第26話 初恋の悪霊4

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 人ごみを歩いていると、ふいにすれ違う人と目が合ってしまうということは決して珍しいことではないだろう。


 まあ僕に関してはこうやって橘とデートする以外で、人ごみの中を歩くということがほぼないと言っても過言ではないわけなのだけれど、そんな僕ですら『まあそういうこともあるよね』と共感できるくらい、それなりにイメージが湧きやすいものだといえる。


 しかし残念ながら、僕が中途半端に吸血鬼体質を持っているからなのか、あるいは単純に僕が不幸な星の元に生まれてきたからなのか、こんなあるあるなケース一つとっても僕の場合にはやたらイレギュラーな展開が付きまとう。


 すれ違う人と何かの拍子で目が合ってしまうことは往々にしてあり得るだろう。――しかし、それが人間ではない存在だとしたら? すれ違いざまにふと見知らぬ女性に憑りついているいかにもガラの悪そうな幽霊と目が合ってしまうこと、これも人ごみを歩く時のあるあるなのだろうか? できればぜひ誰か僕に教えてほしい。



◇◇◇◇◇


「おい、お前! 昼間に俺と目があったよな? 俺にはわかるぞ、お前吸血鬼だろ? もしかしてお前がこの町の管理者なのか?」


「…………」


「おい、何とか言ったらどうなんだ!」


「…………」


 なし崩し的に押し付けられたとはいえ、管理者とはやはり大変なもので、昼間に橘とデートをしてルンルン気分な日の夜にも僕は公園で待機していなければいけない。


 この公園は『この世ならざるもの』たちのエアスポット的な場所となっており、何日かに一度は僕と同じく特殊な体質を持った者や人間以外の存在が訪れる。立場上、そういった迷える存在たちを導くことが管理者である僕の役目ではあるのだが……。


「ねぇ、吸血鬼さん。いい加減返事してあげたら?」


 隣で橘が僕に耳打ちする。


 気のせいか彼女もいつもよりも上機嫌だった。いつもなら僕以外の存在など気にも留めないというのに。


 いや、確かに橘の言う通り、さっさと話を聞いてしまった方がいいのだろうけれど、しかしなぜだろう……嫌な予感しかしない。そして、残念なことに僕のこういった予感は往々にしてよく当たるのだ。


「おい、聞こえているのは分かっているんだぞ! ほら、さっさと俺の話を聞けよ!」


「はぁ……うるさいな。そんなに叫ばなくても聞こえているよ」


「お、ようやく反応してくれたな」


 僕はため息まじりに、いかにも仕方なくといった感じで返事をする。


 僕の前に現れた幽霊はまあ典型的なタイプで、足がなく、空中にふわふわと浮いている幽霊だった。見た目的にはかなり若く見える。いつ亡くなったのかは定かではないが、おそらく今の橘とそう変わらないくらいの年齢で亡くなってしまったと思われる。そう考えると、この目の前の幽霊に対して少しだけ感じ入るものはあった。


 詳しく話してみないとわからないけれど、おそらく今のところは人間に危害を加えるような感じにも見えない。


「まあ、あくまで『今のところは』って話だけどな」


 僕はそうつぶやくと、幽霊の方へ向き直り、


「それで? あなたはどうしてここに来たんですか?」


 と、単刀直入に切り込んだ。


「お、俺を……」


「――?」


 一瞬、目の前の幽霊は躊躇したように見えたけれど、その後気を取り直して、




「頼む、俺を成仏させてくれ!」




 と、懇願した。


 ……ほら見ろ、やっぱり僕の嫌な予感は当たったじゃないか。

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