第164話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その9

 朝、久しぶりに一人の美月だったが、すぐにクラスメイトの男子生徒や、他クラスの男子生徒が、一人で自分の席に座って、窓の外を見ている美月に話しかけてきて、超絶不機嫌になる美月だったのだが、そこに、さらに自称幼馴染の政宗まで、現れて、幼馴染面をしていることに、さらに機嫌が悪くなる美月なのであった。


「美月……君のために、必ず、朝宮に勝って見せるからね、期待していてくれ」


 そして、突然に決め顔のドヤ顔で、そう言い放つ政宗の方を見向きもせずに、窓の外を見ながら、話を聞き流す美月なのである。


「覇道!! 美月ちゃんのために頑張れよな!!」

「そうだぜ!! 今度こそ、美月ちゃんに勝利を!!」

「美月ちゃんの幼馴染ってだけで……まぁ、でも、美月ちゃんのために、頑張れよ!!」


 美月の周りに集まる男子生徒達は、好き勝手そう政宗に言っているのだが、美月のイライラは止まらないのである。


 そんな様子を、ジッと見ていた浩二に気がつく政宗なのである。


「浩二? どうしたんだい? 教室の入り口に突っ立って……今日は、美月のところに来ないのかい?」

「あ……いや……ちょ、ちょっと、用事があってよ……政宗…おはよう」

「ああ……おはよう」


 疑問顔で、政宗にそう言われて、気まずそうに、美月と政宗の所に行く浩二なのである。


「しかし、珍しいな……浩二が、美月の傍にいないなって……どこに行っていたんだい?」

「いや……ちょっと……細田と話していただけだぜ」


 浩二がそう素直に言うと、政宗と周りの男子生徒の雰囲気が変わるのである。


「……何か言われたのかい? 彼女は信用ならない相手だからね……警戒するに越したことはない」

「べ、別に……とくに何もなかったぜ」


 あからさまに、顔をしかめて、浩二の方を見つめる政宗は怪しんでいる様子なのである。


「どうしたんだい? 浩二……普段なら、彼女の話を出すと、細田のやろぉって怒りだすのに…まさか……彼女に何か弱みでも握られたのかい?」

「い、いや!! そんなことはないぜ!! ただ、ちょっと……ほら、ほ、細田って美月ちゃんとは友人なわけだしよ……と、友達の悪口はよくねーだろ」


 浩二は、あからさまに不機嫌になっている美月の様子を見て、慌てながらそう言うのである。ゆるふわ宏美に言われて、美月の事を考える浩二なのである。


「浩二……貴様、本気で言っているのか!? 細田だぞ!! 美月を利用するために、仲良くしようとしているだけだ!! 俺達が警戒しなくてどうするんだい!!」

「い、いや……大丈夫だって……その時は、その時だぜ……」


 美月があからさまに、激昂して、浩二を怒鳴る自称幼馴染の政宗を、烈火のごとく怒りの炎を燃やす視線で睨みつけている姿に、焦る浩二なのである。


「浩二さん!! そんなで!! 美月ちゃん守れるんっすか!!」

「細田のヤツは警戒すべきですよ!! 浩二さん!!」

「美月ちゃんに今後、細田も近づけるべきじゃないっすよ!!」


 周りの男子生徒達もそう言いだすので、さすがの浩二もタジタジなのである。


「わ、わかってるぜ……とにかく……細田の件は僕に任せてくれ……大丈夫だからよ」

「……信用していいのかい?」

「ああ……きちんと、話し合いをして、解決するつもりだぜ」

「……そこまで、言うなら、浩二に任せよう」


 納得いかない様子の政宗と男子生徒達だが、浩二がそう言うなら、仕方ないと、渋々了承するのである。


「美月ちゃんから、早く引き離してくださいよ!! 浩二さん!!」

「細田のヤツ!! 最近、よく教室前に来てますし、早く、美月ちゃんの安全のためにも、どうにかしてくださいよ!! 浩二さん!!」


 クラスの美月ファンクラブの男子生徒達にそう言われる浩二は、横目で、美月の様子を確認すると、物凄く、怒っているのである。


「お、お前等、とにかく、細田の話はやめよーぜ!!」


 浩二は、ゆるふわ宏美の発言を思い出して、必死に、話題を変えようと誤魔化すのである。


「浩二さん!! 本当に大丈夫なんすか!?」

「美月ちゃんのためにも、お願いしますよ!!」

「そうだぜ!! 美月ちゃんは俺等のアイドルなんだから!! 俺等が守んねーとな!!」


 そう浩二に強く言う美月ファンクラブのクラスメイト達の圧に圧倒される浩二なのである。今までは、周りが見えていない浩二だったが、確かにゆるふわ宏美に言われて、この光景の異常性にやっと気がつくのである。


(これが……僕が周りを見ずに……突っ走った結果なのかよ……でも、美月ちゃんを守れるなら……これで…)


 それでも、美月の学園生活を守れて、変な男達が美月に手を出そうとしないなら、これでもいいかと思う浩二なのである。


「……ねぇ」


 その時、今まで、黙っていた美月が口を開くのである。もちろん、超絶不機嫌そうな美月の様子に、浩二は圧倒されるのだが、他の男子生徒は美月の声が聞けて、嬉しがるのである。


「悪いけど……美月ちゃんって呼ぶの、やめてくれないかな? 前々から思ってたけど、正直、その呼び方してほしくないんだよね」


 はっきり、美月ファンクラブの男子生徒達にそう言い放つ美月に、呆然となる男子生徒達なのである。


「み、美月……どうしたんだい? 急に……」

「覇道君も、悪いけど……名前で呼ぶのやめてもらっていいかな」


 美月の冷たい言い方に、戸惑う政宗は、動揺しながら美月に話しかけると、不機嫌そうにそう言われて、政宗も、周りの男子生徒同様に呆然と立ち尽くすのである。


 そして、運がいいのか、悪いのか、そのタイミングでチャイムが鳴り、みんな、意気消沈とした様子で、それぞれ、寂しそうに、悲しそうに、トボトボと美月から離れていくのである。そんな、男子生徒など眼中にないとばかり、すぐに窓の外を不機嫌そうに見つめる美月を見て、浩二はゆるふわ宏美の発言を思い出すのである。


(……細田……お前の言った通りだぜ……早く何とかしねーと……)


 浩二は、甘い考えを捨てて、自分が作り出した、この状況を何とかするために、行動を始めるのであった。

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