第14話 メデューサの恋5

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 一応は管理者として、メデューサのような存在をノーマークで野放しにはできないものの、とはいえどう見ても害がありそうな感じにも見えないので、とりあえず今日のところは帰ってもらうことにした。


「放っておいていいんですか?」


 メデューサが公園から去った後、橘がぽつりと僕に尋ねた。


「まあおそらく大丈夫だと思うよ。特に人間に対して害をなす感じでもなかったし、それに彼女の話を信じるのなら近々この町から出て行ってくれるらしいからな。わざわざここで事を荒立てる必要もないだろ」


 あの後、少し話してみたところ、メデューサがかけていたメガネには特殊な力が付属しているようで、メガネを通してであれば相手の目を見ても問題ないらしい。僕が石化してしまったのはメガネのない状態で目を見てしまったからなのだとか。


 まあそれでもメガネの隙間から目が合ってしまうとやはり石になってしまうようで、やはりこの対策も完璧であるとは言い難いらしい。


 誰かと目を合わせることすらできない――そんなメデューサに対して僕が少し同情にも似た気持ちを抱いてしまってもそれは決して責められるものではないだろう。


「優しいんですね」


「何でもかんでも倒せばいいってものじゃないよ。基本的には話し合いで解決できるに越したことはないさ。基本的に僕は平和主義者なんだ」


 と、突如隣に立っていた橘が僕にめがけて手を伸ばしてくる。


「――危な!? え、何? 今度はどうしたの!?」


「私以外の女に優しくしないで」


「理不尽!?」


 ……いや、そんな無茶苦茶なこと言われましても……。


 とはいえ、実際橘の言う通り、メデューサがこの近辺に存在しているということを知ってしまった以上、手放しで放置するのはさすがにまずい。


「なぁ橘、ひとつ聞きたいことがあるんだけどいい?」


「私のバストはDカップですよ」


「違ぇよ!! 残念ながら僕は命を落としてまで君の胸を触るほどの覚悟もないし、そもそも君の胸にはそれほど興味がないんだ」


「知ってますよ? 吸血鬼さんは脇に興奮するんですよね?」


「…………」


 沈黙は決して肯定の意を示したわけではない。絶対に!


「そうじゃなくてさ、その……女性をストーキングするときのコツとか教えてほしいんだけど」


「吸血鬼さん、喧嘩を売っているのなら時価で買いますよ?」


 気のせいか、僕を睨みつける橘の目からはハイライトが消えているようで、なるほど本当にヤンデレは目つきが変わるんだなと僕はどこか遠くでしみじみと感じ入っていた。


 とはいえメデューサの様子を調べる上で橘のストーキングスキルは必須なので――


「――? どういうつもりですか、吸血鬼さん?」


「橘、今晩は僕を好きにしていい」


 と、僕は橘にそう宣言すると、何の抵抗もしないということを示すように両手を大きく広げた。


「ぐっ!? そんな卑怯な手を!? まさか今夜に限っては吸血鬼さんにあんなことをしたり、こんなことをしたり、〇×△◇※したり、ピーーー(放送禁止用語)したりしてもいいだなんて……。でも、でも吸血鬼さんが他の女のストーカーになってしまうなんてそんな……」


 いや、さすがに〇×△◇※したり、ピーーー(放送禁止用語)したりするのは勘弁してほしいけども……。


 その後も橘は僕には計り知れないほどの壮絶な葛藤を終え、まるで苦虫を嚙み潰したかのような悔しさ満載の表情を浮かべながら


「いいでしょう。その代わり……今日は私の好きにさせてもらいますよ?」


 そう言って舌なめずりをする。


 あ、僕今日死ぬかも……。


 まあ実際には一回や二回死ぬ程度では済まないのだろうけれど、僕は覚悟を決めて両手をさらに大きく広げる。


「吸血鬼さん大好き!」


 橘に抱きつかれ、体が消滅するところから地獄へのスタートコールが鳴る。

 残念ながら夜はまだ始まったばかりだった。

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