中編
「ワシは人殺しの
「おじいちゃんは頑張ったじゃないか」
僕は祖父が気の毒で慰めたが、彼には聞こえていないようだった。
「毎日少しづつ国民が
「仕方ないよ、おじいちゃんのせいじゃない。時代のせいだ」
相変わらず僕が言うことは全く届いていないようだ。
「戦争が終わり、日本は原爆による被害者となり、国によって犯した残虐行為の記憶を脇へ追いやり、ワシら個人に責任を押し付けた。なぜなら、直接手を下したのはワシらだからだ。国はぼろぼろの日本に良い社会を築くために無理にでも悪いことを忘れ去らなくてはならなかった。それが正義でないとわかっていても。そしてワシは戦争で人殺しをしてきたことへの償いもしないまま、ただただ機械のように無感動に家庭を築き、仕事をして耐えてきた。周り人間と同じように自分がしたことを忘れたかったが、どうしてもできなかった」
「おじいちゃん…」
僕はあまりに彼が可哀そうで肩を撫でようとしたが、すり抜けるばかりだった。
もっと早くこの話を聞いてあげていれば、僕の家はあんなふうになっていなかったかもしれない。僕は自分を責めた。
「約束をする人を信じてはいけない、それがワシが一生をかけてわかったことだ」
彼はそう言って、墓石の横にのそのそと
祖父が30年前に首を包丁で掻っ切って亡くなった場所に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます