第190話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その35

 そして、日曜日は、土曜日に言っていたように、美悠と雅人の二人を郁人家リビングに呼び、厳しく勉強を教える郁人なのである。雅人はもちろん嫌がったが、郁人の圧に屈して参加し、渋々参加の美悠も露骨にテンションが下がっているのである。


 そして、郁人家は本日仕事が休みの父の晴人は、郁人を恐れて、どこかにお出かけして、母の麻沙美は、寝室に逃げて、引き籠るのであった。


 一方、美月は、自室で暇そうにしているのである。漫画を読もうとしては、閉じて、また、暇だから、漫画を読もうとしては、閉じてを繰り返す美月は、心底こう思うのである。


(私、郁人が居ないと休日こんなに暇なんだね)


 昨日は、気まずいままに別れてしまったが、今日も17時には郁人の家に行く美月なのである。もちろん、あんなことを言ってしまって気まずいが、郁人の家に行かないと言う選択肢は美月にはないのである。


 そして、17時になると、すぐに美月は郁人の家に向かうのである。暇すぎる休日を過ごして、やっと郁人の家庭教師の終わる時間になったと美月は、急いで郁人家の合鍵を使って、郁人家に入ると、そこには、テーブルに突っ伏して、精魂尽き果てたと言わんばかりの美悠と雅人に、厳しい表情の郁人なのである。


「来週は体育祭があるから、休みだけど、課題の問題集を終らせておくように、記憶問題は、再来週までに暗記するんだぞ……テストするからな」


ポカーンと廊下から、厳しく言い放つ郁人が居るリビングの方を見ている美月に気がつく郁人は、美月のところに行くのである。


「じゃあ、美月来たから、俺は部屋に行くからな……雅人は、このまま、予習復習して、美悠ちゃんも、帰ったら、きちんと予習復習するように…じゃあ、美月行くか」

「う、うん……そ、その……み、美悠も雅人君も……が、頑張ってね」


 もはや、ただの屍のような美悠と雅人に、そう言って、美月は、申し訳なさそうに郁人について行くのであった。


 そして、ゾンビの様にのっそり動いて、美悠は雅人を、雅人は美悠を睨むのである。


「どうしてこうなったのよ!! あんたが何かお姉ちゃんにしたんでしょ!!」

「し、知らねーよ!! だから、兄貴の家庭教師なんて嫌だったんだよ!! お前、よく兄貴の家庭教師なんて耐えられたな…これが毎週続くと思うと……絶望だぜ」

「ふ、二人の時はもっと、優しかったよ!! あんたが真面目に受けないから、お兄ちゃんきびしくなるんでしょ!!」

「はぁ!? 俺のせいだって言うのかよ!!」

「絶対そうでしょうが!!」


 鬼家庭教師の郁人が去った後に、すぐに喧嘩を始める美悠と雅人なのであった。どうしてこうなったのかという、後悔しかない二人なのであった。






 そして、美月は気まずそうに郁人の部屋に入ると、いつもと違って、ソロソロと遠慮がちにベッドに横になる美月なのである。


 そんな、美月に微笑む郁人は、いつも通り床に座ってラノベを読みだすのである。あまりに、普段通りの郁人に、呆気にとられる美月だが、これも、私を油断させる作戦かもと気合を入れて、郁人の枕を力いっぱい抱きしめる美月なのであった。


「い、郁人は、体育祭で私と勝負するのに……よ、余裕そうだよね…100m走は郁人の独走かもだけど、リレーは1組より、7組の方が優秀だよ……陸上部が三人もいるんだよ!!」

「別に余裕ではないが……でも、まぁ、負ける気はないぞ」


 ベッドに横になってしばらく、郁人をジッと観察していた美月だが、黙々とラノベを読む郁人に、我慢できなくなって、挑発する美月だが、視線をラノベから逸らすことなくそう言い放つ余裕の郁人に、ムッとなる美月なのである。


「さ、さすがの郁人がどれだけ、凄くても、リレーはチーム戦だよ…郁人が超凄くても、一人じゃ勝てないんだからね!!」

「そうだな……俺は別に凄くも、超凄くもないが……チームとして勝つつもりだぞ」


 美月は、郁人に対して、挑発したいのだが、褒めたいのか、訳わからないことを言うのだが、また、普通で余裕の郁人に焦りを感じ始める美月なのであった。






 あまりの余裕の普段通りの郁人に対して、絶対に勝つ為には手段は選んではいられないと思う美月なのであった。そして、次の日、やはり、普段通りの郁人と手をつないで、ゆるふわ宏美との待ち合わせ場所について、郁人と別れて、何故かそわそわ、挙動不審のゆるふわ宏美と一緒に学校に向かうのである。


「ひろみん……あのね」

「な、何ですか~!? み、美月さん!! あ、あれですか~、た、体育祭のお話ですか~!?」

「え? うん……そうだよ」

「そ、そうですよね~!! よくよく、考えたら~……さ、さすがにないですよね~!!」

「……え? ひろみん? 何言ってるの?」


 慌てふためくゆるふわ宏美に、疑問顔の美月なのである。


「何って~……た、体育祭のお話ですよね~?」

「そうだね」


 お互い疑問顔になるのである。当たり前だが、美月はクラス対抗リレーの話をしたくて、ゆるふわ宏美は、チア衣装の話の件と思っているため、話しが噛み合う訳がないのである。


「えっと……あ……ううん…なんでもないよ……お互い頑張ろうね!!」

「え!? が、頑張るんですか~!? み、美月さん……や、やる気なんですか~!?」

「勿論だよ!!」


 美月のやる気の表情と発言に、絶望の表情を浮かべるゆるふわ宏美なのである。そして、この時のお互いの認識のズレを後程、後悔する二人なのであった。

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