第216話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その62

「い、郁人様~!! わたしぃは大丈夫ですから~、自分で歩けますから~、下ろしてくださいよ~!!」


 お姫様抱っこで保健室まで運ばれるゆるふわ宏美は、休日のため、廊下には人が誰も居ないとはいえ、やはり、恥ずかしいゆるふわ宏美は、顔を赤く染めて、郁人にそうお願いするのである。


「いいから、大人しくしてろ……それに、ゆるふわは小さいから、持ち運びしやすいしな」

「な、なんですか~!? それ~!! わたしぃは別に小さくないですからね~!! でも~、郁人様がそこまで言うのなら~、仕方ないので~……って、い、郁人様!! やっぱり~、下ろしてください~!!」


 そんな、ゆるふわ宏美のお願いを却下して、揶揄うように顔を真っ赤にしているゆるふわ宏美の顔を見ながらそう言う郁人に、ムスッとなって、顔を背けながら、怒るゆるふわ宏美だが、これ以上何を言っても仕方ないと諦めかけるのだが、あることに気がついて、再度、必死に郁人にお願いするのである。


「いいから、大人しくしてろ…ケガしていたらどうするんだ」

「で、でも~、い、郁人様……み、美月さんが~……」

「美月? 美月がどうしたんだ?」

「美月さんが~……物凄い顔でこっち見てますよ~」


 暴れるゆるふわ宏美にそう注意する郁人に、恐怖の表情を浮かべて、冷や汗ダラダラなゆるふわ宏美がある一点を見つめながら、美月の名前を口にするので、疑問顔の郁人に、小声で伝えるゆるふわ宏美なのである。


(ひろみん、郁人にお姫様抱っこしてもらって!! 羨ましいよ!! いいな、いいな!! 私もして欲しいな!!)


 ゆるふわ宏美に言われて、美月の方を振り向く郁人は、物凄いジト目で、郁人とゆるふわ宏美を凝視する美月を見て、すぐに視線を逸らすのである。


「なんか、メッチャこっち見てるな……美月」

「あれは~、怒ってますよ~……絶対に~」

「……そうか?」


 郁人は、ゆるふわ宏美にそう言われて、もう一度美月の方を見ると、やはり、ジト目で、こちらを凝視している美月なのである。


「いや、あれは……やっぱり、可愛いな…美月は」

「な、なんで~、あの表情を見て~、そうなるんですか~!! 絶対に怒ってますよ~!!」


 再度美月の表情を確認して、頬を緩めて嬉しそうにそう言う郁人に対して、驚き正気を疑うゆるふわ宏美は、恐怖で震えるのである。


「美月……すまなかったな……来るのが遅れて、ゆるふわも、俺がもう少し早く来てれば」

「う、ううん……郁人は悪くないよ……悪いのは私だよ……ごめんね…ひろみん……私のせいで……」


 そんな、美月に郁人は声をかけて、謝罪すると、美月はハッと正気に戻って、慌てて、両手を振ってそう返事を返すと、しょぼんと落ち込むのである。結局、美月はゆるふわ宏美に頼って、結果的に郁人に助けられて、何一つ自分で解決できなかったことに酷く落ち込んでしまうのであった。


「美月さん……わたしぃは大丈夫ですよ~!!」

「ひろみん……本当に大丈夫?」

「はい~!! 大丈夫ですよ~!!」

「そ、そっか……よかったよ」


 落ち込む美月を励ますゆるふわ宏美を、心配そうに見つめて不安そうに再度心配の言葉を投げかける美月に、手と足をパタパタ動かして、元気アピールをするゆるふわ宏美に安堵する美月なのである。


「おい……ゆるふわ、もしかしたら、どこかぶつけて痛めてたらどうするんだ……保健室まで大人しくしていろ」

「は、はい~、すみませんでした~」


 腕の中で暴れるゆるふわ宏美に、本気で注意する郁人に、ビクッと怯えて、ショボンと落ち込むゆるふわ宏美は、素直に謝罪すると借りてきた猫の様に大人しくなるのであった。そんな郁人とゆるふわ宏美の会話を聞いていた美月は、またジト目で、二人の事を凝視するのであった。








 そして、保健室にたどり着くと、女性の保険の先生にゆるふわ宏美を見てもらう郁人と美月なのであった。そして、たぶん大丈夫だけど、後で痛みがでたら病院に行ってねと言われ、とりあえず、ベッドに座って休憩させられるゆるふわ宏美なのである。


「本当に大丈夫なんですけどね~……みんな、心配しすぎなんですよ~……それに~、郁人様が来なくても~、わたしぃがあいつを蹴り飛ばしてあげましたから~、美月さんは大丈夫ですからね~」


 ベッドに座って、足をパタパタさせながら、心配そうにベッドの横の椅子に座って付き添う美月とその隣に立っている郁人にそうドヤ顔で言い放つゆるふわ宏美に、笑顔な美月と、眉間にシワを寄せる郁人なのである。


「ゆるふわ……頼むから、危ないことするんじゃないぞ……今日は、心配だから家まで送っていくからな」

「そ、そこまでしてもらわなくても~、本当に~、大丈夫ですよ~!!」

「ううん……私もひろみんの事心配だから、一緒に送っていくよ」


 ファイティングポーズのゆるふわ宏美に、呆れながらそう注意する郁人は、今日の出来事もあり、ゆるふわ宏美を家まで送ると提案するが、ゆるふわ宏美は両手をパタパタ振って、遠慮するのだが、美月も心配そうな表情で送ると言うのである。


「と言う訳だ……今日は黙って自分の心配されるんだな……ゆるふわ」

「い、郁人様……では~、お言葉に甘えて~、送ってもらいますね~」

「じゃあ、俺は、みんなの飲み物でも買ってくるか……美月…いいよな?」

「え!? うん……いいよ」


 郁人は、呆れながらも優しくゆるふわにそう言うと、ゆるふわ宏美は笑顔で、そう返事を返すのである。そして、郁人は、保健室の出口に向けて歩き出しながら、飲み物を買ってくる許可を美月に求めると、それを許可する美月に、疑問顔のゆるふわ宏美なのである。


「じゃあ、言って来るな……あ…ゆるふわは缶コーヒーだよな?」

「あ……はい~、お願いしますね~…お金は後で渡しますので~」

「いや……今回は俺等のおごりだ」

「そうだね……いってらっしゃい……郁人」


 そう言って保健室の扉に手をかけると、思い出したように振り返ってゆるふわ宏美にそう聞く郁人に、ぺこりと頭を下げながらお願いするゆるふわ宏美に、ドヤ顔で奢ると宣言する郁人と、笑顔で同意しながら、郁人を見送る美月にやはり、疑問顔のゆるふわ宏美なのであった。


「……でも、郁人があんなに怒るなって……思わなかったよ」

「どういうことですか~? 美月さん?」


 郁人が出て行った保健室の扉をジッと見つめながら、美月がそうぼそりと呟くと、その呟きが聞こえたゆるふわ宏美が美月に問いかけるのである。


「郁人が……私のこと以外で本気で怒ったの……私、初めて見たよ……ひろみんは郁人に好かれてるんだね」

「そ、そうなんですか~……でも、わたしぃは……郁人様にそこまで好かれてもないと思いますよ~」


 ゆるふわ宏美の問いに、少し寂しそうな表情を浮かべて答える美月に、俯き、少し顔を赤らめて、否定するゆるふわ宏美なのである。


「ううん……郁人……自分の事でもあそこまで怒ったことないよ……今日の郁人……本当に怖かった……あんな怒った郁人……本当に久しぶりに見たから」

「……美月さん」


 そんな、ゆるふわ宏美の否定を、首を左右に振って、否定する美月は、悲しそうな表情で俯きながら、そう言うと、そんな美月を心配そうな瞳で見つめるゆるふわ宏美なのである。


「明日……勝負の結果がどうなるかわからないけど……ひろみん……もしも、私が負けたら、郁人の事……お願いね」

「な、何言ってるんですか~!? 美月さん……お願いって~……それって~……」


 美月は、今にも泣きそうな表情で、ゆるふわ宏美を真直ぐ見つめて、そうお願いすると、ゆるふわ宏美は驚き、もしも美月が体育祭のリレーで負ければ、郁人の作戦を受け入れるという発言に、ゆるふわ宏美を悲痛の表情を浮かべるのである。


「……ひろみん!! でも、私は負けるつもりはないよ……もしもの時の話だから……でも、私が郁人を止められなかったら……もう、ひろみんしかいないから……だから、お願いね」

「……考えて……おきますね~」


 そんな、悲しみと不安の表情を浮かべるゆるふわ宏美の名前を叫ぶと、美月は真剣な表情でそう言って、もう一度、お願いするのである。そんな、美月のお願いに対して、受け入れることも、拒否することもなく、逃げの発言をするゆるふわ宏美に、笑顔を浮かべる美月はもう一度お願いねと言うのであった。

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