第144話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、幼馴染で恋人なので、ずっと一緒に居たいのです。その16

 郁人も美月も、結局、放課後に郁人は風紀委員会室に、美月は生徒会室に行くのである。二人とも、お互いに放課後は遅くなるという連絡を入れて、絶望の表情で、教室から、目的地に向かうのである。


 そして、郁人は、一人で風紀委員会室の扉の前に立ち、ノックすると、昼休みに風紀委員会室から出てきた、風紀委員の女子生徒が迎え入れてくれるのである。


「い、郁人様!! よ…よくきてくれ……あ…いや、朝宮……よくきてくれたな」

「あの……風紀委員長……前から気になってたんですが……その、様って言うのは……何ですかね?」

「ななななな、なんのことだ!? 朝宮、それは、気のせいだ!!」


 郁人は、笑顔で迎え入れてくれた風紀委員長が、途中から、顔を真っ赤にして言い直したことで、前から気になっていたことを尋ねるのだが、風紀委員長は慌てながら必死に否定して、周りの風紀委員会の女子生徒達も、それは気のせいですよと擁護するのである。


「そ、そうか……そうですよね…学校の先輩が、後輩を様付で呼んだりしないですよね」

「そうだぞ…当り前じゃないか……」


 郁人は、乾いた笑みを浮かべながらそう言うと、風紀委員長も、同じような表情でそう言って誤魔化すのである。


「そう言えば……細田はいないようだが? 彼女はどうしたんだ?」

「あ…ああ……えっと、すみません……逃がしてしまいまして」


 そう放課後、郁人の席は窓際で、ゆるふわ宏美は廊下側の席のため、絶対に無理やり風紀委員会室に連れて行かれると思ったゆるふわ宏美は、脱兎のごとく逃走して、郁人から逃げることに成功したのである。


「そうか……まぁ、用事でもあったのだろう…そう責めてやるな」

「あ……風紀委員長…実は自分も用事があってですね」

「よし、朝宮……今日から、風紀委員会の仕事を覚えてもらうからな……大丈夫だ…朝宮ならすぐに覚えられる」

「あ…俺……風紀委員会に入るつもりないんですが……」


 ゆるふわ宏美に対して、そう擁護する風紀委員長に、郁人は自分も用事がと言うのだが、郁人の話は全く聞いてもらえず、そのまま話を進められて、例のショートカットのロリ巨乳の子に仕事内容を教わる郁人なのである。


 ちなみにこの子は、風紀委員長の親友で、風紀委員長と同じ2年で同じクラスらしいのである。


「そう言えば……田川先輩……風紀委員長って名前何て言うんですかね?」

「ふ、風紀委員長は風紀委員長ですよ!! 郁人様!!」


 自己紹介されて、渋々仕事を教わる郁人は、そう言えば、風紀委員長の名前知らないなと、疑問を口にすると田川先輩は焦りながら、そう言い放つので、疑問顔になる郁人なのである。


「いや……それって、役職で……名前ではないですよね?」

「いえ!! 郁人様!! 風紀委員長は、風紀委員長なんです!! いいですね!! 風紀委員長は、風紀委員長!!」


 あまりの剣幕に、呆気にとられる郁人は納得するしかないのであった。






 そして、美月はと言うと、絶望の表情を浮かべて、生徒会室に向かう美月と、対照的にニコニコの上機嫌な政宗なのである。本日、朝から放課後まで、死んだ表情だった美月は、生徒会室の扉の前で、気合を入れなおして、絶対に、私は生徒会には入らないと決意して、ノックするのである。


「よく来てくれましたね…歓迎しますよ」


 そう言って、上機嫌に美月と政宗を迎え入れてくれる生徒会長に、美月は気合の表情なのである。


「あの、生徒会長!! すみませんが、私!!」

「大丈夫ですよ!! 生徒会の仕事を覚えられるか不安なのですね…私達が丁寧教えて差し上げますから大丈夫ですよ」

「いえ…そうじゃなくてですね…私、生徒会に入るつもりはないんです!!」

「では、さっそく、副会長…夜桜美月さんと、覇道君に生徒会での仕事を教えてあげてくださいね…私は、これから、体育祭の実行委員の方に顔を出さないといけませんから」


 生徒会長は、全く美月の話を聞かずに、副会長にそう言って、生徒会室から出て行ってしまうのである。美月は、空中に手を彷徨わせて、絶望の表情を浮かべて、仕方なく、副会長に政宗と一緒に仕事を教わるのである。


「山崎副会長……そう言えば、生徒会長と自己紹介してませんが…生徒会長の名前って何て言うんだい?」

「……覇道……先輩には敬語を使え……後、生徒会長は、生徒会長だ…いいな」

「あ……ああ…」


 副会長にフランクに話しかける政宗をそう言って一蹴する山崎副会長は、長髪をなびかせながら、瞳のハイライトをオフにして、死んだ瞳の美月に仕事を教えるのであった。






 そして、結局、放課後遅くまで、郁人も美月も拘束されてしまい、帰るころにはもう、日が暮れているのであった。


 郁人も美月も、トボトボと重い足取りで、疲れた表情で帰っていると、たまたま、郁人が前を歩く美月を見かけて、声をかけるのである。


「美月……美月も今帰りなのか?」

「あ……い、郁人!! そ、そうなんだよ!! ううううう~、郁人今日はもう郁人の家に行けないね」


 郁人に話しかけられて、一瞬嬉しそうに表情が明るくなる美月だが、すぐにズーンと肩を落として落ち込みの表情になる美月は、ボソッとそう言うのである。


「美月は、生徒会か……どうだった?」

「……それが……生徒会に無理やり入れられそうで……」

「美月もか? 俺も、風紀委員会に無理やり入れられそうと言うか…もう入れられたというか……どうするか」


 お互い顔を見合わせて、絶望の表情を浮かべる郁人と美月は大きなため息をつくのである。


(何とかしないと…放課後美月と一緒に居られなくなる…マジで何とかしないと…)

(どうにかしないと、放課後郁人と一緒に居られないよ!! それでなくても、最近あんまり一緒に居られないのに!!)


 何とかしないと、再度やる気と決意を固める郁人と美月だったが、この後更なる問題が二人を襲うなどとは、今の二人は考えもしないのであった。

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