第184話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その29

 一方その頃、美月と浩二の考え通り、郁人達1組リレーメンバーは、屋上に集合していたのである。


「ここなら、広さもありますし~、隠れて練習するにはもってこいですよ~」


 ゆるふわ宏美は、屋上という、ほぼ、彼女が私物化している場所を、コソ練場所として提案し、提供したことにドヤ顔なのである。腰に手を当て、ドヤ顔で無い胸を張っている姿を見て、呆れる郁人に、苦笑いの梨緒なのである。


「なぁ、俺達マジで……場違いじゃね?」

「だ、だよな……ここ、朝宮がいつも、女連れ込んでる場所だろ」


 梨緒に笑顔でリレーの練習に誘われて、部活があるからと逃げようとした、リレーメンバーの男子二人だが、笑顔で圧を放ちながら、リレーの練習に、しつこく誘う梨緒に屈した二人は、渋々、放課後の練習に顔を出したのである。


「じゃあ、張り切って練習しようかぁ」


 梨緒は、体操服姿で、長い黒髪をまとめながら、口で加えていたヘアゴムで、髪を結んでポニーテイルにして、気合を入れながらそう言って、練習に来たメンバーをまとめるのである。


「い、郁人様を一生推すために、あ、足を引っ張らないように頑張ります!!」


 緊張の面持ちで、リレーのメンバー入りしてしまった郁人様ファンクラブ親衛隊の一人が、梨緒の一声を聞いて、準備運動をしている郁人にそう言うのである。


「大丈夫です!! 郁人様……この子はキリングマシーンですから、存分に敵を殲滅してくれますよ」

「尊い郁人様のために、自慢の戦闘力を発揮してくれるはずですわ!!」


 そして、いつもの通り、郁人様ファンクラブ親衛隊も練習について来ており、ドヤ顔で、郁人にそう言うと、困惑して、ドン引きする郁人なのである。


「と、とりあえず、走るだけだから……一緒に頑張ろうな」


 郁人は、心の中で、殲滅? 戦闘力? と疑問が数々浮かんだが、とりあえず、危険そうなのでスルーして、苦笑いを浮かべながら、リレーメンバーの親衛隊の子にそう言うと、超嬉しそうなのであった。


「朝宮の奴!! 死ね!!」

「見せつけんじゃねー!! 死ね!!」


 その姿を見て、女子生徒とイチャイチャしていると思った男子二人が嫉妬でそう言うのである。


「二人とも、そう言わないでぇ、一緒に仲良く練習してねぇ」


 梨緒は、そんな男子生徒二人に、満面な笑顔でそう声をかけて、一緒に頑張ろうと言うと、男子二人は、顔を赤くして照れながら、が、頑張ろうかなと言うのである。


「でも、わたしぃもリレーのメンバー何て~……本当に勝てるんですか~?」

「ゆるふわ、勝負の前から、負けることを考えるな……大丈夫、勝つ為に練習しに来たんだろ」


 郁人や梨緒の一言で、やる気を出して、張り切って準備運動している周りの様子を見ながら、ゆるふわ宏美は不安そうにそう呟くと、郁人がそれを聞いて、笑顔で励ますのである。


「い、郁人様!? そ、そうですね~……わ、わたしぃも頑張りますね~」


 ゆるふわ宏美は、笑顔の郁人を見て、顔を真っ赤にすると、慌てて、郁人から離れて一人で、頑張りますよ~と言いながら準備運動を始めるのである。その様子に、首を傾げて疑問気な郁人だが、とりあえず、スルーして、その場で準備運動を再開するのである。


「あ、そう言えば、走る順番決めて無かったよねぇ……どうしようかぁ?」

「ああ、それなら、俺が決めておいた」


 梨緒にそう言われて、郁人は、あらかじめ決めておいたリレーの順番を発表するのである。郁人が決めたリレーの順番は、ゆるふわ宏美、野球部男子生徒、郁人様親衛隊戦闘担当おかっぱ娘、サッカー部男子生徒、ヤンデレ梨緒、そして、ギャルゲー主人公の郁人の順番なのであった。


「うん…私はいいと思うよぉ……必ず、郁人君に綺麗にバトン渡して見せるねぇ」

「郁人様一生推しの私は、郁人様が決めたことに絶対服従です!!」

「わ、わたしぃが一番ですか~!? に、荷が重いですよ~」

「お、俺は、この順番でもいいぜ!!」

「そうだな!! 俺も!!」


 やる気の梨緒と、郁人様親衛隊戦闘担当娘だが、ゆるふわ宏美だけが、乗り気ではないのである。そして、何故か、男子生徒二人は、郁人に勝手に決められたはずなのに、やる気満々なのであった。男子生徒二人は、可愛い女の子にバトンを渡されて、渡せるこの順番を内心喜んでいるのである。


「そんなに嫌なら……私が、宏美ちゃんが変わってもいいけどねぇ」

「いや……ゆるふわは最初が良いと思う……どうしても嫌か? ゆるふわ?」


 不安そうなゆるふわ宏美に、梨緒は、郁人にバトンを託す役目をしたいが、クラスが勝つ為なら、その役目を譲ってもいいと言うのである。郁人も、心配そうにゆるふわ宏美に声をかけるので、ゆるふわ宏美は、パチンと自分の両頬を叩いて、気合を入れるのである。


「だ、大丈夫ですよ~!! か、必ず一番最初にバトンを渡して見せますよ~!!」

「そんなに気負わなくていいんだぞ……大丈夫、みんな前だけ見て、一生懸命走れば、必ず勝てるから、じゃあ、この順番で行こう」


 郁人が、ゆるふわ宏美に、笑顔でそう言うと、気合満々に無理にゆるふわ笑みを浮かべていたゆるふわ宏美は、顔を赤くして、目を見開いて驚きの表情を浮かべて、ゆるふわ笑みを崩すのである。


「どうした? ゆるふわ……なんだか、様子変だか?」

「へ、変じゃないですよ~!! さぁ、が、頑張りましょうね~!!」


 なぜか、慌てて視線を逸らして、物凄い勢いで準備運動をしながらそういうゆるふわ宏美なのであった。


(い、郁人様……そ、その笑顔は心臓に悪いですよ~…さ、さすがは学園ナンバーワンアイドル……ヤバすぎますよ~!!)


 保健室での一件で、普段仏頂面の郁人がたまに見せる笑顔に対して、耐性を失ったゆるふわ宏美は、郁人の笑顔を見るたびに、心臓がドキドキのバクバクで滅茶苦茶意識してしまっているのであった。

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