第161話乙女ゲーのヒロインは、ギャルゲの主人公に勝ちたいのです。その6

 郁人は、いつもより、早く家を出るのである。もちろん、美月を待つことになった郁人なのである。


 ただ、ジッと郁人は、朝の美月の母親の美里との会話を思い出すのである。


(美月が……あの時の話をするなんて……やっぱり、美月は気がついて……いや、そんな訳ないか……大丈夫、あの時も上手くやれたんだ……今度も上手くやればいいだけの事だよな)


 郁人は昔の事を思い出して、そう心の中でつぶやくと、美月が暗い表情で家の中から出てくるのである。


「美月、おはよう……元気なさそうだけど、何かあったのか?」

「郁人……おはよう…ううん…特に何もないよ」


 郁人は、白々しくそう美月に言うと、美月は無理に微笑んで、誤魔化すのである。


(最近……俺も…美月も……お互い、隠し事が多くなってきたな……あの時みたいに…)


 美月の顔をジッと見つめている郁人に、疑問顔の美月なのである。


「ど、どうしたの? い、郁人……そ、そんなに私の事見て……な、何か変なところあるかな!?」


 ジッと、見つめてくる郁人に、顔を真っ赤にしながら、オロオロと顔をぺたぺたしながら、慌てる美月は、何か変なところあるのかと、ハッとなって、鞄から手鏡を見て確認するのである。


(えっと……だ、大丈夫だよね……い、家出る時も、何度も確認したし……)


 不安な美月を見て、郁人の朝の不安は消え去り、微笑むのである。


「美月が、あまりに可愛すぎるから、見てただけだから……大丈夫、いつも通り、可愛いからな」

「な、ななななな!! い、郁人!! ま、また、私のこと、揶揄ってるの!?」

「いや……揶揄ってないが……美月は本当に可愛いな」


 郁人にそう言われて、赤い顔がさらに赤くなる美月は、また、揶揄ってと怒るのであるが、そんな美月の頭を撫でて、怒りを鎮める郁人なのである。


「ほら、美月……早く行くぞ……遅れると、ゆるふわに悪いからな」

「あ……」


 頭を撫でられて、しおらしくなっていた美月は、撫でるのをやめて、そう言う郁人を、残念そうな表情で見つめるのである。


「美月……何か、困ったことがあったら、なんでも相談してくれて大丈夫だからな」

「うん……ありがとう……郁人」


 郁人はもう一度、美月にそう言うが、美月は、笑顔でお礼を言うだけで、郁人に何も話さないのである。


「……じゃあ、行こうか……美月」

「うん」


 郁人に手を握られて、やっぱり、嬉しそうな美月を見て、郁人は、まだ、大丈夫だろうと安心するのであった。







 しかし、美月の不満爆発は止まらないのであった。朝は、郁人の頭なでなでにより、超絶ご機嫌モードだった美月だが、ゆるふわ宏美と、ご機嫌に学校に向かうのだが、いつも通り、校門前で、待っていた浩二に挨拶をされたことで、超絶不機嫌モードになる美月なのである。


「み、美月さん…わ、わたしぃは、もう行きますけど~……だ、大丈夫ですか~?」


 美月の朝の機嫌の変わりようと、今の不機嫌さに、さすがに心配になるゆるふわ宏美は、7組教室前につくと、美月にそう言うのである。


「大丈夫だから、早く行けって、細田」


 空気を読まない浩二の発言に内心イラっとするゆるふわ宏美は、恐る恐る美月の顔を見ると、超絶に怒っている美月なのである。


「……永田さん……ちょっと、わたしぃ、あなたに大切なお話がありますので~……ちょっと、いいですかね~」

「はぁ? 僕は、お前と話すことなんかねーぜ」

「いいから~、来てくださいね~!!」

「あ…おい!!」


 ゆるふわ宏美は、有無を言わさない圧のこもった、ゆるふわ笑みを浮かべて、浩二の腕をつかんで引っ張っていくのである。


「ちょ……ひろみん!?」

「では、美月さん……わたしぃは行きますね~」

「おい!! マジで、放せって!!」

「いいから、永田さんは、黙ってついて来てくださいね~!!」


 強面でガタイが良い浩二が、ちみっこぺったんの、満面ゆるふわ笑みのゆるふわ宏美に引きずられる絵面は、ギャグそのもので、物凄く目立つのである。


「ひ、ひろみん……大丈夫かな?」


 美月は、あからさまに、浩二の方がヤバそうなのに、ゆるふわ宏美の心配をして、二人の姿が見えなくなるまで、ジッと廊下に立っているのだった。






 抵抗する浩二を、無理やり、郁人様ファンクラブの部室に押し込むゆるふわ宏美は、扉を閉めて、浩二を逃がさないように、鍵を閉めるのである。


「永田さん……わたしぃが、なぜ、あなたをここに連れてきたか~……わかりますね~」

「いや……わかんねーぜ」


 ゆるふわ宏美は、腰に両手を当てて、ビシッとそう言い放つが、面倒くさそうな浩二は、早く帰りたそうなのである。


「本当にわからないんですか~!! さっきの美月さんの表情見てなかったんですか~!?」

「はぁ~……何言ってんだよ……お前」


 本当に何もわかってそうな浩二に、頭を抱えるゆるふわ宏美なのである。


「美月さん……あからさまに~、機嫌悪かったですよね~!! あと少しで、本気で怒りそうでしたよ~!!」

「はぁ? 美月ちゃん……いつもあんな感じだぜ」


 こいつ何言っているんだという表情で、そう言い放つ浩二に、ゆるふわ宏美は、怒りのゆるふわ笑みを浮かべるのである。


「それがおかしいって言ってるんですよ~!! どこに、ずっと、不機嫌な人がいるんですか~!!」

「いや……でも、美月ちゃん…会った時から、あんな感じだぜ」

「だから~、それが、そもそも、おかしいんですよ~!! 胸に手を当てて~、美月さんがなぜ、機嫌が悪いか~…よく考えてください~!!」

「……いや……全くわかんねーけど……ていうか、そんな話をするために、こんなところに連れてきやがったのか!?」


 さすがのゆるふわ宏美の表情も、イライラなゆるふわ笑みに変わるのである。内心、あ、やっぱり、ダメな人だと呆れるゆるふわ宏美だが、ここで、諦めると、後々、面倒なことになりかねないと、もう少し、会話を続ける決意をするゆるふわ宏美は、はっきりこう言い放つのである。


「永田さん……もう少し、ちゃんと周り見てくださいよ~……永田さんは、周りが見えていなさすぎますよ~」


 ゆるふ宏美が、呆れながらそう言うと、浩二は目を見開いて驚きの表情を浮かべるのである。


「……細田……わりぃ……そんなに、僕……周りが見えてなかったのか?」

「え……はい~……永田さん、美月さんの事すら、きちんと見てなかったですよね~?」


 なぜか、急に真剣な表情でそう聞いてくる浩二に、疑問を感じながらも、話を聞く気になったのなら、問題ないと話を進めるゆるふわ宏美なのである。


「そ、そうか……それは……悪かったぜ……じゃあ、細田……どうすればいいか……聞かせてくれねーか?」

「え!? い、良いですけど~……きゅ、急にどうしたんですか~!?」

「話だけなら……聞こうと思っただけだぜ……深い意味はねーよ」


 浩二の急な変わりように、疑問と不信感を抱くゆるふわ宏美に、真剣な表情で、ゆるふわ宏美の瞳を見て、そう言う浩二なのである。


「……では、はっきり言いますね~……このままだと、美月さん……クラスで孤立して~…確実に女子生徒からいじめられますよ~」

「……」


 はっきり、そう言い放つゆるふわ宏美の、いつもと違った真剣な表情を、浩二はジッと見つめるのであった。


「……僕は、そうならないように……美月ちゃんを守るつもりだぜ……覇道もそのつもりだ」

「永田さん……はっきり言いますね~……美月さんがイジメられそうなのは~……あなた方二人が原因ですよ~」


 ゆるふわ宏美にはっきりそう言われて、驚愕の表情を浮かべる浩二なのであった。そんな、浩二を睨むゆるふわ宏美の表情は本気の怒りが込められているのであった。

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