第23話 初恋の悪霊1

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 ――ふと考えてしまうことがある。


 はたして、僕と橘はいつまで一緒にいられるのだろうかと。


 まあおそらく、ここでの一番現実的かつシビアな答えは、数年もしないうちに僕たちが別れてしまって、共に別々の人生を歩むというものだろう。


 もっとも、僕と橘のような特殊な環境下にある人間がそれぞれ別の道を歩んでしまった場合、その人生の傍らで迷惑を被る人たちの数がおおよそ二倍に膨れ上がってしまうわけで、それはきっと社会的に見るとあまりよい結果ではないだろう。そういう意味では、僕と橘の恋人関係が続いていくかどうかという問題は世間様に大きな影響を及ぼす課題であると言えなくもない。オゾン層の破壊や地球温暖化と同じくらい社会的には悪影響を与えることに定評のある僕たちカップルである。


 なにより、仮に僕たちが別れてしまったとして、その後お互いが別々の恋人を作ることは人間性の面からみても、環境的な面からみてもおそらく不可能だろう。ゆえに、僕と橘にとって破局とはすなわち一生一人で生きていくということとほぼ同義だ。


 でも客観的に見て、初めてできたカップルがその後一生続く確率など限りなく低い数値で、その統計値を参考にするならばきっと僕らもどこかで一緒にはいられなくなることが予想されるのだけれど、しかし、そんな僕の見解に対して恋人である橘は、


「そういうのって結局上手くいかなかった人たちの負け惜しみだと思うんですよね。『私たちが上手くいかなかったわけじゃないんです。初めての恋はそもそも実らないものなんです』という具合にね」


 と、飄々と言ってのけるのだ。


 なるほど確かに橘の言う通りなのかもしれない。得てして人は自分の期待や願望を表す言葉を信じやすいもので、だからこそ『努力は裏切らない』とか『初恋は甘酸っぱい』とかそういった言葉が世間的な常識となるのだろう。


 ――多分、僕が想像するに、ずっと同じ人を想い続けるということは体力がいるのだ。


 どんなに相手のことが好きでもやっぱりいつかはその相手に飽きてくるもので、だからこそ長く一緒に居ようと思えば、相手が好きであり続けてくれるようにそれなりの努力や変化が必要なのだろう。


 ――しかし残念ながら大抵の人はきっとそれが億劫になってしまう。


『ありのままのあなたが好き』と、相手がそう言ってくれるからといって自分を磨くことを、変化し続けることをおろそかにしてはいけない。『ありのままの自分』を好きになってくれたとしても『ありのままの自分』を変化させていくことを怠っていては、相手はいつか離れていってしまう。

 まあこれに関しては単に僕がそうなってしまうことを怖がっているだけなのかもしれないけれど。


 とはいえ、結局のところ初めて好きになった人をその後何年もずっと好きであり続けることはやはりなかなか難しいということは紛れもない事実なわけで、しかし僕はそんなことを考えていると、いつも彼のことを思い出す。


 自分が変わることは許されず、それでも一途にただ一人の女性のことを想い続けた彼のことを。想い続けても決して報われず、変わり続ける彼女に対して変わらぬ想いで傍に寄り添い続けた。そんな彼のやっていたことはきっと世間的に見るとあまり褒められたことではないのだけれど、それでも僕はそんな彼のことを少しだけ羨ましいと思ってしまうのだ。


 彼くらい純粋に、情熱的に、見返りを求めず、そしてまっすぐに、ただ一人の女性だけを愛し続けた彼のことを、僕はどこか羨ましいと思わずにはいられないのだ。


 ――あの初恋に憑りつかれた悪霊のことを。

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