第182話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その27

 てっきり、かなり上機嫌で美月が戻ってくるものと思っていた浩二は、美月が、無表情でぎりぎりの時間に教室に戻ってきたことに対して、疑問を抱くが、予鈴がなって、すぐに席に着かないといけなくなったため、美月に疑問をぶつけられないまま、悶々と、五限目の授業を受ける浩二なのであった。


 そして、五限目の授業が終わって、昼休みの事を美月に聞きたい浩二は、すぐに美月の所に向かうが、それよりも早く政宗が、美月に声をかけるのである。


「美月……体育祭…楽しみにしているから」

「……そうなんだ」


 いきなり政宗にそう言われて、覇道君、体育祭楽しみにするほど、好きなんだという感想しか抱かない美月は、冷たくそう言うと、ボーっと窓の外を眺めるが、浩二は、マズイと、慌てるのである。


「本当に楽しみだよ……美月に応援してもらえるなんて……しかも、チア姿で……美月、俺は必ず朝宮に勝つから!! 美月の期待に必ず応えて見せる!!」

「え!? 何の話?」


 政宗が、イケメンスマイルでそう言うと、ギギギギと、ロボットのごとく、窓の外を見ていた美月が、政宗の方に顔を向けるのである。そして、焦って冷や汗ダラダラな浩二が視界に入り、ギロリと睨むのである。


「……」

「……」

「どうしたんだい? 美月……そんな怖い顔をして……浩二も、先ほどから黙って……二人とも様子が変だが…大丈夫かい?」


 心の中で、謝る浩二を、無言で睨む美月なのである。そんな二人の様子に戸惑う政宗なのである。


「永田君……どういう事かな?」

「……み、美月ちゃん、そ…それは後で話すぜ」


 美月が、ニッコリ笑顔を浮かべて、圧を放ちながら浩二に質問するが、浩二は冷やせダラダラで、すべては後で話すと言うので、美月は、これ以上追及しても、この場では面倒になるかもと、ため息をついて、黙るのである。


 美月が黙って、これ以上この場で追及してこないことに感謝して、心の中で、感謝する浩二なのである。


「本当にどうしたんだい? 二人とも」


 黙る美月に、黙る浩二に、戸惑う政宗なのであった。






 そして、本日のホームルームで、急遽発表された男女混合クラス対抗リレーの選手選びをすることになった7組は、男子は、政宗、浩二、陸上部の男子生徒の三人にすぐに決まり、女子も、美月と、陸上部の女子生徒二人に決まったのである。


 そして、ホームルームが終わり、この六人で、リレーの走る順番や、作戦会議をするために、教室に残るのである。


「正直、負ける気しないっすよ!!」

「だね~、余裕、余裕」

「確かに~、陸上部男子と女子の1年エースが二人揃ってるし、私も早い方だし……夜桜さんがどんなに足を引っ張っても問題ないよね~」


 そう会話をする陸上部の三人に、美月は呆れるのである。そんな三人に対して、政宗も同調するのである。


「確かに……三人とも100m走のタイムは早い……7組の勝利は確実だろう……しかし、走る順番は重要だ……必ず1組に勝つ為にも」

「1組っすか? 1組って陸上部いないっすよ……正直雑魚っす!!」

「ああ、でも、郁人様が居るんでしょ…私は覇道君の方が良いと思うけど~」

「でも、リレーだし、郁人様一人じゃ勝てないって~、それに~、こっちは覇道君いるしね~」


 1組に対して、ライバル心を燃やす政宗にそう、興味なさげに言う陸上部の三人なのである。そして、陸上部の女子二人は覇道派の女子生徒なのである。


「まぁ、その通りなんだが…姑息にも、この男女混合リレーは朝宮が企てたことらしい」

「マジっすか!? つっても、1組に勝ち目無くないっすか?」

「郁人様って、そんなことするんだ~、少し幻滅~…まぁ、別にどうでもいいけど~」

「だね~、覇道君…頑張って郁人様に勝ってね~」


 好き放題に話す政宗と、陸上部の三人の会話を黙って聞いてる美月と浩二なのである。前の浩二なら、郁人の悪口に参加しただろうが、今回は静観しているのである。


「だからこそ、徹底的に、1組に勝ち、朝宮に現実を教えてあげるべきなのさ……まぁ、とはいえ、これは俺が独自に調査した1組のリレーのメンバーの体力検査の100m走のタイムだ」


 政宗がそう言って、一枚の紙を取り出して、みんなに見せるのである。1組のリレーのメンバーは、男子が、郁人とサッカー部の男子と野球部の男子の三人で、女子生徒が、梨緒とゆるふわ宏美と郁人様ファンクラブ親衛隊の一人なのであった。


「朝宮のタイム…浩二さんよりも遅いじゃないっすか!! しかも、女子も、1組で一番早い三橋さんで美月ちゃんと同レベル他の二人とか論外っすよ!!」

「これ、圧倒的に余裕じゃん…ていうか、郁人様、このタイムでこんなこと計画したの? ほんと幻滅~」

「やっぱ、適当でいいよ~……順番とかどうでもいい~…早く部活行かない?」


 もう勝利を確信した陸上部の三人なのである。政宗も、勝利を確信した様子なのである。好き勝手に言っている政宗たちに、冷や汗ダラダラな浩二は、美月の方を恐る恐る見るが、なぜか、無表情なのである。


(てっきり、美月ちゃん……滅茶苦茶、機嫌悪くなってると思ったけど……本当にどうしちまったんだ?)


 どうも、昼から様子が変な美月に対して疑問な浩二なのである。


(……はぁ~、本当に馬鹿な人達……郁人が手を抜いてるとも知らないで……)


 美月は、郁人の悪口を言っている四人に呆れ果てるのである。美月は、このタイムが郁人の本気ではないことを知っているのである。


「言っとくけど、その郁人のタイム…全然本気出してないと思うよ」

「はぁ~? 何言ってんの!? ていうか~夜桜さんって~、郁人様派なんだ~、じゃあ、覇道君に付きまとうのやめてよね~」

「ほんとそれ~、でも、これが現実なんだよ…覇道君の方が、郁人様より足が速いのよ」


 美月がそう言うと、陸上部女子生徒達は、すぐに美月に噛みつくのである。政宗が、そんな、女子生徒を睨むと、二人は、やばいとばかりに、慌てた様子で、大人しくなるのである。


「美月……美月が朝宮を警戒しているのは知っている……君は朝宮と勝負しているからね…だが、安心してくれ、タイムは嘘をつかない…必ず俺が君に勝利をプレゼントして見せるさ」


 政宗は、美月が勝てるかどうか不安から、そんなことを言ったと思い、イケメンスマイルで美月にそう言うと、陸上部の女子生徒二人は、つまらなさそうな表情をして、美月を睨みつけるのである。


(はぁ~、本当に面倒だよ……でも、確かに郁人は速いけど……このメンバーなら、男女混合リレーは郁人に勝てるかも…)


 美月は、他のメンバーのタイムを見て、こちらのメンバーも考慮して、そう考えると、美月は、こう言うのである。


「その……リレーのアンカーは、わ、私がやってもいいかな?」


 美月は、真剣な表情で、そう言うのであった。

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