第162話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その7

 ゆるふわ宏美の、普段は見せない表情に、驚愕する浩二は、言葉を失い鋭いゆるふわ宏美の視線から目を逸らすのである。


「美月さん……教室で笑ったことありますか~? ないですよね~……わたしぃと一緒に居る時は~……美月さん……よく笑う子ですよ~」

「……」

「永田さんがどうして~…そんなに美月さんに固執するのかは、わかりませんが~、正直、美月さんにここまで、嫌われてたら~……距離を置くべきだと思いますよ~」


 ゆるふわ宏美は、はっきりそう言うのである。正直、ゆるふわ宏美は、郁人の作戦に協力するとは言ったものの、美月の環境が改善され、郁人が今まで通りの学園生活を送れるなら、その方が良いゆるふわ宏美なのである。


「……それは、無理だぜ……わりぃが……一度決めたことだ……最後まで、やるつもりだぜ」

「……それ~……無理じゃないですか~? わたしぃ……はっきり、言いましたよね~…永田さん……あなたは美月さんに嫌われてますよ~って~」


 はっきり、お前は美月に嫌われていると言う事実を伝えるも、浩二の決意の前には意味がないのである。


「美月ちゃんの事は……僕が何とかする……細田…わりぃが、お前がなんて言おうと、僕が何とかする……これは、もう決めたことなんだ……ぜってぇ、やめたりしないぜ」

「……永田さん……そこまで、美月さんに固執する理由って何ですか~? 正直、美月さんの事が好きだからとしか~……考えられないんですけど~」


 何がこの男をそこまで、駆り立てているのか疑問に思うゆるふわ宏美は、ジト目で、怪しむ視線で浩二を見つめて、そう聞くと、浩二は、視線を逸らすのである。


「てめぇには、関係ねぇーだろ」

「この際だから~……永田さん……もう、わたしぃも、覚悟を決めて、言いますね~……わたしぃは関係なくはないですよ~……少なくとも~、一番関係ないのは~、永田さん……あなたじゃないでですか~?」


 話す気はなさそうな浩二に、ゆるふわ宏美は、険しい表情を浮かべて、そう言い放つと、浩二は、ムッとした表情で、ゆるふわ宏美を見るのである。


「てめぇが一番部外者だろーがよ!! 僕は、美月ちゃんに、普通に学園生活を送ってもらいたいだけだぜ!!」

「いえ~……永田さん……もう一度言いますね~……あなたが、美月さんにとって、一番の部外者ですよ~」

「細田!! じゃあ、てめぇは、美月ちゃんの何だって言うんだよ!! 言ってみろよ!!」


 浩二は怒鳴りながら、ゆるふわ宏美にそう言うと、一瞬だけ目を閉じて、過去を思い返して、ゆるふわ宏美は、目を開き、決意に満ちた眼差しで、激昂している浩二を見つめてこう言い放つのである。


「わたしぃは……美月さんの……親友ですよ~……親友が、困っていたら~……助けたいと思うじゃないですか~……当たり前の……当たり前のことですよ~」


 そう言われて、ゆるふわ笑みを浮かべながら、ゆるふわ宏美に言われて、浩二は、もう何も言えないのである。


「永田さん……今度は、わたしぃが質問しますね~……永田さん……あなたは、美月さんの何ですか~……はっきり、答えてください!!」

「細田!? ぼ、僕は……美月ちゃんの……」


 ゆるふわ宏美に鋭い視線で睨まれ、いつものゆるふわ口調ではなく、怒鳴りつけるように、浩二にそう言うゆるふわ宏美に、浩二は驚きながらも、何も言い返せず、顔を伏せるのである。


「答えられませんよね!! だって、永田さん……美月さんにとって、なんでもないんですからね~……美月さんにとって、どうでもいい存在……それが永田さん…あなたですよ~」


さらに追い打ちの様に、ゆるふわ宏美はそう怒鳴った後に、普段通りのゆるふわ笑みを浮かべ、何も言い返せない浩二を見つめるのである。


「細田……本当に……てめぇは美月ちゃんの親友なのか?」

「……はい~……そうですよ~」


 浩二は、ゆるふわ笑みを浮かべるゆるふわ宏美の方を、真直ぐに見つめて、もう一度そう聞くと、はっきり、肯定するゆるふわ宏美をジッと、見つめる浩二なのである。


「……細田……そう言われても……どれだけ、美月ちゃんに嫌われてても……さっきも言った通りだが……僕は、美月ちゃんのファンクラブの運営をやめるつもりはねーぜ……今、僕が、美月ちゃんと距離をとったら……どうなるか…わかんねーぜ……正直、美月ちゃんのファンクラブがあるから、男子共も、大人しくしてる一面はあるんだぜ……お互い、牽制して、美月ちゃんに露骨に近づかねーよーにしてるんだ」


 ゆるふわ宏美は、浩二の話を聞きながら、浩二もまた、自分と同じように、ファンクラブを作ることで、美月のプライベートと安全な学園生活を送らせようとしているのだと、納得するのであった。


「……それは、わたしぃは始めから、わかってましたから~……もういいんですよ~…わたしぃも郁人様のために、ファンクラブを作ったんですからね~……でも、永田さんとわたしぃでは決定的に違うことが一つだけあるんですよ~」

「……それは……なんだって言うんだよ!?」

「わたしぃは、郁人様と、美月さんの信頼を勝ち得ました~、逆に永田さんは、自分が美月さんを守らないとって~……独善的に、勝手に一人で暴走した結果、美月さんに信頼されてないですよね~?」

「……それは……確かに……細田の言う通りかもしれねぇ」


 ゆるふわ宏美の意見を真剣に受け止める浩二を見て、ゆるふわ宏美は、まだ、わずかな可能性を感じるのである。


「永田さん……もしも、あなたが~……わたしぃの話を全く聞く気がないのでしたら~、正直に言いますが~……美月さんから、無理にでも引き離すつもりでしたが~……でも、わたしぃは美月さんとはクラスが違いますからね~……」

「な、て、てめぇ……そ、そんな事考えてやがったのかよ!!」

「最後まで~…話を聞いてくださいね~……確かに~…美月さんは男子生徒に人気ですからね~……男子生徒の統率と、美月さんの安全確保は大事だと思いますよ~…正直に言うとですね~……美月さんのファンクラブもわたしぃが運営してもいいかなって思ってたんですよね~」

「それって……美月ちゃんのファンクラブを乗っ取るって言うのかよ!?」

「そうですよ~……正直に言えば~……今からでも、わたしぃなら可能ですよ~」


 驚き、怒りの視線を向ける浩二に、圧倒的なゆるふわ笑みで圧を放つゆるふわ宏美なのである。


「ですが~……先ほども言いましたけど~……わたしぃは美月さんと同じクラスではないんですよね~……ですから~……永田さん……あなたがこのままファンクラブを運営してくれるのはわたしぃとしてはありがたいんですけどね~」

「……はっきり、言っていいぜ……細田……てめぇ…何が言いたいんだよ?」


 ゆるふわ宏美は、ゆるふわに口元に人差し指を当てて、ワザとらしくそう発言するので、浩二は、呆れながらも、ゆるふわ宏美が何を求めているのかを聞くのである。


「永田さん……あなたが、美月さんからの信頼を得るのですよ~……永田さん……わたしぃは美月さんに信頼されるための、唯一の方法を知ってますから~」

「……細田……その方法ってのは……なんだ?」

「……そうですね~……その方法を教える前に、これだけは知っておいてほしんのですが~……永田さん……はっきり言いますね~……美月さんは、郁人様のことが大好きなんですよ~」

「……」

「露骨に嫌そうな顔をしますね~……正直に言いますけど~……永田さん、郁人様の何がそんなに嫌いなんですか~?」


 美月が、郁人の事を大好きという事実を突きつけると、露骨に険しい表情を浮かべて、苛立つ浩二に、疑問顔のゆるふわ宏美なのである。


「あいつが……朝宮が、美月ちゃんに相応しいとは思えねーからだぜ……女たらしで、女関係がだらしねー奴は……絶対に、女を幸せに何てできねーんだよ!!」

「でも、郁人様……美月さん一筋ですよ~……それに…それって~、男子生徒達の噂にすぎませんよね~? わたしぃは、お二人がどれだけ、愛し合ってるか~……郁人様が、美月さんの事をどれだけ大事に思っているのかを知っていますから~……正直、知りもしないのに~……勝手にそう言われるのは不快なんですよね~」


 ゆるふわ宏美は、浩二を圧倒的な圧を放ちながらギロリと鋭い視線で睨むと、浩二は、やはり、視線を逸らすのである。


「まぁ、正直な話、永田さんが郁人様を嫌おうが、美月さんは、郁人様が大好きなんですよ~この事実は、絶対に変えられない現実なんですよ~」

「……そ、それは……」

「もう一度、聞きますね~……永田さん……永田さんは美月さんの事が好きなんですか~?」


 ゆるふわ宏美は、もう一度同じ質問を、疑惑の視線とともに投げかけると、今度は、ゆるふわ宏美から、視線を逸らすことなく、真直ぐに見返してこう言うのである。


「僕は……美月ちゃんに恋愛感情はねーぜ……それに……僕には、好きな人がいる……だから、美月ちゃんに恋愛感情は、本当にねーぜ」

「……そうですか~」


 真剣な表情で、真直ぐそう言う浩二に、嘘はついてないと思ったゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑みを浮かべて納得するのである。


「では~……永田さんは本当に善意だけで~……美月さんを守りたいって言うんですか~?」

「……いや……前にも言ったことがあるかもだけどよ……僕にも、僕なりに、自分勝手な理由で美月ちゃんを守りたいって思って行動してる……そう言う意味では、細田の言った通り、独善的で自分勝手な奴だぜ……僕は……」


 再度、浩二にそう疑問を投げかけるゆるふわ宏美の問いに、正直にそう話す浩二なのである。


「……わかりました~……永田さん……では、わたしぃも協力しますから~……やっぱり、美月さんの信頼をまずは勝ち取るところから始めましょうね~」


 俯き意気消沈の浩二に、両手を合わせて満面なゆるふわ笑みを浮かべながらそう提案するゆるふわ宏美を、目を見開いて見つめる浩二なのであった。

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