第169話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その14

 郁人様ファンクラブの部室で、浩二とは別れて、ゆるふわ宏美といつもの待ち合わせ場所まで一緒に帰る美月は、少しだけ、浩二の言ったことに期待していたのである。しかし、ゆるふわ宏美に念押しの様に、一緒にお昼ご飯を食べるのはダメですからね~と言われて、しょぼんとしながら、納得する美月なのであった。


 次の日、美月は昨日、帰りが遅くなって、ほんの少ししか、郁人と一緒に居られなかったこともあり、朝、ゆるふわ宏美との待ち合わせ場所で、郁人と別れる時も、悲しそうな美月なのであった。


「おはようだぜ……美月ちゃん……きちんと、僕なりに、昨日言ったことの作戦練ってきたぜ!!」


 ゆるふわ宏美と一緒に登校している時も、落ち込んでいた美月は、浩二がまた校門前で待っていて不機嫌になるが、浩二にそう言われて、ムスッとしながらも、その話に興味がある様子の美月なのである。


「永田さん……そのお話は、ダメって言いましたよね~」

「大丈夫だって、細田……僕に任せておけだぜ!!」


 自信満々にそう言う浩二を、ジト目で見つめるゆるふわ宏美なのである。そこからは、美月は、浩二の作戦内容を聞きたくてソワソワしており、いつもとは違った感じで、素早くゆるふわ宏美と、教室前で別れて、素早く自分の席に座って、浩二から作戦の内容を聞くのである。


「その……作戦ってどんな感じなのかな?」

「ああ……まず、場所だけど……ここは、美月ちゃんのファンクラブの部室を使うぜ……ここは、完全に僕が管理しているし、鍵も僕しか持ってねーからな……ここに、美月ちゃんと朝宮が入った後に、二人が内側から鍵をかければ、誰も入って来れねーぜ」


 興味がない振りをしながら、そう、興味津々で尋ねる美月に、浩二は、まだ生徒の少ない教室を見回して、美月に小声で説明するのである。


「か、完璧な作戦だよ……そ、それなら、誰にも邪魔されずに、郁人とお弁当が食べられるよ」

「ああ……だけど、問題もあるんだぜ」

「問題?」


 美月は、浩二の完璧な作戦に感心して、瞳をキラキラさせて、喜びだすが、浩二が頭を掻きながら、困ったようにそう言うので、疑問顔の美月なのである。


「ああ……わかってると思うけどよ……まずは、美月ちゃんが一人で、部室まで行かねーといけねーけど……政宗がそれを許すとは思えねーぜ」

「……確かに、そうかも……でも、それは、何とかならないかな?」

「ああ……これは、考えがあるけど……それと最大の問題は、朝宮だぜ」

「郁人?」

「ああ……朝宮をどうやって、美月ちゃんファンクラブまで、一人で来てもらうかが、最大の問題なんだぜ……僕は、朝宮の昼の行動を知らねーから、わりぃけど美月ちゃん、朝宮に昼はどうしているのか聞いてくれねーか?」

「うん……いいけど……でも、郁人に普通に、部室に来てって言えば大丈夫じゃないかな?」


 美月は、もう作戦が成功したものと思っており、郁人と二人でお弁当が食べられると思っているが、能天気な美月に、頭を掻きながら、困った表情で説明しだす浩二なのである。


「いや、それは無理だぜ……朝宮の奴には、細田だって近くに居るし……なにより、あいつ一人で来れる状況なのかもわかんねーだろ? 細田が言うことが本当なら、朝宮の行動はかなり制限されてるはずだぜ」

「た、確かにそうだね……郁人に聞いてみるよ」


 そう言って、鞄からスマホを取り出して、郁人にメッセージを送ろうとする美月に、待ったをかける浩二なのである。


「あ……美月ちゃん、朝宮に連絡するなら、昼休み一人になれないかって事と、昼の行動を聞いてくれ……それと、この作戦の事はまだ、内緒にしてくれ……万が一、朝宮の方で誰かに漏れたら、問題だからよ」

「え……う~ん……わかった」


 美月は、あまり浩二の言うことに納得できなかったが、浩二の言う通りに素早く郁人に連絡を入れて確認するのである。美月と浩二が内緒で作戦会議をしていると、いつも通り、政宗が登校してきて、真っ先に美月のところに来て、挨拶をしてくるのである。


「美月、おはよう……浩二も……二人とも、何の話をしていたんだい?」

「は、覇道君!? お、おはよう!! な、なんでもないよ!!」

「政宗、おはよう……ちょ、ちょっとな……み、美月ちゃんにファンクラブの活動内容の相談をしていただけだぜ……さ、最近ご無沙汰だったから、み、美月ちゃんにお願いしててよ」

「……そうなのかい?」


 あからさまに、政宗の登場で、動揺する美月に、美月ちゃんと心の中で困る浩二は、そう言って誤魔化すのだが、二人のあまりの不自然さに、怪しむ政宗なのである。


「じゃ、じゃあ……僕はこれで……美月ちゃん、例の件よろしくだぜ」


 そう言って、教室から出て行く浩二を、疑惑の視線で見つめる政宗なのである。


「美月……浩二とは仲直りしたのかい?」

「してないけど……何でそんなこと聞くの?」

「……そうか」


 美月は、郁人からの返信を心待ちにして、スマホを両手で握り締めている中、政宗にそう聞かれて、間髪入れずにそう答える美月の表情はどこか嬉しそうなので、怪訝な表情の政宗なのである。


 今日は珍しく機嫌がよさそうな美月に、色々な話をする政宗だが、美月は適当に相槌を打ちながら、郁人から返信をソワソワと待っているのである。


 そして、郁人から、メッセージの返信が来て、それを見た美月は、とたんに落ち込み、机に突っ伏すのである。


「美月!? きゅ、急にどうしたんだい?」

「……ほっといてくれないかな」


 美月が急に元気がなくなり、落ち込む様子に心配になる政宗だが、美月にそう冷たく言われてしまうのである。


 郁人から、昼休みに一人になるのは難しいという返事と、昼の郁人の行動に機嫌が悪くなり、落ち込む美月なのであった。


(なんで、私は郁人と同じクラスじゃないんだろ……同じクラスだったら、私も、郁人やひろみんと一緒にお昼にお弁当食べられたのかな)


 美月は、机に突っ伏したまま、そんなことを考えて、チャイムが鳴って、仕方なく去っていく政宗を完全スルーして、落ち込みながら、朝のホームルームを受けるのであった。







 物凄く落ち込んだ様子で授業を受ける美月に、三限目が終わって、政宗がどこかに行っている隙に、素早く話しかけに行く浩二なのである。


「美月ちゃん、朝宮……どんな感じか聞かせてくれねーか?」

「……郁人は、お昼は基本時に屋上で食べてるみたいで、その後は、三橋さんと風紀委員会の見回りがあるみたい……基本的に、三橋さんやクラスの人達が一緒に居て、一人になるのは難しいって……いちよ、お昼の件は内緒にしておいたけど……郁人にも話した方が良いんじゃないかな?」

「ああ……それは、僕に任せてくれ……朝宮の行動を何とかして見せるから……朝宮が下手に動くと、周りに気がつかれて、警戒されると困るからよ」

「なるほど……わかったよ」

「美月ちゃんは、朝宮のヤツに直接、詳しい昼の過ごし方とか、行動を聞いてくれ……それから、僕が、朝宮をどう誘導するか考えるからよ」

「うん……任せて……あっ!! 実行する日って、私が決めても大丈夫?」

「……状況次第じゃわかんねーけど……たぶん、大丈夫だぜ」

「そっか……うん、頑張って、郁人に聞いてみるね」


 美月と浩二は、コソコソそう内緒話をして、郁人と本当にお昼二人でお弁当が食べれそうだと、やる気と希望が湧いてきて、上機嫌な美月なのである。そこに、政宗が教室に戻ってきて、怪訝な表情で、美月と浩二に声をかけるのである。


「どうしたんだい? 二人とも……また、ファンクラブの話かい?」

「は、覇道君!?」

「政宗……どこ行ってたんだ?」

「ああ……お手洗いにね……そんな事より、何の話をしていたんだい?」

「ああ、政宗の言った通り、ファンクラブの話だぜ……」

「……ファンクラブの話にしては……美月……珍しくやる気があるみたいだけど」

「え!? そ、そんなことないよ!! やる気ゼロだよ!!」


 両手の拳を握り締めて、ソワソワしている美月を、怪訝な表情で見ながら、政宗がそう指摘すると、焦る美月は、あわあわと慌てながら、必死に誤魔化すのである。その様子に、冷や汗ダラダラな浩二なのである。


(美月ちゃん……誤魔化すの下手すぎだぜ)

(ご、ごめんね!!)


 浩二の呆れ困った視線に気がついて、心の中で謝罪する美月の表情は申し訳なさそうなのである。そんな二人の様子にますます、疑惑の表情になる政宗なのである。


「……二人とも、何か俺に隠し事をしてないかい?」

「まぁ、確かに隠し事かもしれねーぜ……ファンクラブでの、活動内容だから、会長の僕と、今、話した美月ちゃんしか内容は知らねーから……これは、さすがに、美月ちゃんの幼馴染の政宗にも話せねーぜ」

「……そうか……そう言うことなら、仕方ないか」


 浩二が正直に、政宗に隠し事をしていると言うから、心臓が跳ねあがり、緊張の面持ちになる美月だが、正直に、内緒話をしていたと伝えたことで、政宗もこれ以上は追及をしてこないため、ホッと胸をなでおろす美月と、安堵した様子の浩二なのであった。


 しかし、政宗からすれば、二人の不自然な行動に対しての疑惑が完全に晴れたわけではなく、ジッと二人をハイライトが消えた瞳で見つめる政宗なのであった。

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