第165話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その10

 浩二は、朝のホームルームの間に、超絶不機嫌な美月をチラチラ見ながら、ゆるふわ宏美に言われたことを思い出すのである。


(とにかく、まず、美月ちゃんに謝罪しねーとだぜ)


 ゆるふわ宏美に、言われたように、まず、今までの行動の謝罪から始めないとと思った浩二なのだが、ホームルームが終わって、美月のところに行くも、話しかけないでという圧に、圧倒される浩二なのである。


「浩二……今は、美月の機嫌悪いみたいだ……今は、そっとしておくのがいいだろう」

「政宗!? いや……でもよ……」

「大丈夫さ、今は機嫌が悪いだけだから、美月の事だ、すぐに元通りになるはずさ」


 政宗が、幼馴染の自分なら、美月の全てをわかっている風の発言に、疑惑の念を抱く浩二なのである。


(本当に今だけか? 細田の言う通り、美月ちゃん…ずっと、機嫌わりぃぜ……とにかく、早く、謝らねーとだぜ)


 政宗が他の男子生徒にも、同じようなことを自信満々に言っており、美月ファンクラブの男子生徒達は、幼馴染の覇道が言うなら、大丈夫かと安心するのである。


 しかし、結局昼休みになっても、美月の機嫌は戻らず、何度か政宗が話しかけるも、美月と名前を呼ぶたびに、不機嫌そうに、名字で呼んでと答える美月なのである。


「美月、今日も一緒に食べようか」

「……はぁ……覇道君…何度も言ってるけど、私の事は名字で呼んでもらっていいかな?」


 何度も美月に邪険にされても、自分の席で、お弁当を食べようとする美月の所に、お昼ご飯の入ったコンビニ袋を片手に近づく政宗は、何食わぬ顔で、美月の隣の席に座り、いつも通りお昼を一緒に過ごそうとするのである。


「み、美月ちゃん……その……弁当食べた後で良いだけどよ……ちょっと、話したいことがあって……」


 お弁当を食べる美月は、二日に一回は、必ず嬉しそうな、幸せそうな表情を浮かべるのである。今日はその日だったみたいで、嬉しそうにお弁当を食べる美月の様子を、政宗はニッコリしながら、見つめるのである。浩二は、そう言えば、美月ちゃん、たまに、弁当食べる時、機嫌がいい時あるなと思いながら、今なら、行けるかと、美月に話しかけるのである。


「……」


 しかし、超絶不機嫌そうな瞳で、美月に睨まれて、後ずさりする浩二なのである。


「い、いや……な、何でもねーぜ……」


 浩二は、ゆるふわ宏美の、美月の爆弾発言を聞いて、さすがに朝みたいに、美月の怒りを爆発させる訳にはいかないと、退散する浩二なのである。


「浩二? あいつどうしたんだろう? やはり……細田に何か言われたか!? 美月、細田には気をつけるんだよ……彼女は胡散臭いからね」

「……胡散臭いのは覇道君の方でしょ……」

「美月? 何か言ったかい?」

「……」


 とりあえず、コンビニで買った菓子パンを、自分の席で食べ始める浩二を見て、政宗は疑問顔でゆるふわ宏美を警戒する発言をすると、美月はボソリと小声で政宗にそう言うのだが、全く聞こえてない政宗に、無言でお弁当を食べる美月なのである。


 そして、お弁当を食べ終わって、名残惜しそうにお弁当箱を見ていた美月は、ため息をつきながら、お弁当箱を仕舞うのである。その様子をジッと見ていた浩二は、もう一度、美月のところに向かうのである。


「み、美月ちゃん……その…」

「……美月ちゃんて言うのやめてくれる?」

「あ……わ、わりぃ……つ、つい癖でよ……よ、夜桜さん? す、すまねーけど、は、放したいことがあって」

「私は話すことないから、もう何回も言ってるけど、二度と話しかけないでくれるかな」

「……」


 美月は、不機嫌にそう言い放つと、また、いつも通り、頬杖をついて、窓の外を眺めるのである。さすがに、何も言えなくなる浩二は、仕方なく、退散するのである。


「浩二……気にするな……朝も言ったと思うが、今は機嫌が悪いだけさ……」

「……政宗……本当にそうか? 僕にはそうは思えねーぜ」

「……浩二……美月の幼馴染の俺の言う事が信用できないって言うのかい?」


 退散する浩二に、近づいてそう励ます政宗に、反論する浩二なのだが、政宗の瞳のハイライトが消えて、急に浩二をジッと睨んでそう言う政宗に、冷や汗が流れる浩二なのである。


「い、いや……そうは言ってねーだろ……ただ、美月ちゃんの機嫌が悪いのには理由があるっつーかよ……」

「……やはり、浩二……細田に何か吹き込まれたか!?」


 政宗の圧に圧倒される浩二だが、このままだと、ゆるふわ宏美が言ったように、美月の爆弾が爆発して、男子生徒達からの評価も下がりかねないと思う浩二は、遠回しに、今の状況を見直さないかという発言をするのだが、政宗にゆるふわ宏美の名前を出されて、心臓が跳ね上がる浩二なのである。


「やはりかい……浩二、いいかい……彼女はあの、朝宮の手先だ……絶対に、信用してはいけないよ……俺達が美月を守らないで、誰が美月を守ると言うのだい?」

「そ、それはわかってるぜ……でも……美月ちゃんの気持ちも考えたいっていうかよ……このままでいいのかって思って」

「俺が、美月の気持ちをわかってないって言うのかい!? 浩二!!」


 力強くそう言う政宗に、不機嫌そうに、一人自分の席に座って窓の外を眺める美月を、見ながら浩二がそう反論すると、激昂する政宗は、教室に響き渡る声量で、浩二を怒鳴るのである。


「い、いや……そんな事、言ってねーぜ……政宗…ど、どうしたんだよ!?」

「浩二、俺は、美月の幼馴染だ!! 美月の事は誰よりもわかっている!!」

「いや……でもよ……今の美月ちゃん……」

「浩二!! 俺が嘘を言っているとでも言うのかい!!」

「ま、政宗!?」


 一方的に怒り出す政宗に、圧倒される浩二は、強面の表情がさらに強張り、冷や汗ダラダラなのである。


「いいかい!! 浩二!! 細田や朝宮の奴は絶対に信用してはいけない!! 特に、朝宮だ!! 奴だけは信用するな!!」

「いや……信用したことなんてねーぜ……大丈夫だって」

「浩二、細田に何を吹き込まれた!? 言うんだ浩二!!」

「いや……だから、なんでもねーぜ……大丈夫だから、僕を信用してくれって」

「浩二、お前こそ、俺が信用できないのか!? 浩二……お前になら、美月を一緒に守ってもいいかと思ったが……浩二!! 貴様も美月に近づくな!!」

「は、はぁ? な、なんでそうなるんだよ!! とにかく、政宗、落ち着けって」


 教室中がら、注目される浩二と政宗の口論に、もちろん、美月も興味なさそうに見ているのである。


「いいかい!! 浩二、俺には、美月を守らなければならない理由がある……彼女の幼馴染として……浩二、貴様の事は信用していたが、朝宮の手先の細田にそそのかされたとあっては、美月に近づける訳にはいかない!!」

「待てって、政宗……落ち着いて僕の話を聞けって!!」


 激昂する政宗は、もう何を言っても、聞く耳を持たないのである。困り果てる浩二なのだが、その様子をジッと廊下から見ていた人物が教室に入ってくるのである。


「フフフ~、作戦通りに喧嘩してますね~……男の友情は熱いって言いますけど~、実際はそうではないみたいですね~」

「細田!? 貴様!! 何しに来た!?」

「何って~、お二人の様子を確認しに来ただけですよ~」


 ゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑みを浮かべながら、激昂する政宗にそう言い放つのである。


「貴様……浩二に何を吹き込んだんだ!? 貴様と話してから、浩二も美月も様子がおかしい……細田……貴様の仕業だろ!!」

「そうですね~……わたしぃは何もしていませんよ~……ただ、わたしぃは永田さんにあることをお伝えしただけですよ~」

「ある事だと!?」


激昂する政宗に、余裕のゆるふわ笑みで対峙するゆるふわ宏美は、口元に人差し指を当てながら、そう言うのである。


「覇道さん……わたしぃは、永田さんにこう言ったんですよ~……覇道さんは、実は美月さんの幼馴染ではないって~」

「お、おい……細田……てめぇ……何考えてやがるんだぜ」


 長身の政宗に近距離まで迫り、ゆるふわ上目遣いでそう小声で言い放つゆるふわ宏美の発言は、近くに居た浩二には聞こえていた為、焦ってそう言う浩二なのである。


「細田!! 貴様!! そんな嘘をよくも浩二に言ってくれたな!!」

「嘘ですか~……嘘だといいですね~……わたしぃはどっちでもいいですけどね~、お二人が仲違いしてくれた方が~、わたしぃとしてはありがたいですからね~」

「浩二!! 細田の言っていることはでたらめだ!! こんな奴の言葉に騙されてはいけない!!」

「あ……ああ……わりぃ……政宗」


 浩二は、そう言って、激昂する政宗にとりあえず、謝るのである。その様子を見て、満足気なゆるふわ宏美なのである。


「残念ですね~……まぁ、でも~、男の友情も~、実は簡単に崩れるってわかりましたからね~……では~、わたしぃはこれで失礼しますね~」

「細田!! 二度と浩二と美月に近づくんじゃない!!」

「フフフ、それは無理ですね~」


 そう言って、ゆるふわ退散するゆるふわ宏美なのである。そんなゆるふわ宏美を激昂の眼差しで睨む政宗なのである。


「浩二……やはり、細田に騙されていたか……いいかい、彼女の言葉に騙されてはいけない、彼女は嘘しか言ってないからね」

「あ……ああ…わかったぜ……政宗」


 政宗に言葉では、そう言ったものの、このタイミングでわざわざ出てきて、あんなことを言う理由はないため、自分を助けてくれたのだと理解した浩二の心は、どちらかというと、ゆるふわ宏美の方に傾いていたのであった。

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