第218話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その64

 そして、ゆるふわ宏美との待ち合わせ場所に着くと、郁人と美月はそれぞれが作ったお手製お弁当を交換して、郁人と別れてゆるふわ宏美と一緒に登校する美月は、気合十分なのであった。


「美月さんやる気ですね~……では~、本日はチア衣装もよろしくお願いしますね~」


 ゆるふわにこやか笑みでそう言うゆるふわ宏美に、真顔になる美月は、ニコニコと笑顔でこちらを見てくるゆるふわ宏美から、必死に視線を逸らすのだが、グイグイと近づいて、美月の視界に入ってゆるふわ笑みを浮かべ続け圧を放つゆるふわ宏美なのである。


「わ、私は着ないよ!! 着ないからね!!」

「フフフフフ、絶対に逃がしませんからね~!!」

「うううう~、ひろみん……それは~」

「美月さん……昨日言いましたよね~……迷惑かけたから~、なんでもするって言ってましたよね~? 美月さん……今日はその何でもする日ですよ~!!」

「そ、そんなこと言ってな……あっ!?」


 美月は、ゆるふわ宏美の発言を否定しようとするが、すぐにある事を思い出すのである。そう、美月は、保健室でゆるふわ宏美と少し気まずい雰囲気になって、帰り道もあまり会話をしなかったのだが、別れる時に、もう一度謝罪して、勢いで、そのようなことを言ってしまった美月なのである。


「言いましたよね~…フフフフ、大丈夫ですよ~!! 郁人様も喜んでくれますからね~!!」

「うううううう~!!」


 勝利のゆるふわ笑みで、美月にドヤ顔でそう言い放つゆるふわ宏美に、顔を真っ赤にして、悔し涙を浮かべながら、唸り声をあげる美月なのである。


「美月さん……今日は頑張ってくださいね~……わたしぃも全力で走りますからね~…どっちが勝っても恨みっこなしですよ~」

「ひろみん……うん……そうだね!!」


 そんな美月の前に立って、ゆるふわ笑顔でそう言うゆるふわ宏美に、驚くと、美月も笑顔で返事を返すのであった。ゆるふわ宏美との気まずい雰囲気も解消され、一旦は昨日の保健室での話は忘れて、仲良く一緒に登校する二人なのであった。







 そして、校門前にたどり着くと美月とゆるふわ宏美をいつも通り待っていた浩二が、二人に気がついて挨拶をすると、やはり美月は普通に挨拶をするが、いつものゆるふわ笑みに怒りの圧が込められているゆるふわ宏美に、タジタジな浩二なのである。


「ひ、ひろみん……永田君と…な、何かあったの?」

「何もないですよ~!! 何もないんですからね~!!」


 そんな、ゆるふわ宏美に疑問を口にする美月の発言を聞いた瞬間に、ゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑顔で声に圧を込めてそう言い放つのである。


「そ……そうなんだね」

「そうですよ~!! 早く行きますよ~!!」


 戸惑う美月に、全くゆるふわ笑みを崩さずに、しかし確実に怒っている様子でズンズンと校門を抜けて歩いて行くゆるふわ宏美の後を急いで追いかける美月と浩二なのである。


「な、なあ……美月ちゃん……やっぱり、僕、細田に何かしちまったみてーだぜ……ど、どうすればいいと思う?」

「謝るしかないよ……ひろみん、絶対に物凄く怒ってるよ……早く謝った方が良いよ」

「わ、わかったぜ!!」


 ゆるふわ宏美の後をついて行く美月にひそひそと小声で話しかける浩二に、真顔でそうアドバイスする美月の言うことを神妙な面持ちで聞いて、頷く浩二は、すぐにゆるふわ宏美を追い越して、前に立つのである。


「な、なんですか~? 急に~!?」

「細田……よくわかんねーが!! 僕が悪かった!! 許してくれ!! 細田―――!!」


 頭を90度綺麗に下げて、謝罪の言葉を叫ぶ浩二に、ニコニコゆるふわ笑みを浮かべるも、あからさまに口元が引きつっているゆるふわ宏美は、わなわなと震えだすのである。


「永田さん……もう絶対に許しませんからね~!! 美月さん!! 早く行きますよ~!!」

「ひ、ひろみん!? どうしたの!? ねぇ!! ひろみん!! 待ってよ!!」

「な、何がダメだったんだ!? そ、そうか……土下座か……土下座じゃねーとダメなのか!? 細田!! 僕が悪かった!! 次は誠心誠意込めた土下座で謝罪するから!! 許してくれ――――!!」


 怒りのゆるふわ声をあげて、浩二を追い越すゆるふわ宏美を、急いで追いかける美月と、呆然と立ち尽くした後に、ハッと正気に戻り、今の謝罪では足りなかったと反省する浩二は、そう叫び声をあげながら、ゆるふわ宏美と美月を追いかけるのである。


「結局、また別れたのかしら?」

「やっぱり、浩二さん……ダメだったのか……」

「また、会長元カレに付きまとわれて……お可哀想に……」


 周りにいる生徒達がそうヒソヒソ話すのが聞こえてくるゆるふわ宏美は、ワナワナと怒りで震えながらも、ゆるふわ笑みを崩さずに早歩きで歩くゆるふわ宏美と、全く周りの声が聞こえてない美月と浩二なのであった。








「郁人様!! どうにかしてくださいよ~!!」

「急にどうした…ゆるふわ!?」


 不機嫌なまま、美月と浩二と別れたゆるふわ宏美は、廊下でも例の噂話をされ、恥ずかしさと怒りで顔が真っ赤になりながらも、必死にゆるふわ笑みを浮かべて我慢していたのだが、やはり、我慢も限界に近づいてきているゆるふわ宏美は、登校して、教室に入ってきて、自分の席に座る郁人に愚痴を言うのであった。


「わたしぃの噂ですよ~!! 何ですか~!? 永田さんの元カノとか~!! 美月さんのことが好きだとか~!! い、郁人様のか、か、彼女とか~!! 何もかもデタラメじゃないですか~!!」

「まぁ、噂なんてそんなもんだろ……俺なんか、男子から女たらしとか、女好きとか、好き勝手言われてるけど気にしないようにしてるけどな」


 郁人の机をバンバン叩きながら珍しく吠えるゆるふわ宏美に、頬杖を突きながら聞いていた郁人が遠い目でそう宥める郁人なのである。


「郁人様はそうかもしれませんけど~!! わたしぃはそんなにメンタル鋼じゃないんです~!! だいたい~、わたしぃが何で~、永田さんの元カノなんてことになるんですか~!! 最悪ですよ~!! わたしぃの趣味が疑われるじゃないですか~!! 全く、わたしぃのタイプじゃないんです~!!」

「まぁ、でも、実際、俺や永田と付き合ってたわけじゃないし、美月のことも親友として好きってことだし、事実とは異なるんだから、大丈夫だろ」


 怒りが収まらないゆるふわ宏美は、バンバン郁人の机を叩いて怒りのゆるふわ台パンして、机に頬杖をついているため、ゆるふわ宏美のバンバンでリズミカルに跳ねる郁人が迷惑そうに荒ぶるゆるふわ宏美を落ち着かせるのである。


「事実と異なる事を言われてるから~!! わたしぃは怒ってるんですよ~!!」

「まぁ……それも、そうだな」


 郁人の説得に、怒りの台パンで反論するゆるふわ宏美に納得する郁人は、郁人の机に顔を伏せていじけるゆるふわ宏美の肩を優しく叩いて慰める郁人はこう言うのである。


「大丈夫だ……人の噂も七十五日ていうだろ夏休みもあるし、二学期にはみんな忘れてるから、大丈夫だ……よかったな……夏休みまでの我慢だ」

「我慢の限界だから~、郁人様に何とかして欲しいんです~!! どうにかしてくださいよ~!!」

「そうか……ゆるふわ」


 郁人は、そう言って宥めるゆるふわ宏美に慈愛に満ちた表情でそう優しく言うと、机に突っ伏したまま、顔だけ郁人の方を向けて、涙目で助けて欲しいと声をあげるゆるふわ宏美を優しく見つめ返して、微笑む郁人に期待の眼差しを向けるゆるふわ宏美なのである。


「郁人様!!」

「諦めろ……ゆるふわ」

「郁人様!?」


 希望の表情から、一瞬で絶望の表情に変わりゆるふわ宏美は、机に突っ伏して、しくしく泣きだすのだが、完全にスルーする郁人は、頬杖をついて、窓の外を眺めるのであった。







 その頃、美月も机に両手で頬杖をついて、ボーっとしていると、いつも通り政宗が登校してきて、昨日は何もありませんでしたといわんばかりに、イケメンスマイルで美月の元に来て挨拶をするのである。


「……」


 一瞬だけ、政宗の方を汚物を見るような視線で見つめるが、机に伏せ、寝たふりをして無視をすることにした美月なのであった。


「美月……君が今、朝宮に洗脳されていることは昨日わかった……だから、まずは、今日の体育祭で朝宮に勝ち……君の目を覚まさしてあげるから…安心してくれ」


 そう言いながら、政宗は優しく美月の肩に触れようとすると、危険察知した美月が、バット起き上がって、身を守るのである。


「やっと、こっちを見てくれたね……全て俺に任せておいてくれ……必ず君に勝利をプレゼントするから」


 身構えて睨んでいる美月に、爽やかイケメンスマイルで、髪を掻き分けながらそう言い放つ政宗に寒気を催す美月なのであった。


「おい……政宗……いい加減にしろって……美月ちゃんにあんまり近づくなって」

「……浩二……また君か……いい加減にわからない奴だね……君も……いいかい…これは幼馴染同士のコミュニケーションなんだ、部外者が口を出さないでくれ」


 浩二が美月に詰め寄る政宗に近づいてきて、そう言って注意するが、全く聞く耳を持たない政宗は、両手でやれやれという仕草をしながら、浩二に呆れながらそう言い返すのである。


「幼馴染だろーと…美月ちゃんファンクラブは、美月ちゃんに無暗に触れたり触ったりしないっていうのは鉄の掟だぜ!! 特別扱いは出来ねーぜ!!」

「そうだ!! そうだ!!」

「覇道!! テメェ!! 美月ちゃんに馴れ馴れしすぎるだろ!!」

「イケメンだからって何しても許されるって思ってんじゃねー!!」


 浩二は、強面の顔面で政宗を睨み返して、そう言い放つと美月ちゃんファンクラブの男子生徒達が一斉に声をあげだすのである。


「はぁ~、やれやれ……まだ、そんなことを言っているのかい……まぁ、浩二達が美月を慕うのは勝手だが、美月本人はどう思っているのだろうね……迷惑に思っているんじゃないのかい?」


 ドヤ顔で、浩二にそう言い放つ政宗に、今まで話だけ聞いていた美月が心の中で、どの口で言っているのよと突っ込むのであった。もちろん、浩二もお前が言うなよと思うのであった。


 しかし、そう言われた美月ちゃんファンクラブの男子生徒達は、最近の活動を思い出して、政宗の発言に対して反論できずに黙るのであった。


「……とにかく……美月ちゃんには、お触り禁止だぜ!! これは絶対だぜ!! いいな!! 政宗!!」


 あからさまに美月ちゃんファンクラブメンバーの士気が下がっていることに気がついた浩二は、そう政宗に対して厳重注意するが、政宗はやれやれというポーズを崩さずに呆れた様子なのであった。


 そんな、やり取りをしているとチャイムが鳴り、それぞれが自分の席に戻るのである。美月は、ホッと一安心して、窓の外を眺めて、今から始まる体育祭に向けて精神統一する美月なのであった。


 そして、朝のホームルームで本日の体育祭の説明や流れを担任の先生が説明して、すでに学校指定のジャージ登校で着替えを済ませていた生徒達は、そのままクラスごとに並んで運動場に向かうのであった。

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