第167話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その12

 今日も体育祭実行委員のお仕事を手伝い、帰りが遅くなる美月は、早く帰って、郁人の部屋に行きたいと急いで帰り支度を進めると、スマホの通知を見て、親友のゆるふわ宏美、通称ひろみん(美月だけ)から、メッセージが来ていることに気がつくのである。


(ひろみんからだ……なんだろ……あ!! ひろみん、今から帰るから、途中まで一緒に帰ろうって!! もちろん、いいよっと)


 美月は、今まで機嫌が最高潮に悪かったが、大好きなゆるふわ宏美が一緒に帰ろうと誘ってくれたことで、機嫌がよくなるのである。


「美月、途中まで一緒に帰らないかい?」

「……ごめん、私用事あるから、先に帰るね」


 いつも通り、政宗がそう言って、一緒に帰ろうと誘って来るが、間髪入れず断ると、すぐに生徒会室を後にする美月なのである。そんな、すぐに去っていく美月の背中をジッと見つめる政宗なのであった。


「あ……ひろみん!!」

「美月さん……生徒会のお仕事お疲れ様です~……では~、途中まで一緒に帰りましょうか~」

「郁人は、一緒じゃないの?」

「風紀委員会は、まだ、残ってるんじゃないですか~? わたしぃは、よくわかりませんが~」

「そっか~……郁人から、まだ返事来ないから、まだ、お仕事中なんだろうね」


 美月は、待ち合わせ場所である1組教室に行くと、ゆるふわ宏美が教室で自分の席に座って待っていたので、声をかけて、教室内を見回して、ここに来るまで、もしかしたら、郁人も一緒に居るんじゃないかと、少し期待していた美月は、がっかりするのである。


「フフフ、でも~、教室には誰も居ませんよ~……ほら~、美月さん……あそこが、郁人様の席ですよ~」

「そ、そうなんだね……私、1組の教室に入るの初めてだよ……あそこが郁人の席……」


 ゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑みを浮かべながら、美月に郁人の席の場所を教えると、美月は、ソワソワし始めて、チラチラ郁人の席を見るのである。


「もう、学校に生徒はほとんど残っていませからね~、座りたいなら、座って大丈夫ですよ~、郁人様には内緒にしておきますからね~」

「ひ、ひろみん!? す、座りたいなんて思ってないけど……ひ、ひろみんがどうしても、座って欲しいなら……す、座ってみようかな」


 美月は、真っ赤になって、そう言いながら、誘われるように郁人の席に向かって、恐る恐る、郁人の席に座ると、嬉しそうに笑顔を浮かべるのである。


「美月さんには~、わたしぃのお願いで~、迷惑かけてますからね~……些細なお礼ですが~、喜んでもらえて何よりですよ~」

「……仕方ないよね……郁人……モテるから……ひろみんが私の事、心配してくれてるのは、わかってるから……ありがとう、ひろみん」


 お互い何がとは言わないが、やはり、美月を郁人から引き離していることに対して罪悪感があるゆるふわ宏美と、郁人に学校で会えないことに不満を感じながらも、ゆるふわ宏美が、自分達の事をきちんと考えて行動してくれていることを理解している美月なのである。


 二人の間には、確かに信頼関係が築かれているのであった。だからこそ、笑顔でお礼を言う美月に対して、ゆるふわ宏美は、罪悪感で心が痛くなるが、悟られないように、いつも通りゆるふわ笑みを浮かべるのである。


「これが、普段郁人が見ている景色なんだね……私達、小学校5年の時から、一緒のクラスになったことないんだよね……たぶん、呪われてるんだ……あの時から……」

「美月さん?」


 儚げな表情で突然そんなことを言う美月に、ゆるふわ宏美は、ジッと美月を見ながら、彼女の名前を呼ぶのである。


「なんでもないよ……ひろみん…そう言えば、ひろみん……最近、郁人……何か言ってた?」

「何かって~、何ですかね~?」

「……例えばだけどね……昔の事とか……後、私の事とか……」

「いえ~、とくには何も聞いてませんよ~」

「そっか……そうだよね……郁人が誰かに昔の話をするなんて思えないしね……ひろみんになら、もしかしたらって思ったんだけどね」


 美月が、ジッとゆるふわ宏美を探るような視線で見つめながら、そう聞くが、いつも通りゆるふわ笑みを浮かべて、とぼけるゆるふわ宏美に、納得する美月なのである。


「もしもだけどね……郁人が……変なことをしようとしたら……ひろみん、絶対に止めてあげて欲しいの……その、変なこと言ってるのはわかるけど、きっと、ひろみんになら、郁人……話すと思うんだよね……郁人、ひろみんの事、凄く信頼してるのわかるから」

「美月さん……」

「じゃあ、帰ろうか!! 郁人の席に座れて満足だし……い、いや、別に嬉しくはないんだけどね!!」


 真剣な表情で、ゆるふわ宏美の瞳を真直ぐ見つめてそうお願いすると、郁人の席から立ち上がり、顔を真っ赤にして、今更、郁人の席に座っていたことが恥ずかしくなる美月なのである。


「そうですね~、では~、途中まで一緒に帰りましょうか~……教室の鍵、職員室に返しに行かないといけませんしね~」


 ゆるふわ宏美は、美月を郁人の席に座らせてあげるために、わざわざ、職員室に忘れ物を取りに来たと、教室の鍵を借りて、美月を待っていたのであった。


「うん!! じゃあ、ひろみん!! 帰ろう!!」


 そう言って、笑顔で教室から出てくる美月を見ながら、ゆるふわ宏美は、教室の扉を閉めて鍵をかけながら、美月に見えないところで、ゆるふわ宏美は悲しげな表情を浮かべるのである。


(美月さん……ごめんなさい……もう、わたしぃでは郁人様を止めることはできませんでした~)


 そう、美月に心の中で謝罪して、スマホを見ると、ある人物からのメッセージを見て、いつも通りのゆるふわ笑みを浮かべて美月にこう言うのである。


「美月さん……すみませんが~……わたしぃ、部室に忘れ物したみたいで~……今から寄っていいですか~?」

「うん……いいよ……部室って……郁人のファンクラブの?」

「そうですよ~」

「そ、そっか……な、中とか入ってのいいのかな?」

「別にいいですよ~……特に、美月さんが期待するものはないと思いますが~」


期待の眼差しで美月にそう言われて、ゆるふわ宏美は、困ったゆるふわ笑みを浮かべてそう言うのである。


 そして、二人は、郁人様ファンクラブに向けて移動を開始するのである。そして、ゆるふわ宏美は、嬉しそうに後ろからついてくる美月にバレないように、素早くスマホで、ある人物にメッセージを送り返すのであった。

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