第181話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その26
郁人は、美月と別れて、チャイムが鳴ったことに気づきながらも、教室には戻らず、保健室へと向かうのである。
保健室の扉を開いて中に入るが、相変わらず保険の先生は不在みたいで、ゆるふわ宏美を寝かせたベッドの所に行って、郁人は声をかけるのである。
「ゆるふわ……大丈夫か?」
「郁人様ですか~…大丈夫ですよ~……ついでに授業をサボろうと思って~、寝ていただけですからね~」
「……ああ、次の授業は、数学だったか……全く、心配して損したな」
寝ていたゆるふわ宏美は、郁人に声をかけられて、上半身を起こして、いつものゆるふわ笑顔でそう言うので、頭を掻きながら呆れる郁人なのである。
「郁人様こそ~、授業よかったんですか~? 真面目な郁人様がサボりなんて~」
「まぁな……良くはないが……ゆるふわが心配でな…さっきの事は、俺のせいでもあるみたいだからな」
「そ、そうですか~…でも、あの事は忘れてくださいね~」
ゆるふわ宏美は、少し嬉しそうな表情を浮かべながらも、先ほどの、醜態を思い出して、顔を赤く染めて、そう言うのである。
「……まぁ、大丈夫そうならよかった……しかし、ゆるふわ、ホラー苦手だったんだな」
「わ、忘れてくださいって~、わたしぃ言いましたよね~!?」
郁人は、意地悪な笑みを浮かべて、椅子に腰を下ろして、ゆるふわ宏美を揶揄うようにそう言うと、顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうな表情で、郁人を見ながらそう言うゆるふわ宏美なのである。
「しかし、ゆるふわ……ホラー苦手って言いながら、結構詳しいな」
「お、思い出させないでくださいよ~!! そ、その……む、昔の友人がホラー好きで~……無理やり見させられてたんですよね~……」
「ゆるふわ?」
郁人の疑問に、ゆるふわ宏美は、虚空を眺めて、無表情でそう言うのである。そんな、珍しいゆるふわ宏美の表情に、驚く郁人なのである。
「……あ…い、いえ~、なんでもないですよ~!!」
「そうか……そう言えば、落ち着いた様子から、梨緒から、話しは聞いてるみたいだな」
「ええ~、勿論聞きましたよ~…あの人、後でどうしてあげましょうかね~」
怒りのゆるふわ笑みを浮かべながら、ゴゴゴゴゴと怒りのオーラを放つゆるふわ宏美に、苦笑いの郁人なのである。
「あ……あと、ゆるふわがホラー苦手なの教えたの、美月だから」
「へぇ~……美月さんが~…そうだったんですね~」
郁人が珍しく、呆れた表情で、ゆるふわ宏美にそう言うと、怒りのゆるふわ笑みで、なるほどですね~と納得するのである。
「まぁ、美月も小さい頃はホラー苦手だったんだけどな」
「そうなんですか~?」
「ああ……美月を揶揄う時のネタに使えるからな……ゆるふわには話してやるか」
「それは~、それは~、是非とも詳しく聞きたいですね~」
悪い笑みを浮かべる郁人に、悪いゆるふわ笑みで返すゆるふわ宏美なのである。
「……小学生2年の時だったかな……美月の妹の美悠ちゃんは、幼稚園の小さい時からホラーが好きでな……いつもなら、ホラー番組がある時は、美月はすぐに自分の部屋に逃げてたらしいんだが……その日は、美悠ちゃんに、揶揄われたらしくて……美月の奴、ホラー苦手なのに強がったらしくて、ホラー番組を見たらしくてな」
「それは~……自殺行為ですね~……わたしぃにはわかりますよ~……それは無謀という事が~」
ゆるふわ宏美は、乾いたゆるふわ笑みを浮かべながら、気持ちのこもった声でそう言うのである。
「まぁ……そうなんだよな……美月、小さい時から、お化けって単語でも涙目になるほどホラー苦手だったからな……あ…すまない」
「……言っておきますけど~…わたしぃはそこまで、怖がりじゃないですからね~!!」
郁人はそう発言した後に、ハッとなって、ゆるふわ宏美の方を心配そうな瞳で見つめて謝罪すると、ムッとなるゆるふわ宏美は、不服そうにそう言うのである。
「そうか……まぁ、それで、結果は、火を見るより明らかだろ…結局、美月はゆるふわ宏美みたいに、恐怖でパニックになってな」
「……い、郁人様ぁ~!! いい加減に、わたしぃは怒りますよ~!!」
郁人に揶揄われて、怒りのゆるふわ笑みを浮かべているゆるふわ宏美に、悪かったと素直に謝る郁人なのである。
「それで、美月の両親も困り果てたが、俺の名前をずっと呼んでるからと、夜遅く、俺の家に来てな……恐怖で泣き叫ぶ美月は、俺を見ると、抱き着いてきて、それから、ずっと離れなくてな……結局、俺の家に美月は泊まって、一緒に寝たんだ」
「……え!? い、郁人様……それって~……ただの、惚気話じゃないですけ~!!」
郁人が嬉しそうに話す話に、んんんん? 首を傾げて聞いていたゆるふわ宏美は、ハッとなって、郁人にそう言うのである。
「ゆるふわ……人の話は最後まで聞け……まだ、この話は続きがあってな」
「なんですか~……もう惚気話なら聞きませんよ~」
話したそうな郁人に対して、ゆるふわ宏美はジト目で、懐疑的な視線を向けて、そう言うが、郁人は無視して話を続けるのである。
「それから、結構日にちが経った後に、また、美月が泣きながら、夜遅くに、美月の両親と一緒に訪ねてきて、また、ホラー番組を見て、怖くなったからと、美月は、俺の家に泊まることになったんだ」
「え!?」
「で……また、結構日にちが経った後に、同じように、美月と両親が夜遅くに訪ねてきて、俺に泣きつく美月は、また、俺の家に泊まることに」
「い、郁人様……それって……」
郁人の話を聞いて、確信を得た表情のゆるふわ宏美なのである。
「ああ……美月は、ホラー番組を見れば、俺の家にお泊りができると。怖がりでホラー苦手なのに、無理やりホラー番組を見ていたんだ」
「……み、美月さん……それは~……」
「もちろん、美月の両親は、絶対に怖くなるから、見るのやめなさいと注意しても、美月は無理やり、ホラー番組を見るらしく、大変だったらしい」
美月の母親の美里も、美月ちゃん、どうせ怖くなるんだから、ホラー見たらダメよ!! と注意しても、美月も見るもん!! と必死になって、ホラー番組を見る美月なのであった。
「まぁ、でも……何度もホラー番組を見て、美月はホラー耐性がついてきて、そんなに怖くなくなったけど、それだと、俺の家に来れなくなるから、怖がった振りをするようになったんだ」
「……そ、それは~……なんというか~……美月さんらしいですね~」
郁人の話に、呆れるゆるふわ宏美なのである。
「もちろん、美月の両親も、美月が怖がってないという事に気がついて、俺の家に連れて来ることはなくなって、物凄く不満そうだったらしいけどな」
「……あの~…郁人様……結局、この話って~……ただの惚気話じゃないですか~!!」
「いや……ホラー映画なんか見る時に、美月にこの話すると、真っ赤になって恥ずかしがるぞ」
ゆるふわ宏美が、ジト目で郁人を見ながらそう言うと、自信満々にそう言い放つ郁人なのである。
「……では~、今度美月さんにこの話してみますね~」
「ああ……でも、今日のゆるふわの様子を見て……美月の小さい頃を思い出したよ……まぁ、ゆるふわは、今でも小さいか」
「な、何てこと言うんですか~!! それに、わたしぃはそんなに小さくないですよ~!!」
郁人は、片手を宙でヒラヒラさせて、ゆるふわの身長こんなもんだろとアピールすると、ムッと怒りの声をあげるゆるふわ宏美なのである。
「……なぁ……ゆるふわ……美月との一緒にお昼過ごせるようにしてくれたの……お前だろ?」
「……わたしぃではないですよ~……永田さんが勝手にやったことですよ~」
郁人は、ムッと怒っているゆるふわ宏美に、笑顔で突然そう聞くと、ゆるふわ宏美は一瞬目を見開いて、すぐに、いつものゆるふわ笑みを浮かべながら否定するのである。
「……永田から聞いた……それに、さすがにホラー苦手だからって……あそこまで、怖がらないだろ…普通……」
「え!?」
郁人がゆるふわ宏美に、優しくそう言うが、ゆるふわ宏美は、戸惑いの声をあげるのである。確かに、ゆるふわ宏美は浩二に、提案したが、ホラーは本気で苦手で、演技などではなく、本気で怖がっていたゆるふわ宏美なのである。
「ゆるふわ……最近、俺の事、心配そうな目で見てたからな……心配かけたな」
「えっと~……それは~……」
「ゆるふわ……お前は…本当に優しい奴だな……ありがとな…ゆるふわ」
「い、郁人様……それは…ずるいですよ~」
ゆるふわ宏美は、最近、郁人が元気がないことを気にかけており、風紀委員会の件もあって、何かしてあげたいと思ったゆるふわ宏美だが、露骨に自分が動くと、郁人に対して、気を遣わせてしまうと、浩二を利用したゆるふあ宏美なのである。
「……風紀委員会の件はもう、気にしなくていいんだぞ」
「だ、だから……わたしぃではないですよ~」
「まぁ、そう言うことにしとくか……でも、ありがとな……おかげで、元気出た」
そう優しく言う郁人に、ゆるふわ宏美は顔が赤くなるのである。郁人が、自分の事を、きちんと見てくれていると、自分の事を理解してくれていると、それを知ったゆるふわ宏美の心は、きゅっとなり、郁人の方を見ていられず視線を逸らすのであった。
この時から、ゆるふわ宏美は、郁人を意識し始めることになるのであった。
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