第20話 隣の芝生は青く見える

「えーと、どちら様ですか?」


 僕はナチュラル笑顔を作って、謎の少女に聞く。


「あっ、このまえは……生まれてきて、すいませんでした」


 斜め上すぎる答えが返ってきた。

 そ、そういえば、この子。


「あっ、この子知ってる。おっぱいオバケじゃん⁉」


 ラウラの言葉につられて、目が行ってしまった。


 大きい。エーヴァさんも立派だけれど、一回り、いや、二回りは違う。


 あのときは、柔らかかったよな。感触が蘇ってくる。


 エーヴァさんが初めて僕のところに来た日。僕は広場に行った。サーカスを見ていた際に、事故で青髪の少女とぶつかった。


 それが、目の前にいた子である。ものすごく挙動不審な態度だった。今みたいに。


 あらためて、少女を観察する。

 透き通るような水色の髪は、ワンサイドアップで結ばれていた。赤いリボンで髪を留めていて、淡泊な雰囲気の少女に意外性を与えている。


 肌は雪のように白い。この国は白人が多いが、飛び抜けて色白だ。


 水色の瞳は南国の海のように澄み渡っている。眠そうにしているのがもったいなく感じる。美少女だから、なおさらだ。


 視線を下げる。メロン×2が真っ先に目につく。チュニックは不自然な形に皺を作っている。


「ちょっと、お兄ちゃん。おっぱいお化けがいるからって、おっぱいエクソシストにならないでよっ!」


 妹に頬をつねられて、我に返る。


「ラファエロさん。大きいのが好きなんですね」


 エーヴァさんにまで誤解されたし。

 それだけでなく。


「おっぱいオバケ……か。やっぱり、ソフィ死んだ子なんだね」


 青髪の子は死んだ魚の目をして、自分の豊かな双丘を見つめていた。


「立派なのに、なんで落ち込むの⁉」

「ラウラ、それちがうし」


 さすがに、人前である。僕は妹を部屋の隅に連れていく。謎の少女に聞こえないよう声のトーンを落として言う。


「ラウラ、身体の悩みは人それぞれなんだよ。特に、女性は」

「……知ってる。大きいと肩こりが酷いとか、男の視線がエロいとか。巨乳の友だちが言ってるし」

「彼女たちと話していて、どう思った?」

「うーん。巨乳も大変なんだなと思いつつ、うらやましいかなって」

「モヤモヤしてるんだね?」

「巨乳の子の言うことももっともだけど、彼女たちにわたしの気持ちわかんないだろうし。なかなか巨乳の子に共感できなくて……」

「ラウラ、悩んでいいんだよ。愚痴は僕が聞くから」

「お兄ちゃん」


 ラウラが僕の胸に飛び込んでくる。

 これで、巨乳じゃないだと⁉ 巨乳という概念はいったい?

 いかん、いかん。僕は慌てて意識を引き戻す。


「でも、自分の価値観を露わにするのは、気をつけた方がいいかな。たとえば、『立派』とか『おっぱいオバケ』みたい表現。ラウラにその気になくても、相手を傷つける可能性もあるんだよ」

「わかった。そうする」


 エーヴァさんと青髪の子が僕たちを見つめていた。無理もない。人前で兄妹が抱き合っていたんだから。


「ラファエロさん。ラウラさんとは、本当にご兄妹なんですよね?」


 エーヴァさんには思いっきり疑われ。


「ん。噂どおりのテクニシャン。ゆ、勇気を出して、ストーカーした甲斐がある」


 謎の少女はとんでもないことを言い出した。


「ラウラさん、離れてくれないかな」

「わかった。この子、お兄ちゃんのストーカーみたいだし、抹殺しないといけないから」

「落ち着いて、ラウラ!」


 腰に提げた短剣を抜こうとするラウラを必死になだめる一方で。


「ソフィ、○されてもいい子なんだね」


 謎の子が全力でダウナー状態になる。手が足りないよ。


「ラファエロさん。妹さんはあたしが止めますので、彼女のお相手を」


 エーヴァさんにラウラの相手を任せ、僕は青髪の少女と向き合った。

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