第6話 死を呼ぶ少女6

006


 大学生になった途端、一限目の授業に出ることができなくなる現象に誰か名前を付けてほしい。


 そんなことをぼんやり考えながら、僕は鳴り響く三つの目覚まし時計を止める。


 僕にしては珍しく今日は一限の授業が入っており、まるで太陽の下に出たゾンビのごとくふらふらした足取りで朝の支度を済ませた。まあ実際にはゾンビではなく吸血鬼なのだけれど。


 ――ピンポーン。

 と、今まさに僕が家を出ようとしたタイミングで玄関のチャイムが鳴った。


「……誰だ? こんな時間に?」


 僕は首をかしげながら『ガチャリ』とドアを開ける。すると、


「吸血鬼さん、おはようございます。今日はいい天気ですね。ほら、早く学校に行きましょう」


 と、さわやかな笑顔を浮かべて橘が僕の部屋の前に立っていた。


「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………間違えました」


 僕は自分の部屋のドアを開けておきながら、そんな意味不明な一言を言ってゆっくりとドアを閉めようとした。


 いや、本当にこれに関しては自分でも何を言っているのかわからないけれど、ようはそのくらい動揺したということで……


 ――ガシ!


 と、完全に締め切る直前、閉めようとした玄関のドアを強い力で掴まれた。


「もう、何を言っているんですか吸血鬼さん、ここは吸血鬼さんの部屋なんですから間違っていませんよ?」


 橘は終始笑顔のまま扉をこじ開けようとする。


「いやいやいやいやいやいや、怖すぎるだろ! ていうか何で僕の家を君が知っているんだよ!?」


「誤解です! たまたま知らない部屋のインターフォンを押したら吸血鬼さんが出てきたんです。……私たちの愛がなせる奇跡ですね!」


「ふざけんなこのストーカー!! 『たまたま知らない部屋のインターフォンを押したら』なんてパワーワード使っておきながら誤魔化せると思ってんじゃねぇよ!! せめてつくならもう少しまともな嘘をつけ!!」


 なぜか頬を赤らめながら愛(??)とやらを語るストーカー女に向かって僕はひたすらキレ倒した。


「分かりました。じゃあ正直に言います。お察しの通り、昨日の夜に公園で別れてから吸血鬼さんの後をずっとつけていました。はい、正直に言いました! だから、このドアを開けてください」


「開けるわけがないだろ! 何でこの流れでいけると思ったんだ!」

それと細かいことを言わせてもらうなら、昨日は公園で『別れた』んじゃなくて橘に殺されているうちにいつの間にかいなくなっていただけだからな!


「あと正直に言ったついでに言わせてもらいますけど、好きです!! 私と結婚を前提に付き合ってください!!」


「だから何でこの流れでいけると思ったんだ! 頭おかしいのか!?」


「それは自覚しています」


「マジかよ、認めちゃったよ!?」


 その後もしばらくの間、僕たちはドアの前でこんなやり取りを繰り返した挙句、最終的にご近所様からクレームが入って、僕が嫌々ドアを開けたのはそれから十分ほど経った後だった。

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