊11
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これはあとから知ったことなのだけれど、最近は結婚式場を併設しているレストランもあるらしい。僕のように知識も教養もない人間からすれば、結婚式と言えばホテルやチャペルで行うものというイメージがあるのだけれど、近年では招待客たちにおいしい料理を振舞いたいというニーズも多いそうだ。
そういうところはレストランが休みの日でも事前に予約しておけば式場の見学や打ち合わせが行えるらしい。
とはいえ、どこかのミステリー小説さながらにフェアな問題ではないものの、僕にだって気が付くチャンスはいくらかあった。定休日にも関わらず開いている扉やレストランにしては不自然なくらい迷路みたいな入り組んだ廊下、何より婚約しているカップルが仕事終わりにわざわざ外で待ち合わせている理由など少し考えればわかりそうなものだ。まったく、こんな時いつも自分のバカさ加減に嫌気がさす。
「ヴぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
理性を失った佐久間はレストラン内の装飾品などあらゆるものを無差別に壊し続けた。
「――!? おっと!?」
僕は崩れてくる瓦礫をなんとか避けながら日が完全に沈むまでのあと数分間をひたすら耐え忍んでいた。
「おい、佐久間! しっかりしろ! こんなところで暴れてどうする気だ!」
「ヴぉおおおおおおおおおおおおおおお」
僕は暴れる佐久間に向かって叫んだけれど、佐久間は僕のことなどもはや分からないようで、ひたすら暴れ続けた。
「仕方がない……か」
僕は覚悟を決めることにした。こうやって色々なものを壊しまわっていることから分かるように、幽霊であったときと悪霊化したときとでは大きく異なる点が一つある。それは『悪霊は現実世界に干渉できる』ということだ。
生きている人間からすれば厄介なことこの上ない現象なのだけれど、逆に言えばこうやって現実世界に干渉してくれることでこちらから触れることもできる。そういう意味ではメリットとデメリットが表裏一体である現象だが、つまるところこうなってしまった時点で僕のやることは一つ。
――夕日が沈むまで耐えきって佐久間を消し去る。
もうこの方法しか残されていなかった。
「やっぱり……こうなってしまったか」
僕はどこか諦めたような口調でため息を吐いた。夕日が沈むまでのあと数分がまるで永遠であるかのように恐ろしく長く感じた。
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