第217話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その63
そして、保健室で、郁人が買ってきた飲み物を飲んで、保健室の先生に怒られて、三人で謝罪して、ゆるふわ宏美も大丈夫そうなので、帰宅することにして、家までゆるふわ宏美を送る郁人と美月なのである。
しかし、どこか、美月とゆるふわ宏美が気まずそうなことに気がつく郁人なのだが、何も言わないことにする郁人なのであった。そして、あまり会話がないままに、ゆるふわ宏美を自宅のタワマンまで送り届けると、郁人と美月は二人で家に帰るのであった。
「郁人……今日は本当にごめんね……私のせいで、また迷惑かけて……それに、ひろみんも……」
「いや……美月が悪いわけじゃないだろ……しかし、あいつ……あの時って言ったよ?
てことは……やっぱり、小学校の時の話だよな?」
先に歩く郁人の背中を見ながら、美月は声をかけて、振り返る郁人に頭を下げて謝ると、申し訳なさそうにしているのである。そんな、美月に近づいて、頭を撫でる郁人は、美月に疑問顔で質問するのである。
「……そう……だと思うよ」
「……美月……本当にあいつに心当たりないのか?」
撫でられながら、顔を伏せて郁人の質問に答える美月に、もう一度、政宗に対して心当たりがないかと確認する郁人なのである。
「……うん……同級生は絶対違うし……もしかしたら……あの人達の……でも……それは…」
「まぁ……それはないだろうな……覇道の事は俺とゆるふわも調査してるんだけどな……正直、どこの中学に通っていたのかもわからないんだよな……そもそも、たぶん、ここら辺の中学じゃないのは確かだな」
美月は少し考えると、小学生の時のある人物達を思い浮かべるが、すぐに心の中で否定して、言葉でも否定する美月に、郁人は同一人物を思い浮かべ、否定すると、美月にゆるふわ宏美と密かに政宗の事を調査していたことを明かすのである。
「え!? 郁人とひろみん……そんなことしてたの!?」
そのことに驚く美月なのだが、郁人は気にせず話を続けるのである。
「永田はすぐに調べれたんだけどな……正直、梨緒と覇道だけ、出身校すらわからないんだよな……まぁ、ゆるふわと俺でもう少し調べてみるから……美月はとりあえず、あいつと二人きりにならないようにしてくれ……あぶないからな」
「う…うん……それは、大丈夫だけど……そ、その……郁人達……いつから……その…調べてるの?」
ゆるふわ宏美と一緒に調べた内容を話す郁人は、心配そうな表情で美月にそう言うと、美月は、こくりと頷くが、郁人が話してくれたことに対して気になる事がある美月は、そのことに対して郁人に問いかけるのである。
「いつからって……まぁ、結構前からだな……まぁ、美月は気にしなくても大丈夫だ……何かわかったら、ちゃんと教えるからな」
美月の質問に、普通に答える郁人だが、不安そうな表情の美月を見て、頭を撫でながら、優しくそう言う郁人なのである。
「ねぇ……最近ね……私のクラスの子で……白銀さんっているんだけどね……知ってる?」
「……ああ……たまに、お昼に屋上にいる子だな……その子がどうかしたのか?」
美月は、頭を撫でている郁人を上目遣いで見つめながら、疑惑の眼差しで戸惑いながら郁人に質問する美月から、視線を逸らしてそう答える郁人なのである。
「……最近……その白銀さんが……その……クラスの雰囲気が悪くなると、必ず止めに入るんだよね……郁人……何か知ってる?」
「……いや……何も知らないな」
視線を逸らす郁人に、美月の疑惑の視線は強くなり、たどたどしく、核心をつく質問をする美月に、視線を逸らしたままそう答える郁人なのである。
「そう……郁人……私……絶対に明日のリレーに勝つから……勝ったら、全部……話してほしい」
全て、察した美月は目を伏せて俯き、両指をモジモジさせながら、震える声でそう郁人に言うと、郁人は一瞬驚いた表情になるが、すぐに笑顔でこう言うのである。
「……わかった……美月が勝ったら、美月の質問にきちんと答えるな……でも、今はまだ、美月には話せないこともある……わかってくれるか?」
「……うん」
「ありがとな……じゃあ、帰ろうか……美月」
そして、郁人が差し出した手を握る美月は、チラリと郁人の横顔を盗み見ると、郁人が真剣な表情を浮かべているのであった。その表情を見て、美月は今まで郁人やゆるふわ宏美が自分の事を心配して裏で色々していてくれたのだと悟るのである。
(郁人……郁人にも……出来ないことがあるって…無理なことがあるって……わかってくれれば……だから……本当はあんな人達には勝ってほしくないけど……私は負けられない、絶対に郁人には私は負けられないよ)
心の中で、自分と一緒にリレーを走る人物たちを思い浮かべる美月は、もしも、郁人に勝った時、この人達が調子に乗るのは嫌だが、やはり、郁人には負ける訳にはいかないという衝動が心を駆ける美月なのであった。
そして、郁人と美月はもうとっくにお昼の時間を過ぎてしまっての帰宅となり、家の前にたどり着くのであった。
「少し遅くなってしまったし……昼は適当にすますとして……美月……今日は俺の家に来るか?」
「い、いかないよ!! 明日の体育祭までは行かないって言ったもん!! 言ったからには行かないんだからね!!」
そう言って、美月から手を放して、美月の方に向き直ってそう聞く郁人に、美月は郁人と手を繋いでいた方の手を大事に胸元で摩りながら、強がってそう言うのである。
「そ……そうか……じゃあ、美悠ちゃんの勉強でも……」
「今日は休みって言ったよね? 美悠はたぶん、きっと、ううん…絶対にお出かけしてるから、今日はダメだよ!!」
そう美月に強く言われても、引き下がらない郁人に、もっと強気にそう言う美月なのである。
「そ……そうか……いや、でも、もしかしたら、居るかもしれないし……とりあえず、行ってもいいか?」
「絶対ダメだよ!! 郁人諦めなさい!!」
それでも、引き下がらない郁人に、ピシャリとそう言い放つ美月なのである。
「そ……そうか……じゃあ、し、仕方がないな……じゃあ……美月……また明日な」
「あ……い、郁人……う、うん……また明日だよ……」
ついに美月に負けた郁人は物凄く残念そうな表情を浮かべて、美月に別れの挨拶をして、自分の家にトボトボ帰るのである。そんな、郁人の誘いを断った美月は、郁人よりどんよりした雰囲気を醸し出して、物凄く名残惜しそうに郁人の背中を見つめるのであった。
(い、郁人の家に行きたいよ……でも、ここで私が折れたら、今まで我慢していた意味がないよ!! ここで、郁人に精神的揺さぶりをかけていけば……きっと、体育祭のリレーでもなんとかなるはずだよ……大丈夫…大丈夫だよ)
そして、自分の家に帰る美月は、残りの時間を一人寂しく部屋に引き籠って過ごし、郁人に会いたい欲求をひたすらベッドに横になって、クマのぬいぐるみを抱っこして、我慢する美月なのであった。
次の日の朝、美月は全くと不安と緊張で眠れずに、体育祭の当日を迎えてしまうのである。美月は、朝から本日のお弁当作りで気を紛らわせ、気合の入ったハンバーグ弁当を郁人のために作るのである。
(体育祭はお互いお弁当を作って交換しようってことになったけど……フフフ、郁人はわかっていないよ……私に郁人のお弁当を作らすというのは、私のやる気を最高値にする行為なんだよ!! 今日は、郁人のために最高のハンバーグを作ってあげるんだからね!!)
美月は、郁人へのお弁当を作るだけで、不安や眠気など吹き飛び、ニコニコ笑顔で郁人喜んでくれるかなとハイテンションになるのであった。
しかし、それは、郁人も同じで大好きな美月にお弁当を作らせてしまった美月なのであった。
そして、いつもより少し早い時間に家を出る美月は、家から出てくる郁人と家の前で、ばったり鉢合わせるのである。
「美月……おはよう」
「い、郁人……おはようだよ!! きょ、今日は郁人の命日なんだからね!! 今日こそ郁人をギャフンと言わせるんだからね!!」
美月は必死にメイクして目のクマを隠しているのに、普段通りに笑顔で挨拶をしてくる余裕の郁人にムッとなる美月は、郁人にプンプンとそう言い放つのである。
「命日って……今日…俺死ぬのか?」
「え!? あ……ち、違うよ!! そ、そう言う意味じゃないよ!! い、郁人が死んだら嫌だよ!! 死なないで!! 郁人!!」
美月にそう言われ、驚いた表情で落ち込みながら、ぼそりとそう呟くと、郁人に慌てる美月は、悲しみの表情で必死にフォローするのである。
「ハハハ、冗談だからな……美月は本当に可愛いな」
「ななななな、い、郁人の馬鹿!! 絶対の許さないんだからね!! 今日は、郁人が学校で恥をさらして精神的に死んじゃう日ってことだよ!!」
慌てながら、悲しそうな表情でそうフォローする美月を見て、笑いだす郁人に、美月は顔を真っ赤にして照れながら、怒りの声をあげるのである。
「まぁ……確かに…今日は負けられないな……」
「い、郁人……」
ムッと怒る美月に、郁人は急に真顔になって、そう呟くと、そんな郁人の表情を見て、郁人も緊張しているんだと思う美月なのである。
「じゃあ、行こうか……美月」
「うん……あ…」
郁人が差し出した手を無意識に握ってしまう美月は、ハッと、郁人の手を握ってしまったと思うのだが、そのまま、歩き出す郁人に手を放すことなくついて行く美月なのであった。
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