第168話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その13

 郁人様ファンクラブ部室がある階に、移動するために、階段を下り美月とゆるふわ宏美は、階段を上って来る浩二と、踊り場で鉢合わせするのである。


「ほ、細田と……み、美月ちゃんじゃねーか……いや~、ぐ、偶然だぜ……」


 そう、頭を掻きながら、露骨に挙動不審でそう言う浩二に、ゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑みを浮かべながら、呆れて、美月は、露骨に嫌そうな表情をするのである。


「永田さん、どうかしたんですか~、こんな遅い時間まで~」

「い、いや、ちょと、部室の片づけしてたら、遅くなっちまったぜ……そ、そっちはこんな時間まで何してたんだよ?」

「わたしぃは、郁人様ファンクラブの活動で~、遅くなってしまって~、今から、美月さんと一緒に帰るとこなんですよね~」


 そう、何気ない会話をするゆるふわ宏美と浩二に、あからさまに、不機嫌そうな美月なのである。


「ひろみん!! 早く部室に行って、帰ろうよ」

「そ、そうですね~……で、では~、わ、わたしぃ達はこれで~」


 美月にそう急かされるゆるふわ宏美は、浩二にそう言って、この場を後にしようとするが、浩二が必死に止めてくるのである。


「ちょ、ちょっと、待ってくれ!! み、美月ちゃん……その、は、話しがあるんだけどよ!! す、少しだけ、話を聞いてくれねーか!?」

「……ひろみん!! 早く行こうよ!!」


 そうお願いする浩二を、完全に無視して、ゆるふわ宏美にそう言う美月に、困る浩二は、ゆるふわ宏美の方を、ジッと、助けての視線で見つめるのである。


(細田……助けてくれ、マジで……)

(そんな、あからさまに、助けて欲しそうな視線でわたしぃを見ないでくださいよ~、美月さんにバレてしまいますよ~!!)


 そう、この鉢合わせは、偶然ではなく、ゆるふわ宏美と浩二による必然的なモノなのである。


「そ、そうですね~、では~、わたしぃ達はこれで失礼しますね~」

「ま、待ってくれって!! マジで、す、少しで良いから、僕の話を聞いてくれ!!」


 ゆるふわ宏美は、浩二を見捨てる選択をするが、浩二は必死に、そう言って、お願いするのであるが、美月は、露骨に不機嫌そうなのである。


「……はぁ~、美月さんに話って~、何ですか~?」

「み、美月ちゃんに……その……あ、謝りたいことがあるんだぜ!!」

「……」


 浩二は、ゆるふわ宏美から、本題に入りやすいように話を振ってもらい、何とかそう言えるのだが、言われた美月は、無言で不機嫌そうに浩二を睨むのである。


「……み、美月ちゃん!! マジで、僕が悪かった!! 美月ちゃんの事をよくも知りもしねーのに、勝手なことを言って悪かった!! 本当に、反省している!!」


 浩二は、頭を下げて美月にそう謝罪するが、美月の視線は冷たいのである。


「謝ってくれなくてもいいよ……私、言ったよね……絶対に許さないって」


 美月のあまりに冷たい声に、浩二だけではなく、ゆるふわ宏美まで、背筋が凍るのである。ゆるふわ宏美でさえ、美月がここまで怒っているとは予想していなかったのである。


「……早く行こう……ひろみん」

「え、ええ……そ、そうですね~」


 美月にそう言われて、ゆるふわ宏美は、部室に向けて歩き出さすのだが、浩二は、そんな二人について行くのである。


(永田さん……なんでついてくるんですか~、そんな、助けて欲しそうな視線でわたしぃの方を見ても困ります~!! もう、どうしようもできませんよ~!!)


 ひろえもん助けて~と、浩二は、ゆるふわ宏美と美月の後ろをついてきながら、助けての視線でジッと、ゆるふわ宏美の背中を見つめるのである。そんな、浩二の視線に気がついているゆるふわ宏美は、冷や汗ダラダラなのである。


「……」


 後ろを浩二がついて来ていることは、もちろん、美月も気がついていて、超絶不機嫌なのである。そんな、美月にゆるふわ宏美は、心の中で悲鳴をあげるのであった。


「……こ、ここが、郁人様ファンクラブの部室ですよ~……で、では、開けますね~」


 郁人様ファンクラブの部室に、険悪な雰囲気で到着して、ゆるふわ宏美は、もうヤケクソでそう言うのだが、相変わらず美月は不機嫌で、浩二は、ジッと、ゆるふわ宏美に助けての視線を向けるのである。


「ここが、郁人のファンクラブの部室なんだね……その……普通だね」

「いえ~、だから、言ったじゃないですか~……普通ですよ~って~」

「でも、ファンクラブなんだし、い、郁人のポスターとか、ぐ、グッズみたいなのがあるかなって思って」


 美月は、部室の壁一面に郁人の写真が貼られ、棚や机には、郁人の写真やグッズが大量にある夢の部屋を想像していた為、普通の空き教室のような部室にガッカリするのである。


「……で、永田さんまで~、なんで入ってくるんですか~!?」


 部室の鍵を開けて、ゆるふわ宏美と美月は、部室に入って会話をしていると、浩二も二人の後について、部室の中に入ってくるので、さすがに、ツッコムゆるふわ宏美なのである。


「い、いや……それは……」

(だから、やめてくださいよ~!! そんな、助けて欲しそうにされても~、わたしぃは何もできませんからね~!!)


 ゆるふわ宏美に助けて欲しそうな視線を向けて、返答に困っている様子の浩二に、焦るゆるふわ宏美なのである。


「……」


 その様子を、やはり、不機嫌そうな瞳で見ている美月に、冷や汗ダラダラなゆるふわ宏美は、もう、こうなったら、ヤケクソとばかりにこう言うのである。


「永田さん……では、美月さんに謝罪して~、それ以上何かお話があるんですか~? お話があるから~、ここまでついてきたんですよね~!!」

「い、いや……僕は、美月ちゃんに許してほしくてよ」

「美月さんは、許す気はないみたいですよ~!!」


 美月さんはわたしぃが守ると言わんばかりに、美月の前に出て、浩二に強くそう言うゆるふわ宏美に、ひろみんと感動する美月と、戸惑う浩二なのである。


(ほら~、永田さん!! 今ですよ~!! 例の作戦を決行するときですよ~!!)

(ま、まさか、あの作戦の話を美月ちゃんに言えってことかよ!?)


 ゆるふわ宏美は、浩二に、視線で、美月に、郁人と二人きりでお弁当を食べる時間を作るって言いなさいと視線で訴え、浩二は無理だと視線で返答するのだが、ゆるふわ宏美の有無を言わさぬ圧の込められた視線を向けられて、浩二は腹を括るのである


「美月ちゃん!! 言葉で謝罪しても意味がねーってのはわかったぜ!! だから、僕は詫びとして、朝宮と美月ちゃん……ふ、二人で昼……一緒に弁当を食べる時間を作る!! それが出来たら許してくれねーか!!」


 その浩二の発言に、今まで不機嫌で、浩二の事に全く興味を示さなかった美月が、反応を示すのである。


「……それって、本当に二人きりで? 郁人と?」

「ああ、二人きりでだぜ!! 絶対に邪魔は入れさせねーぜ!!」

「本当に本当?」

「ああ、本当に、本当だぜ!!」

「……そっか……そ、それが、もし、本当にできたら、ゆ、許さないこともないかもだけど…」


 美月はあからさまに、この話に釣られてしまっているのである。期待の視線を浩二に向ける美月に、冷や汗が止まらない浩二なのである。


「待ってくださいね~……言っておきますが~、わたしぃは反対ですからね~……学校で、郁人様と美月さんが一緒にお弁当を食べていたんなんて~、バレたら大変なことになりますよ~」

「そ、そうだよね……うん……一緒にお弁当食べるなってできないよね」


 ゆるふわ宏美にそう言われて露骨に落ち込む美月を見て、浩二は、やっと、美月にしてやれることに気がつくのである。


「いや!! 僕が必ず!! 美月ちゃんと朝宮二人で、バレずに弁当を食べれるようにするぜ!! 細田!! お前がどれだけ反対しようと、僕はやるぜ!!」


 そう声高らかに宣言する浩二に、呆れながらも、心の中で頑張ってくださいね~と応援するゆるふわ宏美と、少し、郁人と一緒に、お昼お弁当が食べられるかもと期待する美月なのであった。

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