第183話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その28

 美月の意見はあっさり受け入れられ、走る順番もあっさり決まって、解散となった。政宗は美月に一緒に生徒会室に行こうと、爽やかイケメンスマイルで言うのだが、浩二が美月に話があるから、政宗は先に言ってくれないかと言うが、あからさまに不満顔の政宗なのである。


「覇道君……ごめんね。私も永田君にお話しがあるから、先に行って、生徒会長たちに少し遅れるって伝えてくれないかな」

「いや……しかし、美月…」

「……お願い…覇道君」


 美月は、面倒だが、とりあえず頭を下げて政宗にお願いすると、政宗は、渋々了承して、教室から出て行くのである。


「……で……永田君…私が聞いてない話があるよね?」

「そ、それは……す、すまないぜ!! この通り!! 許してくれ!! 政宗を教室に引き留めるには、ああ、言うしかなかったんだぜ!!」


 浩二はすぐに華麗なら土下座を披露して、ムッと、怒っている美月に謝罪と言い訳を述べるのである。


「……言っとくけど……絶対に着ないからね」

「……ど、どうしてもダメか!?」

「絶対に着ないからね!!」


 浩二は、そこを何とかとお願いするが、美月は、ピシャリとそう言い放って断る美月なのである。


(まずいぜ!! これは絶対にマズイ……ほ、細田に助けてもらうしかねーぜ!!)


 美月にそう言われて、浩二は、ゆるふわ宏美に後で相談しに行くことを決めたのであった。


「そ、それは……また、今度考えてもらうとしてだぜ」

「考えたりしないから!!」

「そ、そうか……あ…いや、それよりだぜ!! 美月ちゃん、朝宮となんかあったのかよ!? 戻って来てから、様子変だぜ」


 それでも、何とか、考え直してもらおうとする浩二に、殺意の眼差しを向けながら、厳しくそう言い放つ美月に、肩を落とす浩二だが、ハッとなり、本来聞きたかったことは、お昼の出来事であった。


「……別に……何もないよ……ただ、体育祭で、郁人にクラス対抗リレーで絶対に勝つって言われたよ」


 美月は、少し考えて、一部だけ本当の事を浩二に話すのである。浩二は、それを聞いて、腕を組んで考え込むのである。


「朝宮がそんなことを……美月ちゃんに…何でなんだ?」

「……理由は、どうでもいいけど…私は、絶対に郁人に勝たないといけないの……だから」

「そうか……それで、アンカーになった訳か……でも、普通に考えて、朝宮達、1組に勝てるとは思えねーんだけどよ」


 美月に真剣な表情でそう言われて、浩二は、美月がアンカーを任せてと言った理由に納得するが、それよりも、郁人とゆるふわ宏美が、勝てない勝負を挑むという事に違和感を感じるのであった。


 そして、浩二は少し考えて、ハッと先ほどの美月の発言を思い出すのである。


「み、美月ちゃん!! さ、さっきだけどよぉ、朝宮の体力測定の結果見て…朝宮の奴が本気じゃねーみたいなこと言ってたけど……それって、どういうことだ?」


 そう焦って、浩二は美月に問いかけると、美月は、少し考える素振りを見せた後に、浩二に話すのである。


「……郁人は、たぶん、この学園で一番足が速いよ……正直、あの陸上部のいけ好かない人たちより、ずっとね」

「……いや……さすがにそれは……え!? み、美月ちゃん……マジか?」


 流石にそれは、幼馴染の恋人贔屓だろと思う浩二だが、美月の真剣な表情を見て、美月が事実を言っているのだろうと思うのであった。


「……中学の頃……陸上部に全国大会に出た男子生徒が居たんだけどね……郁人は、その男子生徒と勝負して……勝ったことがあるの」

「……ま、マジかよ!?」

「うん……それから、陸上部の顧問の先生がしつこく郁人を勧誘して、でも、郁人は絶対に部活には入らないって、言って……だから、高校で、陸上部とか、運動部に勧誘されないように、体力測定は手を抜いて受けるって言ってたの」


 浩二は再度先ほど、政宗から預かった紙を見て、1組のデータを見て、自分達の7組のデータを見る比べるのである。


「いや……さすがに、朝宮が早くても、そこまで差はねーだろ……他は圧勝してるわけだしよ」

「……そうかな? 郁人……自身満々だった……幼馴染だからわかるんだ……郁人は、7組に勝てるって確信してるよ……このままだと、たぶん……私達は負けるよ」


 美月が真剣表情で、そう言うので、緊張で唾を飲み込む浩二だが、それでも、美月に反論する浩二なのである。


「いや……でもよ…さすがに、それでも……陸上部三人だぜ……タイムだって、みんな1組より早いしよ」

「私達の陸上部なんて、言っちゃ悪いけど、所詮、進学校の陸上部でしょ……どうせ、区大会止まりと、全国レベルじゃ、話しが違うよ……そもそも、郁人の中学1年の時のタイムですら、7組メンバーは誰も勝ってないよ」

「ま、マジかよ……で、でもよ……さすがの朝宮でも、この総合タイムの差を縮めるのは無理だろ? いや……待てよ!?」


 浩二は、美月から衝撃の事実を聞くが、それでも、さすがに7組の方が優勢と思ったが、あることに気がつくのである。


「僕達の学校のトラックは1周400m……一人半周……確かに朝宮が本当にそんなに速いなら縮めることも……いや…でもよ……それなら、なおさら僕達の方が有利なんじゃねーか?」


 浩二は、確かに100m走のタイムでも、2倍なら、それなりに速さに差がつくと思いついたが、それなら、総合力で、早い7組の方がやはり有利だと思ったのである。


「うん……私もそう思うんだけどね……だから、郁人に勝てるかもって思って……アンカーに立候補したけど……でも、やっぱり、郁人があんな表情で言うなんて……何かあるんだよ」

「……リレーだと、バトンの受け渡しが重要だって言う……まさかそこか!? 確かに、朝宮達がバトンの受け渡しのロスをなくせば……朝宮の足の速さで、7組との差を縮めることができる!?」

「うん……私もそう思うんだ」

「1組は、クラスの結束力が高いって言うぜ……三橋がすげー発言権もってるとか……」


 浩二は、郁人がどれだけ足が速いかはわからなかったが、リレーでタイムを縮めるなら、それしかないと思い当たるのである。そして、美月も同じ考えに至ったみたいだ。


「じゃあ、美月ちゃん……僕達がやることはただ一つだぜ!!」


 不安そうにしている美月に、浩二は自信満々でそう言い放つのである。


「それって?」


 浩二のあまりの自信あふれる姿に、首を傾げて疑問気な美月なのである。


「僕達も、バトンの受け渡しの練習すればいいだけじゃねーか!!」


 浩二は、そう言い放つと、美月は、驚いた表情を浮かべた後に、にやりと笑うのである。


「確かに……そうだね」


 浩二の意見賛同した美月は、これなら、郁人に勝てるかもと、希望の炎を心に灯すのであった。

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