暗躍する皇女。
シャオランにとって、妹が帰って来てしまったことはまだいい。
そんな事よりも重要な事がある。
妹が帰って来たという事は放った暗殺者達がすべて返り討ちにあったという事だ。
問題は、その暗殺を企てたのがシャオランだと気付かれているかどうか。
気付いていなければどうということはない。
しかし、万が一にも気付かれていたとしたならば……。
シャオランは妹の報復を恐れた。
リンロンが本気で姉を殺そうと思えばすぐにでも殺される。抵抗すらする間なくこの命は終わるだろう。
恐怖を感じる暇も無いかもしれない。
痛みを感じる暇も無いかもしれない。
それなら、自分の命が刈り取られた事にも気付かずに終わる事が出来るかもしれない。
だとしても、私は死にたくなどない。
仮に他者を屠る事でしかこの命が存続できないのなら、この大地を死体で埋め尽くそう。
逆らう者がいなくなるまで殺せばいい。
アレが完成すれば私に敵はない。
神ですら滅ぼせる。
何せ、神の力なのだから。
「皇女様、お呼びですか?」
彼女の自室を訪ねてきたのはフェイという老人である。
齢既に八十を過ぎているが、すらりとした体はまだしっかりと直立し、きっちりと整えられた服装、そしてオールバックの白髪と、年齢に似合わない清潔感を漂わせている。
彼はシャオランが幼い頃より身の回りの世話をしてきた。
現在は彼女の執事のような役割を担っていて、シャオランが唯一心を許した人間である。
「ウォンの方はどうなってるかしら?」
「せがれは皇女様に最大の結果を残してみせると息巻いていますよ。……しかし、私には難しい事はわかりませんが本当に大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ。アレは最大限利用してやるわ。私の切り札としてね」
現在シャオランは、神アルプトラウムにも内密である研究を行っていた。
このロンシャンに古くより伝わる神々の神話……その中に金毛九尾というのがいる。
黄金色に輝く体毛、そして九つの尾を持ち、その力はたやすく一国を滅ぼせるほどだ、と。
今では金毛九尾は死んだとされているが、彼女は見つけてしまったのだ。
正確には彼女が責任を任せられている鉱山の中で、鉱夫が発見したものだがシャオランはその報告を自分の所で握りつぶした。
王には秘密、妹にも秘密。
自分だけの切り札として利用する為に。
彼女が鉱夫の案内で目にしたものは、巨大な獣のミイラだった。
その体から九つの尾が見えた時、彼女は狂喜乱舞した。
そんな隠し玉があるというのにアルプトラウムの提案を飲んだのは、まだその利用法が確立できていない事と、自分だけの切り札を明かしたくなかったからだった。
現在九尾の活用法を模索しているのがロンシャンの技術顧問であるウォン。執事であるフェイの息子にあたる。
ウォンは野心を持ち、常に成り上がろうとする上昇志向の持ち主だったため、そこをシャオランに付け込まれ、今に至るのだが、ウォン本人は地位と名誉と金のだめならば何でもする類の男だった。
完璧と言ってもいいほど紳士なフェイとは大違いである。
「フェイ、これをウォンに渡してくれる?」
シャオランは手のひらサイズのガラス玉をフェイに手渡した。
「これは……確か先日発掘された物ですよね? どうされたのです? あんなにも興味深そうにしていたではありませんか」
「いいのよ。確かに強大な魔力を感じるのだけれど使い方が分からないし、それを引き出す術がないもの。貴方の息子が何か役に立ててくれればそれでいいわ」
「かしこまりました。そういう事でしたら預かりましょう。確か息子が以前作ったカラクリの動力を探していたのでもしかすると使えるかもしれません」
「もし有用そうな物が出来たら私の所へ持ってくるよう伝えて」
「はっ。確かに伝えておきます」
使える手駒は多い方がいい。
切り札はいくつあっても困らない。
ディレクシア……いや、ユーフォリア大陸全土と神をまとめて打ち滅ぼそうと企むシャオランは、もはや世界を手に入れたような気持ちになっていた。
そしてその翌日、ロンシャンはドラゴンの群れに襲われる事となる。
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