第145話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、幼馴染で恋人なので、ずっと一緒に居たいのです。その17

 もちろん、美月が郁人の部屋に行かないわけがなく、すでに、いつも帰る時間の30分前になっていたものの、いつも通り、私服に着替えて、郁人の家に行く美月なのである。その慌ただしい美月の様子に、もうすでに家に帰っていた父の公人と母の美里は呆れるのであった。


 いつも通り、郁人のベッドにダイブして、今日の疲れと悲しみを癒す美月を微笑ましく眺める郁人なのである。そして、郁人も美月もこの幸せを何としても守らねばと気合を入れるのである。


 しかし、美月は家に帰って、母と父にあるお願いをされることで、絶望することになるのであった。


「美月ちゃん……今週から、土日は、雅人君の家庭教師をしてあげて欲しいの…お願いできるかしら」

「え!? ど、土日!? そ…それって毎週なの?」


 慌てて、家に帰ってきて、夕食の準備に取り掛かる美月に、母の美里はソファで妹の美悠とテレビを見ながらそう言うと、美月は絶望の表情を浮かべて、キッチンに立ち尽くすのである。


「もちろん毎週よ…あと、美月ちゃんにきちんとお給料として、私からお金をあげるから、心配しないでね」

「え? ま、雅人君の家庭教師なのに?」

「ええ……その代わり、郁人君に美悠の家庭教師をやってもらうことにしたの」

「え!? えええ!! な、なんで!? わ、私、郁人から何も聞いてないよ」

「それはそうよ…だって、ついさっき決まったことだもの」


 母の美里がそう何気なく言うと、わなわなと怒りに震える美月なのである。


「ちょ…ちょっと待って!? なんで私達に相談しないで勝手に決めるの!? そう言うことはまず、私達に最初に話して決めてよ!!」


 美月が珍しく大声で怒り出すので、母の美里も、妹の美悠も驚き、父の公人も、新聞を読むのをやめて、驚いた表情で美月の方を見るのである。


「み、美月ちゃん……それはごめんなさい……美月ちゃんも郁人君も、高校に入ったら、バイトしたいってお話ししていたから、良かれと思ったのだけど……」

「毎週土日は無理だよ……郁人がなんて言うかわからないけど……」


 母の美里が申し訳なさそうにそう言うので、美月も少し冷静になって、落ち込みながら。そう言うのである。美月にとっては、平日は郁人の部屋に行くのは当分の間は難しいかもしれないのに、土日まで、郁人と会える時間が減るのは、どうしても避けないのである。


「美月……それは、郁人君と会う時間が減るからと言う理由か?」


 厳しい表情を浮かべて、父の公人が美月を見ながら、そう言うと、美月は視線を逸らして黙るのである。


「今日も……遅い時間に帰ってきて…郁人君の所に行っていたが……全く、美月……そんな理由なら、家庭教師の件はきっちり引き受けなさい」

「え!? ちょ…ちょと、待ってよ!!」

「そうね……確かに、美月ちゃんと郁人君は学校でもどうせ、ずっと一緒に居るんでしょ? 平日もずっと一緒に居る訳で、休みの日ぐらいは、一緒に居なくても大丈夫よね」

「ま、待ってよ!! が,学校では、郁人と一緒に居ないよ!! クラスも別だし…」


 父の公人がそう言って、母の美里が同意すると、美月は、必死な表情で、反論するのだが、そんな美月を呆れた表情で見る夜桜家なのである。


「美月……郁人君と一緒に居たいからと…嘘までついて…」

「美月ちゃん……嘘はダメよ」

「……お姉ちゃん……その嘘はバレるよ」

「え!? な、なんで!? 私、嘘なんてついてないよ!!」


 全く信じてくれない家族に、必死に訴える美月だが、疑惑の眼差しを向けられて、はっきりそう言われるのである。


「美月ちゃんが、郁人君と一緒に居ないなんてありえないでしょ…全く、そんなわかりやすい嘘をついて……美月ちゃん…お母さんは悲しいわよ」

「そうだ……美月…いいか、家庭教師の件はきっちり…引き受けなさい!! いいな!!」


 両親にピシャリと厳しくそう言い放たれ、わなわなと震えながら、涙目になる美月なのである。


「……いや」

「美月ちゃん?」

「美月?」

「お、お姉ちゃん?」


 震える美月の零す独り言に、只ならぬ雰囲気を感じ取る夜桜家は、プルプルと震えて、涙をこらえる美月をジッと見つめるのである。


「いや、いや、いや、いや!! 絶対嫌!! 嫌だよ!! 嫌、嫌、嫌、嫌!! 絶対嫌!!」

「ちょ、ちょっと美月ちゃん!! お、落ち着いて…」


 美月は、そう叫びながら、駄々をこねだすのである。あまりの、美月の必死の駄々っ子ぶりに、母の美里が止めに入るのである。


「これ以上郁人と一緒に居られないんなんて嫌!! 嫌だよ!! 絶対嫌!! イヤーーー!!」

「土日少しだけ…家庭教師やるだけだ…美月…我儘言うな」

「そうよ…いつも、郁人君とは一緒に居るでしょ、美月ちゃん落ち着いて、近所迷惑でしょ」

「一緒に居られないんだもん!! だから、土日まで嫌!! 嫌、嫌、嫌、いやぁぁぁ!!」


 必死に、駄々をこねる美月を説得する両親を呆れながら見つめる美悠なのであった。そして、美月の必死の駄々っ子攻撃も虚しく、美月は土日に雅人の家庭教師をすることになってしまったのであった。


 そして、その夜、郁人から通話がかかってきて、こう言われるのである。


「土日、美悠ちゃんの家庭教師することになってしまった」

「やっぱり、郁人もなんだね……実は私も……」


 美月は、落ち込む郁人に、そう覇気のない声で返して、二人は絶望するのであった。なので、二人は何としても、放課後に時間を作るために、風紀委員会と生徒会を止める決意をするのであった。






 しかし、結局、二人とも、風紀委員長と生徒会長の強引さと、周りから、仕事を振られて、渋々と、風紀委員会と生徒会に顔を出す放課後を送り、土日も結局、郁人は美月の家の美悠の部屋で美悠の勉強を見て、美月は郁人の家の雅人の部屋で勉強を見ることになり、結局、夕方、郁人が家庭教師を終えて、家に帰ってきてからの1時間くらいしか、一緒に居られなかったのである。


 そんな日を過ごすと、郁人と美月の顔色はもちろん悪くなっていくのである。お互い、会える時間が減ったことで、あからさまに落ち込み、元気がないのである。


「郁人様…美月さん……大丈夫ですか~? か、顔色が優れないようですが~」

「大丈夫か、大丈夫じゃないかと聞かれたら……大丈夫ではない」

「うん……大丈夫じゃないかな」


 ゆるふわ宏美は、朝の待ち合わせ場所に上機嫌で来た二人が、自分と合流すると、物凄く顔色が悪くなり、ピッタリとくっついて放れない郁人と美月が心配になり、そう声をかけるのであった。


「あの~……美月さん……そろそろ、学校に行かないといけませんよ~」

「……も、もう少しだけ、郁人と一緒に居たい」

「ま、まだ時間もあるしな……もう少しここで話さないか? いいだろ…ゆるふわ」

「ダメですよ~!! もう少ししたら、登校してくる生徒も増えるんですから~、早く行きますよ~!!」

「ま、待って、ひろみん!! あ……い、郁人!!」

「み、美月!! また後で会おうな!! 美月!!」

「うん!! 郁人!! また後でだよ!! 郁人!!」


 ゆるふわ宏美に無理やり引きはがされ、連れて行かれる美月は、郁人と今生の別れのような大袈裟さで別れの挨拶をし、それに呆れるゆるふわ宏美なのであった。


 そして、郁人は、いつも通り、遅れて学校に登校して、いつも通り、女子生徒達に囲まれた後に、教室に登校した後、あからさまに窓の外を眺めながら覇気がない郁人なのである。そして、梨緒が登校してきて、郁人に衝撃的な発言をするのである。


「あ…郁人君、おはよう……それと、今日から、私も風紀委員会に入ることになったから、よろしくねぇ」

「……は?」


 そう清楚笑みを浮かべながら、そう言う梨緒に、呆気にとられる郁人なのであった。

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