第24話 勇者パーティーを追放された経緯について(前)

 まだ僕が故郷にいた頃のこと。


 僕は10歳をすぎた頃には、農作業の他に剣の修行を始めていた。


 ずっと昔は運動が苦手だったんだよね。なのに、別人みたいに身体が勝手に動く。小さい頃から親の農業を手伝ったおかげかもしれない。


 剣の修行において、頑丈な体幹は非常に役立った。


 ただ、ひとつ問題があった。故郷は、小さな町。ギルドもない。自警団はあったけれど、年齢制限で入れない。


 基礎的な動きは、自警団の訓練を観察し、頭に叩き込む。ひとりでやってみると、面白いようにできた。


 すぐに、田舎の自警団レベルを超えてしまった。


 教わる人がいない。


 そこで、僕は勝手に町を抜け出すことに。実戦で修行しようかな、そう思って。


 まずは、町の近くで雑魚を倒す。余裕で退治できた。

 無数の雑魚を屠る。レベルが上がる。レベルアップとともに、新たなスキルを習得する。その繰り返しが非常に心地よかった。


 とはいえ、現実は甘くない。12個ほど剣技系スキルを会得したところで、スキルが増えなくなる。


 当時、レベルは50。平均的な冒険者が、レベル30になる前に引退することを考えれば、上出来だ。けれど、僕としては不満だった。


 もしかして、雑魚を相手にしていたから、打ち止めなのかもしれない。


 もっと強くなりたい。そのためには、町を出た方がいい気がする。


 でも、両親やラウラに心配をかけたくない。せっかく、優しい家族と出会えたんだ。僕にとっては、家族といる時間も大事だった。


 今後のことで、僕は迷い始めた。

 今から1年半ほど前、14歳のことである。


 その日も悶々とした気分で、町を出た。近場の草原へ。どうせ敵は弱い。なら、自分に負荷をかけるしかない。


 あえて僕は数十匹のウルフに囲まれるように逃げ回る。勘違いしたウルフは獰猛な雄叫びを上げて、僕を追いかけてきた。


 見晴らしの良い場所で、僕は足を止める。動かない僕を見て、モンスターは舌なめずりをした。


 やられるのは自分たちなのも知らず、哀れなことだ。


 僕は敵に同情してから、剣を構える。力を解き放つ。


「レイン・ソード!」


 まずは、斜め上からの袈裟斬りを放つ。いきなりのことに敵は動けない。1匹を仕留めたあと、返す刀で隣にいたオオカミを倒す。


 一度動き始めた剣は止まることがない。手で剣を振るい、足を連動させ威力を乗せる。足を止めたら勢いが落ちる。ひたすら敵を斬った。


 バーサク状態になった僕は高揚感に酔いしれそうになる。楽しい。


 連撃が20をすぎた頃、剣は音速を超え、衝撃波を生み出した。衝撃波が複数のウルフを呑み込み、あっという間にモンスターの群れを全滅させる。


「ふー、こんなもんか」


 あっけなかった。もうちょっと遊びたかったのに。拍子抜けしていたら。


「いやぁ、実にお見事」


 いつの間にか、近くに人がいた。全然、気配を感じなかったぞ。


「失礼、拙僧は大神官を務めております」


 端正な顔立ちの男は、20歳を超えているようには見えない。その年で、大神官?

 いぶかしんでいたら。


「へー、君~かわいい顔してんね」


 目の前に女の子が現れた。栗色の髪の少女は同じ年ぐらいだ。かなりの美少女だった。

 妹と母親以外の女性には接点がない僕。半世紀も生きてきて女性慣れしていない非モテだ。突然の美少女の登場に戸惑ってしまう。


「き、君は?」

「クリスティーナ。勇者をしててさ、君を迎えに来たってわけ」


 勇者を名乗る少女は飄々とした口調で言う。


 ついに来た。この時が。異世界ナーウィガーに転生して14年。下積み生活がようやく終わる。僕は勇者を連れて、意気揚々と町に戻った。


 町に戻ると、大神官さまが勇者パーティーだと名乗りを上げる。

 小さな町だ。当然、大変な事態になった。僕たちがいた広場に、町長が飛んでくる。


『このたびは、勇者様がどういったご用件で? もしや、近くに魔族が……』

『町長さん、安心していいよー』


 60歳近い白髪の町長に勇者が声をかける。

 美少女勇者の親しみが、かえっておじいさんを困惑させた。顔をこわばらせていたら。


『今日は新しい仲間を迎えにきたってわけ。そこのラファエロくんね』

『……なっ、なっ、なっ、なっ、なんですとぉぉっっっっっっっっっっっっ!』


 町長が叫ぶのも無理はない。他人とつるまない。まったく目立たない地味な少年が大抜擢されたのだから。


 誰も勇者たちに口を挟めない。


 僕と僕の両親の意向を尋ねるまでもなく、僕は勇者パーティーに入らないといけない空気になっていた。

 まあ、両親を説得する手間が省けたというか。


 内心で歓喜していたら、両親とラウラが広場にやってきた。

 事情を知った家族は、寂しそうな顔をする。チクリと胸が痛んだ。


 こうして、僕は故郷の町を出た。

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