第30話 適職診断ゲーム
僕は48枚のカードをテーブルに並べていく。一見すると、タロットカードのようだけれど、実はちがう。先日、画家さんに特注したものである。
「うわぁっ、この子。チョーかわいい!」
3頭身にデフォルメされた幻獣を見て、ソフィさんが大はしゃぎする。あれだけ、おどおどしていた子が。
どうやら正解だったようだな。絵柄を萌え絵っぽくしてもらって。
なんとなく、ソフィさんに受けそうな気がしたんだよね。それで、画家さんに説明して書いてもらったというわけ。漫画やゲームなどの2次元コンテンツがない世界。やり取りするのに苦労した。僕、イラスト描けないし。
それはさておき。
「カードについて説明しますね」
「うん、なにこれ?」
「これは冒険者の
ソフィさんはうんうんと興味深そうにうなずいている。
「ここにあるのは48枚。48のジョブです。今から、ソフィさんにはカードを見て、3つのグループに分けていただきます」
「3つに分ける?」
僕は、3枚のカードをテーブルに置いた。
「『OK』のカードの近くにカードを置いていってください。ただし、条件があって」
「じ、条件?」
「興味を感じる物、やってみたい、また、自分にやれそうなジョブを選ぶこと」
「うん」
「『NG』のところには、興味を感じない、やりたくない、自分に合わなそうなジョブを置いてください」
「うんうん」
「『どちらでもない』には、OKとNG以外ですね」
「……わかった。けど、質問?」
「な、なにかな?」
ソフィさんが砕けた口調なので、僕もタメ語を使うことにした。年も近いし。タメ語の方が打ち解けられるのなら、そうしたい。
「ソフィには家の掟があるから、魔法剣士一択なんじゃ……」
予想以上に家の掟が大事らしい。
「えーと、これはゲームなので、家のことは忘れて大丈夫だよ。純粋にソフィさんがやりたいかどうかで選んでみて」
「(こくり)」
「このゲームで、ソフィさんに合う
「そ、そうなの⁉︎」
クライエントの声が弾んだ。
積極的なのはうれしいが、ここは正直に話すべきだろう。
「誤解しないでいただきたいんですが、ゲームは完璧ではありません」
「ん?」
「あくまでも、今のソフィさんにとっての適職を探すだけなんです」
「どゆこと?」
「たとえば、今日の結果が、黒魔術士タイプだったとしても、半年後には白魔術士に変わっているかもしれない。いえ、体調次第では、明日やっても結果が異なることもあるんです」
心理検査の限界だ。21世紀日本における科学的な心理検査ですら、完璧ではない。ましてや、僕が理論をもとに自己流で組み上げたゲームである。さらに、信頼性は下がるだろう。
「なので、ゲームをしながら、自分のやりたいことを考えてみましょう。気軽な感じで」
「うん、わかった」
ソフィさんはイラストとにらめっこを始めた。
数分後。すべてのカードが仕分けられる。
「『OK』のところは、弓使い、占星術士、召喚術士、予言者、黒魔術士、白魔術士」
「ん。後衛のジョブで固めた」
「次は、『NG』ですね。騎士、拳闘士、竜騎士、狙撃手、銃士、暗殺者、盗賊、密偵、聖騎士、砲手ですか」
「そ。前衛、重い、怖い系」
「で、残りはどちらでもない」
「うん、興味ないし」
なんとなく予想していたが、想像以上に好みが偏っている。
「じゃあ、次のステップに行くね」
「ん。どんとこい」
ソフィさんは豊かな胸を軽く叩く。
初対面の頃を考えると、信じられないくらい乗り気だった。
「『NG』の理由について、前衛や重い、怖い系と言ってましたが、そう答えた理由は?」
「だって、ソフィはトロいし。痛いのが嫌。それに、服がかわいくないし」
「ありがと」
僕は身体全体を縦に振って、大きくうなずく。態度で、クライエントの価値観を受け止めたことを伝える。
結果、ソフィさんは水色の瞳を輝かせた。
「今度は、『OK』のカードを選んだ理由について、教えてくれるかな?」
「後ろにいられるし、トロくても魔法なら大丈夫かもしれないし。それに……かわいいから」
「かわいい?」
「あっ、なんでもない……かな」
あからさまに何かを隠している。が、本人が言おうとしないので、今は放っておく。うすうす見当はついているが、ソフィさんのことを思えば、自分の口から語ってほしいから。
「質問に答えてくれて、ありがとう」
「うん、ゲームだし」
「では、今のゲームからわかったことを、僕から伝えるね」
僕はリラックスしてほしくて、できるだけ自然な笑みで言う。
それでもソフィさんは姿勢を正した。緊張しているのか、水色の髪をいじりだす。
「人には性格に合わせた、職業の適性があるんです」
「そ、そうなの」
「そう。剣士に向く性格の人もいれば、魔術士に合う人もいる。今のゲームは、ソフィさんの性格診断的な意味もあったんだよね。簡単にいえば、ジョブを通して性格を知る感じかな」
「占いみたいな?」
「占いか……。そういう見方もあるかも」
心理テストと占いは別のものだ。けれど、この世界の人に言っても理解できない。
いったんは、ソフィさんの発言を肯定的に受け入れる。そのうえで、僕は声のトーンに気をつけて、説明した。
「トランプ占いに似てますけど、いちおうは科学的な根拠があるんですよ」
「科学的。最近、流行の科学ね」
「じゃあ、ソフィは結果を信じていいんだ?」
アクアマリンの瞳を子どものように煌めかせる。
期待を裏切るようで申し訳ないが、僕は誠実であろうと努めた。
「先ほども言ったけど、心理テストはあくまでも心理テスト。心理テストはあくまでも人間の一面を知るためのテストなんですよね。結果が絶対とは言い切れなくて」
ソフィさんは小首をかしげる。
「だから、想定外の結果が出ても、気にしすぎなくて大丈夫だから」
「わかった」
クライエントは首を縦に振った。納得してくれたらしい。
「教えて。ソフィのこと。ソフィの知らないソフィを」
「じゃあ、遠慮なく」
僕はソフィさんを信じて、テスト結果を告げる。
「ソフィさんは芸術が強いかな。次が、技術」
「芸術? 技術?」
「まずは、芸術から説明するね。芸術タイプの人は、歌やダンス、詩の朗読などが得意なことが多いんだ。職業的には大道芸人や吟遊詩人。そして、詩の朗読が呪文の詠唱に繋がるから、魔術士系も芸術の要素も含んでいる」
うんうんと、ソフィさんはうなずく。
「次は技術について。技術というと、一般的には機械を操作すると思うかもしれない。けど、弓を扱ったり、水晶を見たり、動物を飼育したり、そういうのも入ってるから」
とある単語を聞いたとき、ソフィさんの目の色が変わった。
やはり。僕は確信する。
「芸術と技術に合うジョブといえば……召喚術士かな」
「召喚術士?」
平静さを装っているつもりだが、ソフィさんの鼻がピクピク動いていた。
「そう。謎の異界から幻獣を一時的に召喚して、モンスターと戦わせることができる
「ふーん」
あえて、ぶっきらぼうなフリをしているが、声が震えている。
「召喚士に興味があるようですね――」
「だって、ルビィちゃんかわいいんだもん!」
言い終わったとたん、ソフィさんは口元を押さえた。
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