第16話 メデューサの恋7
007
真夜中の病院はどこか不気味だ。
もちろんそんな場所に好き好んで近寄りたいわけもなく、それはメデューサにとっても例外ではないはずだけれど、そんな夜の病院に今日も彼女は立ち寄る。
『今日も』という言い回しから分かるように、彼女がここを訪れるのは何も今日が初めてというわけではない。彼女は何度もここを訪れていたし、もっと言えば彼女はこの半年くらいはほぼ毎日通っているようだった。
しかし、彼女は決してここに入院している患者の親族というわけでもなければ、もちろんこの病院で働いているわけでもない。彼女がこの病院を訪れる理由は――
「あ、石井さん! 今日も来てくださったんですね」
病院の中庭にあるベンチに座っていた男がメデューサに声をかける。『
「……こんばんは、
少し頬を赤くしながらメデューサは夏目と呼ばれた男と挨拶を交わした。その表情やしぐさはまるで恋する乙女のようで、彼女が神話にも登場した高貴な存在であることなど、今の彼女の姿からは誰も想像できないだろう。
いや、恋する乙女『のようで』はなく、まさに今のメデューサは恋する乙女そのものだった。
「今日は天気がいい『みたい』ですね。空気がとても気持ちいい」
そんなメデューサの気持ちに気付いているのかどうかはわからないけれど、夏目はメデューサに優しく微笑みかける。
「ええ、今日は星がとても綺麗ですよ」
夜の病院は静かで、二人が座っているベンチの周りには誰も人がいなかったけれど、二人の周りにはどこか穏やかな時間が流れていた。
ここでふと疑問に思う。――夏目はなぜ石にならないのか、と。
しかし、その疑問は意外とあっさり解決できた。まあ『できてしまった』とでも言うべきか。
よく見ると、メデューサと話す夏目の右手には杖が握られており、どこかで見たことのあるそれは――白杖だった。
「そうですか。いつか僕も見たいな」
「大丈夫ですよ。きっと手術が成功すればいつでも見られるようになります」
「成功したら石井さんも僕と一緒に星を見てくれますか?」
「……ええ、もちろん」
きっとそれは優しい嘘だった。間違いなくその言葉には優しさしか含まれていないはずなのに、そんな返答をした彼女はどこか罪悪感に苛まれたような表情をしていた。
「そうですか。楽しみですね」
そんなメデューサの隣で夏目は空を見上げて笑う。
空には満点の星空が広がっていて、先ほどまでは不気味な雰囲気しか発していなかったはずのこの場所がとても神秘的な場所であるかのように輝いて見えた。
星から届く光と、それよりも強い月明かりが二人を照らしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます