第2話 死を呼ぶ少女2
002
――不老不死。
人類の夢であるそれを条件付きではあるものの、僕たち吸血鬼はすでに手にしている。……まあ僕に関して言えば、それも夜限定の話ではあるのだけれど。
不老不死は人類の夢ではあっても、吸血鬼にしてみればそれはもはや日常であり、もっと言えば、吸血鬼にとっては死すらも身近な存在となっている。
「あら? もしかしてあなた吸血鬼なんですか?」
その女性は間違いなく僕の命を奪ったにもかかわらず、そんなことよりも僕がすぐに再生したことに心底驚いているようだった。――まるで、彼女にとっても死は日常なのだといわんばかりに。
「まあ一つだけ言わせてもらえるなら、私の場合にはあなたとは違って、誰かの命を奪うことが日常なんですけどね」
そう言うと、僕の命を奪った彼女はそのまま何をするでもなくただそこに立っているだけだった。
「それに関しては僕も人のことは言えないけれどね……とはいえ、故意ではなかったようだけれど一応殺害してしまった僕に対する謝罪の言葉とかはないの?」
僕がそう尋ねると彼女は少し首をかしげて
「……私、最初に『すいません』って言いましたよ?」
と、まるで悪意のない表情で答えた。
「え? あれってそういう意味の『すいません』だったの!?」
……いや分かるか、そんなもん。というかこいつは『すいません』の一言で僕を殺すつもりだったのか。
目の前にいるやつは相当ヤバいやつだということを心の中で再確認しながら、体が完全に再生したことを確かめると、僕は少し肩のあたりに着いた埃をはたきながら立ち上がる。
「えっと……名前を聞いてもいいかな?」
先ほどは俯いていたのでよく見えなかったけれど、ちゃんと見てみると、彼女はとても美しい容姿をしていた。
夜に紛れてしまうような漆黒の髪は腰の位置まで伸びており、それが彼女の高貴さや美しさをさらに際立たせていた。
「深夜に女子高生の個人情報を尋ねるなんて、訴えられたらまず勝てませんよ?」
彼女が果たしてどこまで本気で言っているのか、正直僕にはわからなかった。
「いや、訴えるって……こうやって普通に話していると忘れそうになるけれど、僕は君に一度殺されているんだよ?」
まあ死者蘇生した人間に対して殺人罪が適応されるのかは微妙なところではあるけれど。……そもそも今は人間ですらない。
「……メイ」
「――?」
僕は首をかしげる。
「何をぼけっとしているんですか? 吸血鬼さんが聞いてきたんでしょう?」
どうやら遅れて彼女は自分の名前を名乗ってくれたらしい。
「名前を聞かれて下の名前から答える人もなかなか珍しいような気がするけれど」
そのあたりから彼女のコミュニケーション能力の低さが伺える。……どうしてだろう、何だか仲良くなれそう。
「……何か失礼ことを考えてませんか?」
「気のせいだよ」
その一方で、こんなに綺麗な容姿をしておきながら、社会になじめないのは間違いなく人間的に何か問題があるのだろうということも薄々勘づいていた。……悲しいかな、自らも社会不適合者予備軍なので分かってしまう。
フォースを持つ者同士が引かれ合うかどうかは知らないけれど、僕の経験則上、いかんせん社会不適合者同士は引かれ合う運命にあるらしい。こればかりは辛いけれど、受け入れるしかない。
「
どうやらそれが彼女のフルネームらしい。月並みだけれど、なんだかとても綺麗な名前だと思った。
「僕は
僕も橘の言い方に合わせて簡単に自己紹介をする。
「へー、吸血鬼さんってわかりにくい名前なんですね」
僕が橘の名前を高評価したのとは対照的に、どうやら橘からすると僕の名前は不評だったようだ。……ほっとけ。
「橘さん? っていくつなの? どう見ても僕よりは年下に見えるけど?」
僕はまた橘に尋ねる。しかし橘の言った通りではないが、こんな夜中に未成年と話しているところを誰かに見られでもしたら即人生終了のお知らせだ。きっとブタ箱行きの未来が待っているだろう。
「え? 吸血鬼さん私の年齢聞いてどうするつもりなんです? もしかしてロリコ――」
「――僕はロリコンじゃない!」
僕は食い気味に否定する。だって事実として僕はロリコンじゃないからね!
「というか橘さん、さっき自分で『女子高生』だって言ってたじゃないか」
「あら? そうでしたっけ?」
また首をかしげる橘。
「お察しの通り私、橘鳴は十七歳の高校二年生です。JKですよ、JK!」
なぜかやたらとJKを強調してくる橘。まるでそれが自分に残っている最後のブランドだと言わんばかりに。
……大丈夫だって。君、美人だから普通にやっていけばきっとモテるって。きっとリア充になれるから頑張れよ。
「ちなみにそんな吸血鬼さんはおいくつなんですか?」
橘は狙ってやっているのか、それとも生まれ持った育ちの良さなのかはわからないけれど、とても上品そうなしぐさで僕に尋ねた。
「今年で二十歳だよ。今は大学二年生」
僕は素直に答える。
「あら? やっぱり先輩だったんですね」
そう言うと、橘は特に興味もなくなったのか、話は終わりだといわんばかりにスタスタとブランコの方に歩いて行って、そのままブランコを漕ぎ始めた。
「いやいや、ちょっと待って」
僕は慌てて引き留めようと橘の腕を掴んで――
「あ……」
そしてまた意識が遠のいていった。
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