第223話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その69

 昼休みも終わりそうな時間になり、運動場に移動する生徒達、もちろん、その中には郁人達もおり、屋上から、ゾロゾロと女子生徒達を引きつれて、運動場に向かう郁人は、やはり、滅茶苦茶目立っているのである。


 そして、郁人の隣に陣取るゆるふわ宏美は、昼の一件から、ずっと、郁人の顔を不満顔でジッと見続けているのであった。


「ゆるふわ……まだ、怒ってるのか?」

「別に~、怒ってませんよ~…ただ~、郁人様の顔を見てるだけですよ~」

「いや……さすがにジッとその顔で見られると……ゆるふわに対しても…罪悪感が……そうだな……全くわかないな」

「な!? い、いくとさま~!! わたしぃは本気で怒りましたよ~!! こうなったら~、郁人様の手料理会で~、学校の女子生徒全員分作ってもらいますからね~!!」


 視線でずっと、わたしぃは怒ってますよ~、アピールをしてくるゆるふわ宏美に、さすがに郁人も無視しきれなくなり、そう声をかけると、あからさまに、怒っている様子なのに、怒ってないというゆるふわ宏美なのである。


 頬を膨らませ、まだ、ジッと不満顔で見てくるゆるふわ宏美に、腕を組み、目を閉じて真剣に考えるが、全く罪悪感がないことに気がつき、放置することにした郁人に、ゆるふわ宏美は、滅茶苦茶怒って、地味に復讐してやると無茶なことを言い出すのであった。


「……それは勘弁してほしいな……まぁ、ゆるふわが手伝ってくれるって言ってたし……そうなったら、ゆるふわをこき使ってやるか」

「ううう~、の、ノーダメージですか~!! も、もう、本気で怒りますよ~!!」

「いや……本気で怒ったんじゃなかったのか!?」


 それは困ったと口では言いながら、反撃する郁人に、不満爆発のゆるふわ宏美が、地団駄を踏みながらそう言い放つのだが、郁人は呆れながら、そんなゆるふわ宏美にツッコミを入れるのだった。


「郁人君と宏美ちゃんって本当に仲良しだよねぇ」

「いや……仲良くはないだろ」

「そうですよ~!! 絶対に後悔させてあげるんですからね~!!」


 同じく、郁人の隣を確保している梨緒が、郁人とゆるふわ宏美の会話を嫉妬しながら聞いていて、ヤンデレモードに入る寸前の状態で、ぼそりと呟くと、即否定する郁人とゆるふわ宏美なのであった。


 そんなやり取りをしていると、昇降口の下駄箱置き場について、上履きから、体操シューズに履き替えて、外に出て中庭から、運動場に向かう郁人達の前に、政宗と7組リレーメンバーの陸上部の三人が立ちはだかるのであった。


「相変わらず……そんなに女子生徒を引き連れて不快な奴だ……朝宮」

「……覇道……何か用か?」

「貴様に用などない……たまたま偶然に出会っただけだ……自意識過剰にもほどがある」


 あからさまに、中庭で待ち伏せしていた政宗の演技かかったモノ言いに呆れる郁人なのである。


 ニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべる政宗と7組リレーメンバーの三人に、あからさまに敵意むき出しの郁人様ファンクラブ幹部メンバーと女子生徒達なのである。その女子生徒達の中には、政宗達と同じ7組の白銀とその取り巻き達も居るのであった。


 かなり険悪なムードになり、ゆるふわ宏美は、また面倒ごとですか~と胃が痛くなり、乾いたゆるふわ笑みを浮かべながら、胃のあたりを右手で摩るのであった。


 なぜ、政宗がここに居るかと言うと、少し時間は遡り、美月が美味しく郁人のお弁当を食べており、ゆるふわ宏美が、郁人の事をムスッとした表情で睨みながら、ツナサンドを食べていた時、浩二と政宗の間である会話があったのである。


 教室で熱い男の誓いの握手を交わした浩二に、政宗はある提案をするのであった。


「朝宮は卑劣にも、100m走で俺に精神攻撃を仕掛けてきた……ならば、こちらからも、精神攻撃を朝宮に仕掛けるべきだ」

「……別にそれは良いぜ……つっても、美月ちゃんを巻き込むのはなしだぜ」


 怒りと憎しみに満ちた政宗の発言を懐疑的な表情で聞く浩二は、とりあえず、そう言って、政宗の話を聞くことにしたのであった。


「こちらが、かなり有利な状況で、向こうにプレッシャーを与えれば、必ずミスが生じるはずさ……どれだけ練習しようとプレッシャーには勝てまい」

「なるほどだぜ……で……どうやって、朝宮にプレッシャーを与えるんだよ?」

「それは、俺に言い考えがある……女好きの朝宮には絶対に効果がある方法が……」


 そう言って、浩二に説明して、不敵な笑みを浮かべて、陸上部の教室に居た陸上部の三人に声をかけに行く政宗の事を不安そうに見送る浩二なのであった。


 そして、政宗は郁人に対して、仕返しとばかりに精神攻撃を仕掛けるために、陸上部三人と共に、郁人達を中庭で待ち伏せしていたのであった。


「1組は、7組に勝つ為にコソコソ裏で練習していたらしいが……朝宮……本当にみっともない奴だ」


 政宗に絡まれて、物凄く疲れた表情になる郁人は、どうしようかと頭を抱えていると、郁人の後ろをついて来ていたファンクラブの女子生徒達が、政宗達を睨みつけ、郁人様親衛隊の三人が郁人を守るように前に出るのであった。


「女に守ってもらって……本当にみっともない……まぁ、朝宮……貴様がどれだけ頑張ろうが……7組には勝てないさ……なぁ」

「だぜ……朝宮……お前はみっともなく、この陸上部一年エースの俺が負かしてやる!!」

「だね……私達もいるしさ~」

「うんうん……もう、勝ちは貰ったもんだよね~」


 親衛隊三人に守られるような形になっている郁人を呆れた表情で見た後に、政宗達は郁人に対して挑発するのである。もちろん、郁人様ファンクラブの女子生徒達は、物凄く怒りに満ちた表情になるのである。


「あ……ああ、そ、そうか……と、とりあえず、話しはわかった……」

「そ、そうですね~……み、皆さん…お、落ち着きましょうね~」


 今にも乱闘が起きそうな雰囲気に、焦る郁人とゆるふわ宏美は、穏便にこの場を済ませたいと、必死に説得しようとするのだが、もはや、我慢ならないと梨緒が怒りの笑みを浮かべて、政宗を睨みつけて、前に出るのである。


「郁人君に100m走で負けたくせに偉そうだよねぇ……負け犬の遠吠えって言葉…知っているかなぁ?」

「ですね……郁人様に負けた上に、陸上部に泣きついて、我々に挑発してくるなんて……みっともないのはどちらでしょうか?」


 あからさまな政宗達の挑発に、梨緒は挑発し返すのである。そんな梨緒に同調するようにクラス委員長のファンクラブ副会長も、梨緒の隣に立って自慢の眼鏡を光らせ、挑発し返すのであった。それに対して、少しムッとした表情になった政宗だが、すぐにイケメンスマイルを浮かべるのである。


「確かに、100m走では朝宮の卑劣な罠にかかり負けてしまったが……今回のリレーでは、そんな卑怯な手には負けないさ……まぁ、朝宮に騙されている可哀想な君達にはわからないことだろうがね」


 郁人を一瞬睨んだ後に、梨緒の事を哀れな視線で見つめながらそう言う政宗に、ムッとなる梨緒達と、疑問顔の郁人なのである。そもそも、政宗に対して、何かを仕掛けた覚えはない郁人なのであった。


「これ……やっちゃいましょうか? よし、姫ちゃんやっちゃっていいよ!!」

「尊い郁人様に対しての暴言……さらには我々、郁人様親衛隊を馬鹿にする発言は許せませんわね……姫理…やってしまいなさい」

「一生郁人様推しの、この私が……すぐにこの四人を始末するから……フフフフ、大丈夫……生きていることが嫌になるほどの苦痛を味わった後に…死を望み、死んだあとすら…地獄で永遠の苦痛に苦しみといいよ」


 郁人様親衛隊の二人が政宗達を指さして、狂犬おかっぱ娘をけしかけようとして、殺意の波動を纏い瞳孔が開いた瞳で睨みながら、一歩前に出て、政宗達に今にも襲い掛かろうとする狂犬おかっぱ娘に、たじろぐ政宗達なのである。


 さすがに、これはマズイと思った郁人が止めに入るのだが、もはや、郁人様親衛隊のキリングマシーンは止まる気がないのであった。このままでは本気でヤバイと、政宗達に襲い掛かるおかっぱ娘を背後から、両脇を抱えて摑まえる郁人なのであった。


「し、東雲さん……す、少し落ち着こうか」

「放してください!! 郁人様!! 郁人様一生推しの私は、奴らを血祭りにあげなくては、郁人様推しを名乗れなくなってしまいます!!」


 その小さい身体のどこにそんな力がと言う感じで、物凄く暴れるおかっぱ娘を何とか抑え続ける郁人なのである。そんな、郁人の方を見て、ホッとした感じになる政宗達は、もう、安心とばかりに、余裕の表情を浮かべるのである。


「そんな小娘一人まともに抑えられないとは……さすが朝宮……程度が知れる」


 郁人が必死に、狂犬おかっぱ娘を羽交い絞めで取り押さえている様子を、やれやれと見下し、挑発してくる政宗に、さらに暴れるおかっぱ娘と、露骨にやる気をなくす郁人なのである。


「……もう東雲さん止めるの……やめるか」

「だ、ダメですよ~!! あの四人が病院送りになるのはいいですけど~!! 暴力沙汰で~、郁人様ファンクラブの活動禁止になりますよ~!!」


 誰のために、必死で東雲さんを止めて、やっているんだと思っているんだと、内心イラっとした郁人なのであった。そんな郁人が零した独り言に、慌てて反応するゆるふわ宏美は、必死にやる気が低下している郁人にお願いするのであった。


「ひ、姫ちゃんを取り押さえるなんて……さ、流石郁人様です!! というか……キレた姫ちゃん止められる人…初めてですよ」

「尊い郁人様……さ、流石ですわ……あんなに暴れる姫理を止められる人がいるとは思いませんでしたわ」


 郁人様親衛隊二人は、驚愕の表情を浮かべ、物凄く驚いているのであった。そんな二人を見て郁人は、内心で、どれだけ東雲さんヤバい子なんだ!? と恐ろしい気持ちになるのだった。


 ゆるふわ宏美も郁人と同じように、恐ろしく感じたのか、引きつったゆるふわ笑みを浮かべているのである。


「くだらん……そんな小娘…俺でも止められるさ」

「……いや、覇道……お前が暴れた時より、抑えるのきついから……お前じゃ無理だと思うぞ」


 余裕の笑みでそう言い放つ政宗に、マジ声トーンの郁人の返答に、辺りはシーンと静まり返るのであった。


「……まぁ、覇道が抑えられるなら……解放しても……大丈夫か? 俺も疲れてきたし…」

「だ、ダメですよ~!! 郁人様!! あの人は口だけですから~!! 放したら最後、7組の人達死んじゃいますよ~!!」

「……そ、そうか……じゃあ、とりあえず、東雲さん……落ち着こうな」


 政宗の口だけ発言で、ブチギレおかっぱ娘の東雲さんは狂犬の名にふさわしい暴れっぷりで、両手両足をバタつかせるのだが、ゆるふわ宏美の説得で、郁人は狂犬おかっぱ娘の両脇を両腕で押さえて抱えたまま、しかたなく、おとなしくさせよとするのだった。


(し、東雲さん……さっきから、小声で殺す発言連呼してるんだが……ほ、本当に大丈夫か!? この子!!)


 暴れながら、小声で殺す、殺す、殺す、殺すと言い続けている暴走状態のおかっぱ娘に狼狽する郁人なのである。


「朝宮にはお似合いのチンピラ娘だ……朝宮……貴様、その子といい……まさか、ロリコンだったのかい? はぁ~、女好きでロリコンとは……質が悪い男だ」

「……郁人様……東雲さんを解放してもいいかもしれませんね~」


 政宗が、ゆるふわ宏美と暴れる狂犬おかっぱ娘を交互に残念そうな目で見た後に、そう言い放つと、怒りのゆるふわ笑みを浮かべるゆるふわ宏美なのである。ちなみに、暴走状態のおかっぱ娘も怒りの咆哮をあげるのであった。


「それは俺も同意だが……よく考えると……東雲さんが、ここで暴れたら、停学になる可能性あるし…さすがに、それは可哀想だろ……とりあえず、もう、あいつ無視して、運動場に行こう」


 さっきまで、冷静だったゆるふわ宏美まで、怒りのオーラを出しているので、さすがにヤバいと思った郁人は、ゆるふわ宏美にそう言って、暴れるおかっぱ娘を抱えたまま、この場を後にしようとするのだが、政宗が、それを許さないのである。


「まぁ、いくら女を連れ歩こうと、美しき月である美月には到底かなわないという現実が悲しいね……まぁ、朝宮には、その程度の女どもがお似合いだ」


 政宗を無視して、回り道して運動場に向かおうとした郁人と、その後を不満気について行こうとした郁人様ファンクラブの女子生徒達に、政宗が嫌味な笑みを浮かべてそう挑発すると、ファンクラブの女子生徒達が一斉に足を止めるのであった。


 物凄い緊迫感に、郁人は冷や汗がダラダラでこれは……かなりヤバいと内心物凄く焦り始める。


「……夜桜さんがぁ……なんて言ったのかなぁ?」


 美月にライバル心&嫉妬心さらには劣等感を持つ梨緒が、ガンギマリヤンデレ顔で、政宗に向き直り、睨みつけ、そうヤンデレボイスで訊ねるのである。そんな梨緒に対して、かかったとばかりにニヤッと邪悪な笑みを浮かべる政宗なのである。


「そうかい……聞こえなかったならもう一度言ってあげようか……君たちがいくら、束になっても、美月の美しさには敵わないという事さ……そして、そんな女性たちを引き連れて満足している朝宮も可哀想で……哀れな男だという事さ」


 その言葉で、シーンと辺りは静まり返るのである。先ほどまで暴れていたおかっぱ娘も、糸が切れた人形のようになって、シーンとしているのであった。


(こ、これは……あからさまな挑発だが……い、嫌な予感がする)


 あからさまな挑発行為だと気がついた郁人は、スルーするのが安定だと考えるのだが、果たして、梨緒達が大人しくスルー出来るかといえば、絶対無理だと思うのである。つまり、これから起こるトラブルを避けることは無理なのである。


「私の事なら、別にどれだけ馬鹿にされてもいいけどねぇ……さすがに、私のせいで郁人君が馬鹿にされるのは……もう許せないかなぁ」

「ですね……もはや、許してはいけません……彼には己の無能さと醜態さをきちんと理解していただく必要があるかと……」


 ヤンデレ梨緒が、緊張気味の陸上部三人の前に、涼しげな表情で立つ政宗と対峙してそう言い放つと、クラス委員長の副会長も、梨緒の隣に立って、眼鏡をクイっとしながら、そう怒りを込めてそう言い放つのであった。


 そして、その二人の言葉を皮切りに、郁人様ファンクラブの女子生徒達も、政宗に対して、怒りの言葉を発し始めるのである。もはや、暴動が起こる寸前である。


「お……おい…覇道……さすがにまずくないか!?」

「は、覇道君ならなんとかしてくれるよね~!! だ、大丈夫、大丈夫!!」

「だ、だね!! 覇道君……が、頑張って」


 さすがに気圧される陸上部男子生徒がそう政宗を止めようとするが、残りの二人の女子生徒は覇道派なので、少し恐れながらも、政宗を信じる発言をするのであった。


「はぁ~、ウチのクラスの子達が……まさかこんなに馬鹿だとは思わなかったな~……郁人様って、神々しいじゃん……つまり神じゃん……そんな御方の前で……ただの人間の、少し顔が整っただけしか取り柄のない覇道さんごときが……愚かなことにさ~、郁人様に対して暴言を吐くなんて……断じて許されないって訳……わかるっしょ!!」


 頭を抱えて、ファンクラブの女子生徒の集団から、政宗達の前に出てくる白銀は、取り巻きを引き連れて、政宗達を怒りの視線で睨むとそう言い放つのであった。


「郁人様……ウチのクラスのクズ共が…申し訳ないです……神である郁人様に対して、ウチのクラスが失礼を……」

「い、いや……すまない……神ではないんだが……」

「いえ!! 郁人様は神です!!」

「ですよ!! 神様です!!」


 相変わらず、大人しいおかっぱ娘を抱えたままの郁人の方を見て、頭を下げてそう言う7組女帝の白銀に、困惑する郁人は、とりあえず、神ではないという、真実を打ち明けるが、白銀の取り巻きの女子生徒達が、目をキラキラさせながら、そう神と崇めてくるので、何も言えなくなる郁人なのであった。


「はぁ~、出た……本当にムカつくよね~……白銀…正直さ、あ、朝宮とかより、覇道君の方が、何倍もいい男でしょ」

「だよね~、あ、朝宮とか、覇道君に比べて全然カッコ良くないよね~!!」


 7組クラスカーストトップである白銀に対して、なんと、今までおとなしかった陸上部女子二人が、そう喧嘩を売るのであった。今まで、白銀が怖くて、郁人の事を様付で呼んでいたにもかかわらず、名字で呼び捨てにするのであった。


「今……この……栄えある郁人様ファンクラブ一桁台であるウチの前で……郁人様を呼び捨てするなんて……断じて許せないし~……これはもう、戦争って事で……いいんっしょ!?」


 物凄い形相で、覇道派の陸上部女子二人を睨みつける白銀の圧に、怯える陸上部の二人は、覇道の背中に隠れるのであった。


「まだ、君も……朝宮なんかに騙されて……哀れとしか言いようがない……君こそ、クラスの恥と言うものさ……我々7組は朝宮とは敵同士……そんな朝宮に肩入れする君こそ……7組の恥さらしと言うものさ」

「そうよ!!」

「そうだ!!」


 怒りのオーラを放つ、7組女帝の白銀とその取り巻き達に対して、政宗がそうニヤリと嫌な笑みを浮かべながら挑発すると、それに乗っかる陸上部の女子二人なのである。


「ウチが……恥さらしとは……覇道さん…これはもう本当に許せないし~……覚悟できてるってことでいいよね~」

「もちろん……君も朝宮などに肩入れして……我々がリレーで勝った場合は……そうだね……7組の皆に謝罪してもらおうか……朝宮を神と言うなら……俺達にリレーで勝つなんて楽勝という事だろ?」


 もはや、怒りのメーターが存在するなら、きっと振り切っているほどに怒っている白銀に、政宗は露骨な挑発をして、そう賭けを提案するのである。そして、ゆるふわ宏美がハッとなって、政宗の企みに気がつくのである。


「いけませんよ~!! 白銀さん!! これは、罠ですよ~!!」


 そうゆるふわ宏美が、大声を上げて、止めに入るが、白銀はこう宣言してしまうのである。


「もちろん……郁人様が、あなた達なんかに負ける訳ないし~……それに、郁人様の勝利を信じるのが郁人様ファンクラブであり、郁人様推しの在り方というもだしさ~……まぁ、郁人様が負けることなんて、万が一にもありえないから大丈夫だし」


 そうドヤ顔で、右手を胸に当てて、自信満々に言い放つ7組女帝白銀に、政宗と陸上部女子二人がニヤリと勝利の笑みを浮かべるのである。止めようとしたゆるふわ宏美は頭を抱え、やられたという悔しそうな表情を浮かべるのである。


 ちなみに、郁人は、だらーんと糸の切れた人形のように、おとなしくしているおかっぱ娘を抱え続けており、本当にこの子大丈夫かと心配と恐怖心半々な複雑な気持ちを抱きながら、面倒なことになったなと複雑そうな表情を浮かべているのである。


「そうか……それは楽しみだ……本当に……朝宮なんかを妄信する君の悔しがる姿が楽しみだ……なぁ」

「そうね!! さすが覇道君!!」

「だねだね……負けるってわかってるのに馬鹿だよね~……ああ、早くリレー始まらないかな」


 愉快愉快と悪い笑みを浮かべる政宗と背後で、急にイキリ始める陸上部の女子二人なのである。そんな相手に、疑問顔の白銀なのであった。


「郁人様が負ける訳ない!!」

「郁人様最強!!」

「郁人様に負けたくせに生意気!!」

「どうせ、郁人様達が勝つに決まってる!!」


 余裕で不遜な態度の政宗達に、郁人様ファンクラブ女子生徒達が声を荒げてそう言い始めるのである。


「ま、まずくねーかこれ!?」

「あ、ああ……こ、これ……負けられない雰囲気だぜ」


 ファンクラブの女子生徒達の発言で、郁人達の後ろを気まずそうについて来ていた野球部の佐城と、サッカー部の山本の額に汗がにじみ、重度のプレッシャーを感じて、ひそひそと二人でそう話すのであった。その会話が聞こえた郁人は、危険だと判断するのである。


(このままだと、覇道の思う壺だな……なんとか、早く切り上げないとマズイな)


 郁人がそう考えると、ゆるふわ宏美も同じように考えていたようで、郁人とゆるふわ宏美はアイコンタクトを交わすのであった。


「貴様等ファンクラブの女子共も……朝宮の勝利を信じるなら、俺と賭けでもするかい? 朝宮が負けたら……そうだね……君達ファンクラブを解散してもらおうか」

「あ!! それいいね!! そんなに自信あるなら、私達が勝ったら、あんたら、解散ね!! 後、二度と覇道君と私達に生意気な口きかないようにね!!」

「いいね、いいね!! ほら、自身あるなら、賭けに乗りなよ!!」


 しかし、郁人とゆるふわ宏美が何か行動を起こす前に、調子に乗った政宗と陸上部の女子二人が、騒ぐ郁人様ファンクラブの女子生徒達を、余裕の笑みと共に挑発するのである。


「な、なんで~!! わたしぃ達がそんな賭けに乗らないといけないんですか~!!」

「お、おい……ゆるふわ……落ち着け……お前まで覇道にいいように誘導されてどうするんだ」


 そんな政宗の挑発に、ゆるふわ宏美も簡単に乗ってしまいムッと怒りの声をあげるのであった。郁人が止めに入ると、ハッと冷静になるゆるふわ宏美だが、他の郁人様ファンクラブの女子生徒は冷静ではいられないのであった。


「そこまでいうならぁ…覇道君は負けたら何をしてくれるのかなぁ? そっちも何か賭けないと不公平だよねぇ」

「いや……これはあくまで君たちの朝宮に対する信頼を試しているに過ぎないから、俺達が何かを賭けるのはおかしな話さ」

「へぇ~、まぁ……そうだよねぇ……郁人君に負けたぁ…負け犬だもんねぇ……今も、負けて悔しくてぇ…こうやって挑発しに来たんだよねぇ……本当に哀れで惨めだと思うよぉ」

「何とでも言うがいい……これは、君達の朝宮に対する想いを試しているに過ぎない……朝宮が勝つと思うなら、賭けに乗ればいいだけの話さ……まぁ、朝宮ごとき信じられなくても無理はないさ……本当にそこの男は卑劣で口だけだからね」


 郁人様ファンクラブの影の支配者である梨緒は直々に政宗にそう挑発し返すが、少しムッとするものの、政宗は梨緒の挑発をかわし、挑発し返すと、さすがに賭けに乗るのはマズイと思っているのだろう、悔しそうに黙ってしまう梨緒なのであった。


「いや……そうだね……確かに……こちらも何かを賭けるべきかもしれないね……なら、もしも、朝宮達率いる1組が万が一にも、我ら7組に勝てたなら、美月のファンクラブ解散しようじゃないか……それでどうだろうか?」


 黙る梨緒を見つめて、少し考える素振りをして、政宗は邪悪な笑みを浮かべながら、両手を広げてそう提案するのである。突然の政宗の提案に、驚く郁人達に、勝利の笑みを浮かべる政宗と7組リレーメンバーの陸上部三人組なのであった。


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