第8話【二度目の里帰り編】
「間もなく山形です。
新幹線の車内アナウンスを聞きながら、荷物棚のキャリーバッグを降ろし、先程まで見ていた携帯をベルトポーチに入れる。代わりに切符を手元に用意すると、駅に到着するまでの僅かな時間を待ちわびた。
山形着15時50分。兄がホテルに来れるのは18時過ぎになると言っていたから、それまで2時間弱は、ゆっくり色々と用意できそうだ。
あのYouTubeセフレ暴露事件以降(サリーさんが面白がってそう呼んでいる)、俺と兄は、二人きりで会うのを、実家に行く前にするか後にするか話しあった。
『やっぱり
『んだげんと、わざわざ前の日あんにゃおらとホテル泊まっていぐって、おがぢゃんに変さ思われですまうんでね?』
『大丈夫、真由も協力すてくれるす、慎司は何も心配すねで、そのまま朝一緒にうぢに行げばいい』
真由ちゃんの協力は有難いが、兄が嘘をつくのが苦手だと知っている俺は、かなり不安になった。
『やっぱり俺とあんにゃが家に行ぐのは別々の方がいいど思う。今度はちゃんとバスの時間調べで、夕方ぐれに実家着ぐようにすっから、あんにゃは朝一人で先さ帰ってくれる?』
『わがったよ、んだげんと迎えに行ぐぐらいどうってごどねんだがら、何時さ寒河江着ぐが必ずラインすてな』
冷静に考えてみれば、兄は二度手間になるし、母は夜泊まりがけで出かける兄を不審に思うだろうし、二人でホテルに泊まるのは、俺が帰る時にした方が無難だ。だけど俺も、里帰りが予定より遅くなってしまった分、早く兄に会いたかった。
というのも、まだ兄には言っていないのだが、突然、今年の9月いっぱいでお店を閉めることになり、そのための手続きに追われ毎日が目まぐるしいほど忙しく、ようやく今日、8月30日から9月3日まで、遅い盆休みを取って山形に来ることができたのだ。
(あーもう、早く会いたいけど久しぶりすぎて緊張する!!)
妙な高揚感に駆られ心の内で叫んでいると、山形駅到着のアナウンスが流れてきて、俺はキャリーを引き乗車口へ向かった。
ホテルの部屋に入ってすぐ、窓から一望できる、美しく澄んだ青空と山形の街のコントラストにしばし見惚れる。兄は霞城セントラルの中でもいい部屋をとってくれたようで、室内も清潔感があってとても綺麗だ。だけど、部屋に一つだけある大きなダブルベッドが目に入ってき途端、ひどく動揺した。
誘われた時は喜びで胸がいっぱいだったのに、いざその時が近づいてくると、果たして兄に男が抱けるのか不安になってくる。自分でもネガティブすぎと思うのだが、この期に及んで怖気付いている原因は、昨夜兄から来たラインにもあった。
「明日は女装すてぎなよ。おらも女の格好すてる慎司ど食事でぎだら嬉すい」
多分兄は、特に深く考えず送ってきたのだろう。自分も女装は好きだし、女の格好で兄とデートできるのは嬉しい。でもふと考えてしまったのだ。兄も本当は、俺が女の子の方が嬉しいのかなと…
例えば俺が妹で、血の繋がりはなくずっと両思いだったとわかったら、俺は兄のお嫁さんになれたかもしれない。俺が女だったら、人目を気にせず、手を繋いでデートしたり、腕を組んで歩いたり、考えだしたら止まらなくなって、もうとっくに受け入れたはずの、自分は男であるという事実が、今更のように、心に深く影を落とす。
(あーもう悩むのやめやめ!せっかくあんにゃとデートできるんだから、気合い入れて女装しよう!)
頭を振って気持ちを切り替え、キャリーバックから出したメイク道具や服を使いやすいように整理すると、俺は、夜の準備をするためバスルームへ向かった…
はずなのだが、ハッと気がつくと、俺はなぜか、うつ伏せ状態でベッドの上に寝転んでいる。
(あれ?俺今何やってる?確かシャワー浴びて、バスローブ着て、化粧水で肌整えて…)
一つ一つ辿っていた記憶が、頭を撫でられる感触で中断した。
「起ぎだが?」
頭上から響く、低く心地いい兄の声。いつもならうっとりするところだが、今の俺は、ショックすぎてそれどころではない。
全部思いだした。化粧水の後、俺は、慢性的な寝不足と疲れから、突然とんでもない眠気に襲われ、少しだけのはずが本気寝してしまったのだ。
「ごめん、何度が電話すたんだげど全然でねがら心配で入ってぎだっけよ。よぐ寝でだがら起ごさね方がいいがなど思ったんだげんと、レストランの予約7時だす、そろそろ起ごすた方がいいがなど思って」
自分のあまりの失態に、中々動けずにいる俺の頭を撫でながら、兄は心配そうに尋ねてきた。
「どうすた?やっぱり体調悪いのが?もすレストラン行ぐの無理そうだったらキャンシェルすて」
「違うよあんにゃ!大丈夫!電話全然気づかないで眠っちゃっててごめん」
俺は慌てて身体を起こし兄に謝る。顔をあげ、ようやく会えた兄は、シャツにジーンズというシンプルな格好なのに、相変わらずめちゃくちゃカッコいい。だからこそ余計に、風呂上がりの気の抜けた姿でいる自分が恥ずかしかった。
恋人になって久々の再会。せっかくメイクもコーデもばっちり決めて、兄が望む完璧な女装でデートにのぞもうと思っていたのに…自分にガックリしていると、兄が突然、俺の身体を強く抱きしめてくる。
「やっと会えた…」
熱のこもった声でそう囁かれたら、頭の中で考えていた全てがどうでもよくなった。再会のキスがしたくて兄を見つめると、兄は爽やかな笑顔を浮かべ俺に言う。
「慎司も腹減ってんべ?おらも今日仕事終わって何も食わねで来だがら楽すみにすてんだ」
どうやら兄は今、色気より食い気らしい。
「待ってで、今急いで化粧すてすまうがら」
「あー、別にそのままでいいぞ」
「え?でもあんにゃ女装すてぎでくれたら嬉すいって」
「あー、慎司前にYouTubeで、女装すてる時の方が本当の自分で感ずするって言ってただべ?真由、おらから言わねど慎司さん遠慮すて女の子の格好でぎねんでね?って言ってぎだがらラインすたんだげんと、おらは本当はどっちでもいいんだよね」
兄の言葉を聞いて、俺は心からホッとし、二人の優しさに心が温かくなる。
「そっか、じゃあどうしよっかな」
少しの間悩んで、俺は、せっかくだからと、今日は女装して兄と食事することに決めた。
「美味すいっけねえ、楽すいっけねえ」
「慎司今日飲みすぎでねが?大丈夫が?」
「大丈夫!水商売やってるオネエなめんでね!」
「なめでねよ」
食事を終え、覚束ない足取りで歩く俺を、兄が心配そうに支える。大丈夫と言いつつ、いつもより少し飲み過ぎてしまった自覚はあり、今日の出来事も含め、俺は一人心の中で反省していた。
最初はとても楽しかった。兄が予約してくれたお店は個室があり、平日だからか人も少なく夜景も綺麗で、何より、兄と二人でお酒を飲めることが嬉しくて。
『あの、もすかすて昔テレビに出でだオネエタレントのミサさん?おら芸能人初めで生で見だんだげんとほんてん綺麗だね!あ、ごめんなさい、デートのお邪魔すてすまって』
でも途中、店員のおばちゃんに声をかけられてから雲行きが怪しくなり、俺は咄嗟に聞かれてもいないのに言ってしまった。
『あ、自分達家族で兄弟なんです、実は今里帰り中で』
心配しすぎかもしれないけど、もしツイッターで、元オネエタレントが県外で男とデートしていたなんて流されたら兄にまで迷惑がかかるとか、家族だと言っておけばデメリットは少ないかもとか、色々考えてしまったのだ。その後、その店員さんがテーブルに来る事はなかったけど、俺自身、もう声をかけられる事も少なくなっていたから、油断していた部分もあったと思う。
ホテルの部屋に辿り着き二人きりになると、俺はすぐ兄に謝った。
「なんかごめん、おらが女装すてだしぇいで店員さんに気付がれですまって、あんにゃにまで変な気使わしぇぢゃって」
すると兄は首を横に振り、俺の頭を撫でてくる。
「全然気なんて使ってねよ。おらはミサ姉な慎司どもデートでぎで嬉すいっけ」
言いながら抱きしめられて、心がジンワリと癒されていく。でもそれ以上に、自分の身体か不純な熱も帯び始めていることに気づいていた。今度こそ、このまま何も考えられなくなるくらい抱いて欲しい。ただ、俺は臆病だから、もう一度だけ兄の気持ちを聞きたくなった。
「あんにゃ、おら今日は本気で、兄弟である事超える覚悟でぎだんだげんと、あんにゃは
「今更何言ってんだおめは!」
兄は強い口調でそう言うと、俺の手を引きダブルベッドに座らせる。戸惑う俺の隣に腰掛け、最近買ったという、俺のより少しゴツくて大きめのベルトポーチの中から、綺麗にラッピングされた小さなケースを取り出した。
「これ」
「え?」
「おめ、先週8月23日誕生日だったべ」
照れくさそうに笑う兄を見つめ、俺は驚き目を見開く。
「本当は食事の時さ、ドラマみだいに渡すたがったんだんだげんと…」
「ありがとう!開けていい?」
「うん」
ケースの中に入っていたのは、碧色に輝くペンダント。俺は見てすぐに分かった。
「ペリドット?」
「あー、おらはよぐ知んねんだげんと8月の誕生石なんだべ?芸能人だったおめからすたら安物がもすれねげど」
「ほだなこどねよ!つけでみでいい?」
「もぢろん」
諸説色々あるけれど、俺は8月の誕生石の中でこの石が一番好きだ。
芸能人になってから、自分へのご褒美にと初めて入ったシャネルで、ゴールドのココマークにペリドットが輝くピアスを見た時、俺は故郷の青々とした夏の稲穂を思い出し、懐かしい気持ちでそのピアスを買った。アンナには、シャネルで田んぼ思い出すって!と笑われ、サリーさんには、あんた顔派手だからもっと濃い宝石の方が似合うわよと散々な評価だったが、俺は今も、あの日買ったピアスを大事に持っている。
でも、兄がくれたこのペンダントは、今まで買ったどんなに高いアクセサリーよりも大切な宝物になるだろう。
「どうがな?」
「凄く似合う」
「ありがとうあんにゃ、大切にするね!」
嬉しそうに頷く兄の顔が近づいてきて、ずっと待ち望んでいたその唇が、俺の唇に重なる。深くなる口付けと共にベッドにゆっくりと押し倒され、兄の肌の熱さと、俺とは骨格も厚みも違うズッシリとした重さを感じ、全身が歓喜に震えた。
だけど、兄の手がいきなりスカートの中に入り、もう既に反応している俺のそこに触れてきた時、俺は思わず、ノンケなのにいきなりそこから!と驚く。
今日の俺は、襟の大きく開いたゆったりめのブラウスに、足のラインが綺麗に見える黒のロングスカートを履いているのだが、兄は遠慮なしに捲り上げ、メンズ用のTバックを脱がしてくる。キスで舌を絡めたまま、直接そこに触れて上下に扱いてくる兄の躊躇うことのない激しい愛撫に、すぐに何も考えられなくなった。
「ハッ…アッ…」
「慎司…こうすておめに触りながらキスすたぇってずっと思ってだ」
キスの合間、情欲と興奮を孕んだ声で囁かれ、それだけでイきそうになってしまう。ズボン越しにあたる兄のそこも、明らかに昂っていて、煽られるように兄のベルトを緩めようとすると、兄は体を起こし、自ら服を脱ぎ捨てる。
再び俺の上にのしかかってきた兄は、まだ身に纏っていた俺の服も全てはぎとり、危ないからとネックレスも外された。そのまま互いの身体の感触を確かめるように、強く抱きしめ合う。
布越しではない裸の肌に、身体の芯が疼いて発火するんじゃないかと思うほど欲情する。互いのそれを夢中で扱いていると、兄のもう片方の手の指が、胸の先端を無遠慮に摘み、噛み付くように強く吸われた。
「アッ…」
快楽の中に微かな痛みも感じたけれど、兄が激しく自分を求めてくれることが嬉しくてたまらない。乱暴でもいいから、兄の思うまま、無茶苦茶に犯して欲しいと望んでしまう。でも、兄の手が、前から後孔へと回り込んできた途端、俺はふと我に返った。
(あーでも、この勢いのまま入れられると久しぶりだしキツいかも)
しかも、シャワーを浴びた時洗浄もして、夕食も食べ過ぎないように準備はしておいたのだが、男同士の時に使うジェルは、鏡台の引き出しに入れっぱなしだったことに気づく。自分の初歩的なミスに呆れながらも、セックスに慣れすぎて、大好きな兄とする時ですら段取りを考えてしまう自分が嫌だ。
「ごめん慎司」
「え?」
「おら、男同士のやり方よぐわがってねのに
と、まるで俺の惑いに気づくように、愛撫していた手を止め謝ってくる兄の優しさに、胸が熱くなる。きっと自分は、勢いのまま抱かれたって、痛みなど全然我慢できてしまうだろう。けど、兄はそれを望まない。必ず立ち止まり、声をかけ、俺の気持ちに耳を傾けようとしてくれる。
「ううん、おら、あんにゃがガッづいでぐれで嬉すいっけ。たださ、ちょっとコンドームどが色々必要なもの持ってきていい?」
「ゴムはそごさあっず」
いつの間に用意したのか、ベッドサイドテーブルの上に、既に箱から出してあるゴムが数枚置いてあった。
「これで普通にすてすまって大丈夫が?」
「えっとね、ちょっと待ってで」
(なんで出しておかなかったんだよ、俺)
せっかく盛り上がっていたのに、間抜けすぎると思うが仕方ない。俺は鏡台の引き出しからジェルを取り出し再びベッドに戻る。
「男は女の子みだいに濡れねがら、こだなの使った方がいいんだよね。あんにゃは何もすねぐでいいがら待ってでくれる」
素直に裸であぐらをかいて待つ兄のそこは、この変な間のせいか少しクールダウンしていた。あとでフェラしてあげようと思いながら、俺はベッドにバスタオルをひき、ジェルを指にとって自ら後ろを解し始める。そんな俺の姿を、兄がジッと見てきて、急に恥ずかしくなった俺は、側にあった掛け布団で今更のように下半身を隠す。
「ごめん、そんな見られてると…」
言い終わらないうちに、兄は俺の身体を再び押し倒し、深くキスをしてきた。
「慎司、俺にやらせて」
兄は自らの指を、ジェルで濡らした俺の後ろに差し入れてくる。
「アッ…」
「痛いが?大丈夫が?」
俺は兄にしがみつき、大丈夫だと首を振る。男同士を知らない兄の指先が、俺の前立腺に触れることはない。それでも、兄の指が俺の中に触れているだけで、身体の芯があさましく疼きだす。視線の先にある兄自身は、いつの間にか更に大きく昂っていて、好きな人が自分に欲情し、求めてくれる歓びに涙が溢れそうになった。
「あんにゃ、もういいからきて…」
兄は、限界まで立ち上がった自身にコンドームを装着し、あられもなく開いた双丘の狭間に入ってくる。初めて体感する兄の質量に圧倒されながらも、散々男を知ってきたそこは痛みを感じることはない。でも、兄とするセックスは今までと全然違っていた。
「大丈夫か?」
繋がったまま、心配そうに聞いてくる兄に、俺は首を横に振って応える。
「あんにゃこそキツくない?」
兄は、熱っぽい瞳に、更に強い情欲を込めて言った。
「動くぞ慎司、おめ見でるどたまらねぐなる」
切羽詰まったように響く、熱を孕んだ声。
互いに触れる肌の匂いも、兄を奥に受け入れ身体を繋げている生々しい感触も、俺の妄想なんて遥かに超えていた。魂ごと揺さぶられるような感覚と、指先まで痺れるほどの快感に、喜悦の声を抑えることができなくなる。
本当に好きな人と繋がれる事が、こんなにも幸せだなんて、幸福すぎて、このまま時が止まって欲しいと願うほど切なくなるなんて知らなかった。
「アッ…アア…」
もう、あんにゃ以外何もいらない。他のことなんて、何一つ考えたくない。
「あんにゃ…」
「慎司!」
互いを呼び合いながら頂点に達し、兄は崩れ落ちるように俺を抱きしめ全身を預けてきた。その、遠慮なしにのしかかられる重量感が心地よくて、俺は兄の身体に抱きつき目を瞑る
「ハア、どうすんべ。おら、馬鹿みだいにハマってすまいそうでおっかねえ」
口を突くように出てきた兄の言葉が単純に嬉しい。
「おらもだよ、あんにゃ」
だが兄は、複雑な表情で俺を見つめる。
「どうすたの?」
「なんか、おめが余裕な感ずが悔すい、おらの方がいっぱいいっぱいで、他の奴らど比べでどうなのがどが余計な事考えですまって」
兄の言葉を聞き、俺は、かつて男に体を売っていた自分の過去を後悔した。
「あんにゃごめん、俺…」
もし兄と結ばれる未来を知っていたら、こんな顔させずにすんだかもしれないのに…
「違う!おらの方ごそごめん、勝手さ嫉妬すて、こだなこど言って、いい年すてカッコ悪いなおら」
兄は首を振り、謝る俺に口付けしてくる。そのまま執拗なほど絡めてくる唇と舌を受け入れているうちに、俺は、兄の表情や言葉の意味がストンと腑に落ちた。
(ああ、そうか)
今まで俺が見てきたのは、家族に見せる、兄としての顔。嫉妬して不機嫌になった顔を、俺は兄の恋人になれたからこそ初めて見ることができたのだ。そう気づいた瞬間、身を焦すほどの歓びが身体中を駆け巡る。
全部見せて欲しい。綺麗で純粋なものじゃなくても、どんな醜い感情でもいい。兄がくれるものなら、俺は全て歓びに変えてしまうから。
「慎司、もう一回いいが?」
素直に頷くと、兄は一度果てたコンドームを新しいものに変え、再び俺の中に入ってきた。
「アッ…あんにゃ」
「それがらさ、2人でいる時は、誠って呼んで欲すい」
「え?」
背中に腕を回ししがみついたら、兄は突然動きを止め懇願してくる。
「嫌か?」
首を横に振りながらも、俺は、あんにゃと呼べなくなってしまうのは寂しいと感じていた。俺が幼い頃から呼んできたあんにゃという言葉には、兄に対する恋心が、ずっと密かに込められていたから。
「俺、もうあんにゃの弟じゃなくなるの?」
口をついて出てきた言葉はあまりにも子供じみていて、自分が恥ずかしくなる。だけど兄は、優しく微笑み言った。
「違う、おめはずっとおらの大事な家族で、弟で、これがらはおらのお嫁さんだ」
不意にお嫁さんと言われ、俺はつい照れ臭くて茶化すように笑ってしまう。
「あんにゃ知らねがったど思うんだげんと、おらの小さな頃の夢、あんにゃのお嫁さんだったんだ」
「知ってだよ、小せえ頃おめよぐそう言ってぐれでただべ?おらまで揶揄われだり馬鹿にされるのが嫌で、必死さ男らすく
俺は言葉を失い。兄を見上げた。
なぜ今まで気づかなかったのだろう?兄は幼い頃からずっと、松原慎司という人間を見つめ、理解し、受け止めてくれていた。全部ちゃんと、分かってくれていたのだ。俺は堪えきれず、溢れてきた涙を隠そうとするように兄の胸に頬をあてる。
15年前のあの日、もしも互いの気持ちを正直に告げていたら、俺達はこんなにも遠回りせずにすんだのだろうか?でも、そんな想像は不毛なifでしかない。互いの人生でしてきた全ての選択が、きっと今に繋がっている。
「慎司顔見しぇで、おらの名前呼んで」
兄に促され、その胸元から顔を離すと、兄は優しさと欲情を湛えた男の顔で、俺を見つめていた。
「まこと?」
「なんで語尾あがってるんだよ」
つい疑問形になる俺に不満を述べながらも、兄は愛し気に目を細め、笑顔を浮かべる。
「まあ少すずづ慣れでいげばいいが。いぐ時あんにゃって呼ばれるのも、すこだまきたがら」
「アッ…」
腰の動きが再開され、俺は再び兄の背中にしがみつく。一度目より余裕がでてきたのか、二度目は、マコトと呼ぶまで中々イクことを許されず、俺は散々焦らされ翻弄された。そして、夢のような一時が終わった後、俺は、身体の芯から満ちていく幸福感に包まれたまま、兄の腕の中で眠りに落ちた。
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