第30話 初恋の悪霊8

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「いつまでこんな探偵の真似事みたいなことを続けるつもりなんですか?」


 ふと、自宅のソファーに座ってコーヒーを飲んでいる僕にキッチンで洗い物をしていた橘が尋ねる。


「大丈夫だよ」


「――?」


「多分、もうすぐ終わるから」


 僕は橘の方を見ずに答える。


「……ならいいですけど」


 橘は他にも何か言いたげだったけれど、それ以上は何も突っ込んでくることなく、どこか渋々といった様子で、朝食で使った食器を磨いていた。


 こういうとき、橘は僕に対して深く踏み込んでこない。きっとそれが僕たちにとって適切な距離感だと橘は気が付いているのだろう。


 そして、そんな橘の気遣いは僕にとってはたまらなくありがたい。


 言ってしまえば、僕には橘にまだ話していない秘密はいくつかあるわけで、しかしそれはきっと橘からしてもきっと同じことなのだ。


『何でも言い合える関係』なんてものが理想だと人は簡単に言うけれど、そんな関係は僕たちから言わせればとても胡散臭い。


 これはどこかで聞いた言葉だけれど『信頼』とは『騙されても許すこと』だという。なるほど、その言葉に対して僕は深く頷いてしまうわけだけれど、それはきっと僕と橘の関係性も似たようなものだからだと言えるだろう。


 僕も橘も必要以上にはお互いに何かを求めない。

 付き合いだしてすぐにほぼ同棲してしまうようなただれた関係になっておきながら言っても説得力がないのかもしれないけれど、それでも僕たちは相手に多くを求めない。


 それは僕たちが単純に人との接し方を知らないだけかもしれないけれど、でもそれ以上にお互いにずっと一緒に居てくれるという安心感がきっとあるのだろう。


 もちろん相手のことをすべて知っておきたいという気持ちがまったくないとは言い切れないのだけれど、しかしそんなことは些細なことで、お互いの思いや隠し事なんて長い時間をかけてゆっくり共有していけばいい。幸いなことに僕たちが一緒に過ごす時間はまだたっぷりと残っている。だからこそ焦る必要などないのだ。


「……ありがとな」


 僕はポツリとつぶやく。


「いいえ、どういたしまして」


『ふふっ』とどこか優しい笑みを浮かべながら橘は答える。


 ほら、こんなときでも『何が?』と野暮な答えを要求しないあたり、僕の恋人もなかなか捨てたもんじゃないだろ?

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