第25話 初恋の悪霊3
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本当にそこからは色々なことを試した。
これまで以上にアブノーマルなプレイにも興じたし、試せることはほぼすべて試したと言っても過言ではない。その結果、僕たちお互いの性癖がまたワンランク昇華してしまった感は否めないけれど、そんな風にアブノーマルなプレイを試す中で、ふと気が付いたのだ――僕たちがただの一度も普通のデートをしていないということに。
「シンプルイズベストってことだな」
「まあ私は夜の公園で逢引するのも好きですけどね」
橘はそう言いながらもどこか上機嫌だった。
休日のショッピングモールなど僕たちには一生無縁の場所だと思っていたけれど、しかしこうやって自分の彼女と恋人つなぎで歩いてみるとなかなかどうして悪くない場所だと思ってしまうあたり、我ながら単純だと思う。
このショッピングモールは僕たちが住んでいるこの田舎町の中では一番大きな商業施設で、おおよそ地元のカップルたちはここでデートをするという定番のデートスポットだった。イ〇ンモール最高! イオ〇モール万歳!
「でも確かに新鮮ですね」
「だろ?」
「ええ。こんなに吸血鬼さんと触れ合えるのは日が出ている間だけですからね」
「…………」
「すいません、今のちょっと重かったですよね」
「いや、それに関しては今さら何とも思っていないけれど」
もっと他にあるだろ、重いポイントが。
そんな風に心の中で悪態をついたけれど、やはりこうやって橘と触れ合っているとつい考えてしまう。本当に橘が僕のことを必要とするときに、――僕は抱きしめてあげることができるのだろうかと。ふと考えてしまう。
「……変わらなければいけないのは、実は僕の方なのかもな」
「――? 何か言いました?」
「いいや、何でもない。ほら、そろそろお腹すかないか?」
僕は自分の決意に満ちた小さなつぶやきをはぐらかすように、橘の手を引いて歩いた。
きっと橘が僕をどこかに導いてくれることはこれから先もないだろう。しかし、彼女はたとえ僕がどこに行こうとも必ずついてきてくれる。だからこそ、僕は変わり続けていかなくてはいけない。傍にいてくれるこの恐ろしくも愛おしい存在を守り切れるように。そして、いつか本当に橘が僕を必要としてくれる時には――そっと彼女に触れられるように。
そんな風に『変わる』だけではなく『強く』ありたいと、そんなことを橘の手を引きながらどこかぼんやりと考えていた。
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