第163話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その8

 ゆるふわ宏美の提案に、やはり怪しみ、警戒する浩二なのである。


「細田……わりぃが……やっぱり、テメェを信じるのは……」

「わたしぃが信じられませんか~……それでもいいですけど~……永田さんが美月さんに嫌われているという事実は変わりませんよ~」


 睨んでそう言う浩二に、ゆるふわ笑みを浮かべながら、現実を突きつけるゆるふわ宏美なのである。


「……ぼ、僕が、美月ちゃんに嫌われてるかは、本人に聞いてみないとわかんねーぜ」

「いえ~……嫌われてますよ~……本人が嫌いって言ってますし~……というか、朝の美月さんの態度でわかりますよね~?」


 浩二は、苦し紛れにそう言うが、ゆるふわ宏美に悲しい現実を告げられながらも、なお、現実を受け入れない浩二なのである。


「い、いや……細田……お前が、嘘を言ってる可能性もまだ……あるぜ」

「そうですか~……では、わたしぃが、周りを全く見えていない永田さんに~……美月さんの気持ちを理解してもらいましょうか~」

「は、はぁ~? 何ってるんだ!? 細田!?」


 両手を合わせて、ゆるふわ笑みを浮かべながらそう言い放つゆるふわ宏美に、顔をしかめる浩二なのである。


「永田さんは、好きな人がいるって言ってましたよね~」

「……細田……それ…誰にも言おうんじゃねーぞ!! 政宗にすら言ったことねーんだからよぉ!!」

「大丈夫ですよ~、わたしぃは口は堅い方ですからね~……まぁ、それはいいとして~、では~、永田さんが、その子と、お付き合いをしているとしますね~」

「はぁ? よくわかんねーが……それがどうしたんだよ?」

「いいですから~……聞いてくださいね~……それで、あまり仲良くない人から~、こう言われるんですよ~……その子と別れた方が良いですよ~、その子と永田さんでは、将来上手くいくはずありませんから~、今すぐ別れてくださいね~って……永田さん…どう思いますか~?」

「いや……別れる訳ねーじゃねーか」


 何を言っているんだと言う表情でそう言い放つ浩二に、最高のゆるふわ笑みを浮かべて、ゆるふわ宏美はこう言うのである。


「ですよね~……それ~、美月さんが永田さんに、そう言われた時の気持ちですよ~」

「そ、それは……い、いや……でもよぉ」


 滅茶苦茶ダメージを受ける浩二だが、まだ、粘るので、ゆるふわ宏美は、邪悪なゆるふわ笑みを浮かべながら、話を続けるのである。


「では~……例えばですが~、永田さんは、全く親しくない異性に~毎朝校門で待たれて~、学校では常に付きまとわれてます~……しかも、常に永田さんの好きな子の悪口を言い続けてます~……永田さん……どう思いますか~?」

「いや……それは嫌だぜ……普通に」

「ですよね~……それ、美月さんが、永田さんに、常に抱いてる気持ちですよ~」

「……」


 ぐうの音も出ない浩二に、まだまだ、追い打ちのゆるふわ笑みを浮かべながら、話を続けるゆるふわ宏美なのである。


「では、最後のたとえ話をしますね~……永田さんは、全く親しくない人から~、こう言われるんですよ~……全く親しくない人を連れてこられて~…永田さんにはこの人がお似合いだから、今すぐその子と別れて~、この人と付き合った方が良いですよ~って……永田さんどう思いますか~」

「わ、わかったぜ!! も、もういいから!! 僕が美月ちゃんに嫌われてるのは、わかってるって……マジで!!」

「いえ~、永田さん……あなたの口から、聞きたいんですよ~……自分の美月さんに対しての行動を~、見つめ直して~、どう思ったのか~、はっきり、言ってくださいね~」


 もう、浩二のライフポイントはゼロなのに、まだ、追い込むゆるふわ宏美なのである。


「で、でも……僕は、美月ちゃんのためを思って……」

「では~、先ほどのたとえ話の人も~…永田さんにそう言ったら~……永田さんどう思いますか~?」

「……僕が悪かった……細田……」

「フフフフ、きちんと現実を理解してくれたみたいですね~、いいですか~、今の永田さんは、完全に、美月さんに嫌われています~……というか~、嫌われて当然の行動しかしてませよね~」


 素直にそう言う浩二に、満面なゆるふわ笑みを浮かべるゆるふわ宏美は、少し、心がスッキリするのであった。


「では~……わたしぃの提案通り~……まずは、美月さんの信頼を勝ち取る事から始めた方が良いですよ~」

「そ、それは……正直、細田の話でわかったけどよぉ……今更無理じゃねーか?」

「永田さんにしては~……弱気な発言ですね~」

「……」

「大丈夫ですよ~……まず、美月さんに謝罪するところから始めましょうね~……そして、その後に、私に完璧な作戦がありますからね~」


 完全に心がぽっきり折れてしまった浩二に、優しくそう言うゆるふわ宏美なのである。


「正直……細田の提案を聞くのは癪だけど……今の僕じゃどうしよーもねーのも事実だぜ…話してくれねーか?」

「フフフ、簡単ですよ~……永田さん……美月さんのために、学校で郁人様に内緒で、会わせてあげるんですよ~」

「は、はぁ~!! そんなの無理に決まってるじゃねーか!!」


 人差し指を突き出して、ドヤ顔でそう言い放つゆるふわ宏美の提案に、驚愕のあまり大声を出してしまう浩二なのである。


「でも~…美月さんの、永田さんの今の好感度だと~……それだけだと不安ですね~…あ、そうですね~!! いいこと思いつきましたよ~!!」

「い、いや……悪い予感しかしねーんだけどよぉ」

「美月さん、ずっと、わたしぃに言ってたことがあるんですよね~……郁人様と二人で、お昼ご飯を食べたいって~……美月さん、高校生になったら~、二人でお弁当を食べるの楽しみにしてたみたいなんですよね~」

「お……おい、まさかとは思うけどよ~」


 ゆるふわ宏美がわざとらしく、思い出したようにそう言うと、顔面蒼白の浩二なのである。


「永田さん……美月さんの夢を叶えてあげれば~永田さんの好感度も上昇間違いなしですよ~……どうですか~? わたしぃの完璧な作戦は~!!」

「無理に決まってるじゃねーか!! なんだ!! その、無茶苦茶の作戦は!! 細田、お前だってわかってるだろーが!? 朝宮が美月ちゃんと一緒にお昼食べてるってバラたら、どうなるとおもってるんだ!? それは、細田にとってもまずいだろ!!」

「ですね~……だから、永田さん……美月さんにとって、それだけ、無理なことを叶えてあげることで~……永田さんの好感度が上がる訳ですよ~」


 焦りながら、絶対無理という浩二に対して、ドヤ顔で、両手に腰を当てて、無い胸をドヤぁっと張りながら、そう言い放つゆるふわ宏美なのである。


「た……確かに……そ、それは……そうだろうぜ……でもよ……正直、朝宮の事は……」

「いいですか~……まず、郁人様のことは忘れましょうね~……大事なのは美月さんの気持ちですよ~……永田さんだって、赤の他人の好きな人の評価で、好きになったり、嫌いとかってなりますか~?」

「わ、わかってるぜ!! そ、それは、もういいからよ」


 ゆるふわ宏美の発言に、焦る浩二は、必死にゆるふわ宏美のたとえ話を止めるのであった。


「いいですか~……まず、永田さんは美月さんの信頼を得ることが大事ですよ~……まだ、お友達でもないんですからね~……普通に人間関係は仲良くなるところから始めるのが当たり前なんですから~」

「……ああ」

「あ……でも、一つだけ言っておきますが~……この作戦提案して何ですか~……正直、わたしぃは、この作戦反対なんですよね~……と言う訳で、永田さんがこの作戦を実行する場合は全力で阻止させていただきますね~」

「は、はぁ~!! 細田……てめぇ……何言ってやがるんだぜ!!」


 頬に人差し指を当てながら、そう言うゆるふわ宏美のゆるふわ発言に、呆気にとられる浩二なのである。


「言っておきますが~……わたしぃが手助けしたら意味ないじゃないですか~……永田さんが一人で、美月さんのために~、行動することが大事なんですよ~」

「いや…細田手伝ってくれるんじゃねーのかよ!?」

「わたしぃは、永田さんが美月さんのクラスでの唯一信頼できる人になれるのか~、なれないのかっていうのはですね~、正直どっちでもいいんですよね~……でも、クラスに誰も頼れる人がいないって言うのは~…やっぱり、寂しいですからね~」

「細田……お前…」


 ジッと浩二の方を見ながらそう言うゆるふわ宏美に、本当に美月の事を心配しているんだなと感じる浩二も、ジッとゆるふわ宏美の顔を見つめるのである。


「細田……わりぃが……少しだけ考えさせてくれねーか?」

「……別にいいですよ~……このことは誰にも話しませんからね~……永田さんの好きにやればいいですよ~」

「……助かるぜ」


 浩二は、ゆるふわ宏美の事を、信頼とまでは言わないが、信用してもいいとは思い始めていたのだが、やはり、リスクが高すぎる作戦に躊躇するのだった。


「……でも、一つだけ覚えておいてくださいね~……美月さんの怒りの爆弾ですけどね~…たぶん、いつ爆発してもおかしくないですよ~……これだけは、覚えておいてくださいね~」

「ああ……わかったぜ」


 素直にそう言う浩二に、満足気なゆるふわ宏美なのである。そんな、ゆるふわ宏美をジッと見つめて浩二はある質問をするのである。


「なぁ……細田……お前は何がしたいんだ? 正直、何を考えてるんだ?」

「……それは、たぶん、永田さんと同じだと思いますよ~……わたしぃと永田さんは似ていますからね~」

「……似てねーよ」

「……似ていますよ~……だって、どうせ、美月さんに固執する理由って~、その好きな人と美月さんが似てるからですよね~」


 ゆるふわ宏美にそう言われて、無言で、ゆるふわ笑みを浮かべているゆるふわ宏美を見つめる浩二なのである。


「では、わたしぃはもう行きますね~……ほら、永田さんも行きますよ~」

「……わかったぜ」


 そう言って、ゆるふわ宏美は、郁人様ファンクラブの部室の扉を開いて、浩二に外に出るように促すと、浩二も、部室から出るのである。


「では~、永田さん……美月さんにとって~、永田さんが信用できる人になれるように頑張ってくださいね~」


 そう言い残して、去っていくゆるふわ宏美の背中をジッと見つめる浩二は最後にぼそりと独り言を零すのである。


「……細田……そうか……お前も……なら、確かに僕達は似ているのかもしれねーぜ」


 そして、浩二は、自分の教室に戻るのであった。

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