中編

「ワシは人殺しの機械オートマタになった。そうしないと生きていけなかったんだ。国も周りもそれを望んでいたし、足を負傷して帰国しても、村の者から国の為に頑張った、偉かったと褒められた。悪い事をしたとは思ったことがなかった。戦争が終わるまではな」と祖父が言った。


「おじいちゃんは頑張ったじゃないか」


 僕は祖父が気の毒で慰めたが、彼には聞こえていないようだった。


「毎日少しづつ国民が自動的オートマチックに洗脳されていった。自分たちの前に素晴らしい前途が拓けていると毎日のように聞かされ、幸せになれると信じていたんだ。もちろん最初は国からの押しつけや検閲から始まったのに、いつの間にか国民が自発的にお互いに監視し合う社会が出来上がった。それもあっという間に…ワシはそんな仕組みに気が付かず、国や周りの言うままに海の向こうに行ってまで人殺しをしてきた」


「仕方ないよ、おじいちゃんのせいじゃない。時代のせいだ」


 相変わらず僕が言うことは全く届いていないようだ。


「戦争が終わり、日本は原爆による被害者となり、国によって犯した残虐行為の記憶を脇へ追いやり、ワシら個人に責任を押し付けた。なぜなら、直接手を下したのはワシらだからだ。国はぼろぼろの日本に社会を築くために無理にでも悪いことを忘れ去らなくてはならなかった。それが正義でないとわかっていても。そしてワシは戦争で人殺しをしてきたことへの償いもしないまま、ただただ機械のように無感動に家庭を築き、仕事をして耐えてきた。周り人間と同じように自分がしたことを忘れたかったが、どうしてもできなかった」


「おじいちゃん…」


 僕はあまりに彼が可哀そうで肩を撫でようとしたが、すり抜けるばかりだった。


 もっと早くこの話を聞いてあげていれば、僕の家はあんなふうになっていなかったかもしれない。僕は自分を責めた。


「約束をする人を信じてはいけない、それがワシが一生をかけてわかったことだ」


 彼はそう言って、墓石の横にのそのそとうずくまる。

 祖父が30年前に首を包丁で掻っ切って亡くなった場所に。

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