第146話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、幼馴染で恋人なので、ずっと一緒に居たいのです。その18

 梨緒が風紀委員会に入ることになったそうで、郁人は理由を尋ねると、梨緒はゆるふわ宏美が、放課後は用事があり、どうしても風紀委員会の仕事をできないため、代わったことを説明してくれたのだ。


「なるほど……ゆるふわ……これはどういう…って、あいつどこ行った!?」

「宏美ちゃんなら、さっきどこかに行ったよぉ」


 梨緒が郁人にそう説明している間に、ゆるふわ笑みを浮かべながら、さらばとこの場から逃げていたゆるふわ宏美は、朝のチャイムが鳴ると同時に席にいつの間にか座っており、完全に郁人から逃走モードなのであった。


(ゆるふわ……絶対に逃がさないからな)

(い、郁人様は、わたしぃのありがたみに気がつくべきなんですよ~…これは復讐ですよ~)


 郁人がゆるふわ宏美の方をジト目で見ていると、ゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑みを浮かべながら、視線を逸らすのであった。


「おい、ゆるふわ」

「あ!! い、郁人様!! わたしぃは用事がありますので~!!」


「ゆるふわ、風紀委員の事で話が…」

「あ…美月さんのところに行ってきますね~」


「ゆるふわ、今度は逃がさないからな」

「わ、わわわ、わたしぃは用事がありますから~!!」


 そんなやり取りを繰り返し、休憩時間はひたすらゆるふわ宏美に逃げられて、昼休みも、屋上に行くと、会長は本日は予定があって参加できないそうですよと、どこかに逃げるゆるふわ宏美なのである。


「まぁ、まぁ、郁人君、宏美ちゃんも忙しいみたいだから、風紀委員会の事は大目に見てあげてよぉ…その代わり、私が頑張るからねぇ」


 やる気満々の梨緒は、そう清楚笑みを浮かべながら頭を抱える郁人にそう言うのだが、そもそも、郁人が風紀委員をやめたいのであった。本日は、美月がお弁当の当番の日で、異様に気合の入った美月作の弁当で癒される郁人は、渋々、梨緒と昼休み風紀委員会室に顔を出すことにしたのであった。


「あ……郁人様、よく来てくれましたね、さぁ、どうぞ、中に入ってくださいね!!」


 郁人は風紀委員会室を訪れる時は、必ず、風紀委員のロリ巨乳のショートカット美少女の田川先輩が笑顔で出迎えてくれるのであった。田川先輩と梨緒はにこやかに挨拶を交わしていると、風紀委員長がいつも通り、緊張した様子で郁人を迎えてくれるのである。


「い、郁人様……あ…いや…あ、朝宮、今日もよく来てくれたな!!」

「あの……風紀委員長…」

「その子が、細田の代わりに風紀委員会に入る子だな?」

「あ…はい、三橋梨緒って言います…お役に立てるように頑張りますのでよろしくお願いします」


 郁人が今日こそ、風紀委員会をやめることを、風紀委員長に伝えようとしたものの、風紀委員長と梨緒がそう挨拶を交わすので、タイミングを失ってしまう郁人なのである。


「えっと、それで…風紀委員長のお名前はなんて言うんですかぁ? すみません…私、知らなくてぇ……」


 梨緒は放った一言で、風紀委員会室は、一瞬フリーズして、氷りつくのである。


「み、三橋さん!! 風紀委員長は、風紀委員長なんです!!」


 田川先輩が、ハッと正気に戻り、キョトンと疑問顔で清楚立ちの梨緒にそう詰め寄るのである。


「あ…ああ。私の事は風紀委員長と呼んでくれ……いいな!! 三橋!!」

「え? あ…はい…わかりましたぁ?」


 郁人はその様子に、呆れながらも、結局、風紀委員会をやめる件を、風紀委員長に伝えることができないままに、梨緒と一緒に昼休みの見回りに出かけることになってしまったのであった。


「じゃあ、頑張って、一年生の廊下から見回って行こうねぇ」

「……そうだな」


 梨緒はいつの間にか、風紀委員会の腕章をつけており、やる気満々なのである。もちろん、郁人は腕章などつけるはずもなく、全くやる気ゼロで、渋々、梨緒と一緒に一年生の廊下に向かうのである。


「あ……ふ、風紀委員の腕章!? み、三橋さん…風紀委員に入ったの!?」

「そうだよぉ…あ……化粧は教室ではしてはいけない決まりだよねぇ」


 まずは、一組教室を廊下から覗くと、女子生徒達数名が化粧道具を出して、教室で化粧をしているのである。梨緒と郁人に見つかり、焦る女子生徒達に清楚笑みで近づく梨緒なのである。


「全く……今回は見逃してあげるから、早く化粧道具は仕舞ってねぇ」

「あ…うん!! ありがとう!! 三橋さん!!」


 そう言って、見逃す梨緒に、感謝の言葉を言って、急いで化粧道具を隠す女子生徒達なのである。


「い、郁人様も、ありがとうございます!!」

「え…あ……ああ」


 女子生徒達は、郁人に深々と頭を下げるのだが、郁人としては、何もしてないので、頭を下げられても困るのである。そもそも、校則違反なのだから、注意ぐらいは風紀委員としてした方が良いのではというのが、郁人の考えなのである。


「じゃあ、郁人君、行こうかぁ」

「あ……ああ…そうだな」


 梨緒はそう言って、注意することもなく、女子生徒達に手を振って別れるのである。そんな、梨緒に少し不満顔な郁人は、無言でついて行くのである。


「風紀委員って……み、三橋さん!! こ、これは…別にやましい物じゃなくてですね!!」

「全く、そんな雑誌持ち込んで、ダメだからねぇ…先生や他の風紀委員に見つからないようにしないとダメだよぉ……今回は大目に見てあげるから、教室でそんな本読んだらダメだからねぇ」


 今度は、2組の教室前を通りかかると、すぐに梨緒の腕章に気がついた廊下側にいた男子生徒達は、何やら、雑誌らしきものを慌てて机の中に隠すのである。照れ笑いをしている数人の男子生徒達に、清楚笑みを浮かべて、優しく注意する梨緒に、ときめく男子生徒達は、梨緒の隣に居る郁人に今更ながらに、気がついて、睨みつけるのである。


「…幼馴染だからって…三橋さんと馴れ馴れしくしやがって……」

「何か言ったか?」

「い、いや……何も……」


 男子生徒の一人がそう嫌味を言うので、郁人がその生徒を見ながら、本当にその嫌味を聞いてなかった郁人がそう聞くと、威圧されたのだと勘違いして、男子生徒達はタジタジになるのである。


「じゃあ、私達は行くねぇ…もうそんな本を学校に持ってきたら、ダメだからねぇ」

「あ…はい!! 三橋さん!!」

「三橋さん…やっぱ良いよな」

「だな……美月ちゃんとは別の良さがあるよな!!」

「俺は今回の事で三橋さん派かも」

「確かに!!」


 男子生徒達はそう好き勝手に言っているのだが、梨緒は、聞いてか、聞こえないのか、清楚な笑みを浮かべて、郁人と一緒に二組の教室から離れるのであった。


 そんな感じで、違反者を見つけては、軽い注意だけして、見逃す梨緒に、さすがに郁人は口を出すことにしたのである。


「梨緒……良いのか? この調子だと…後で風紀委員長に怒られるかもしれないだろ?」

「う~ん……そうかもねぇ」

「そうかもって……お前な」

「でも、もしも、今注意した誰かの口から、風紀委員の耳に入ったなら、今度はそれを口実に厳しく取り締まればいいよぉ」

「は……梨緒…何を言ってるんだ?」


 足を止めて、郁人の方を見て、清楚笑みを浮かべながら、口元に人差し指を当てて、そう言い放つ梨緒に、呆気にとられる郁人なのである。


「いきなり、私達が厳しく注意したら、私達が悪者みたいになるじゃない…でも、一度見逃した後に、誰かが噂して、私達が風紀委員会に怒られたとなれば、厳しくしても、誰も私達を攻めれないでしょ…ねぇ」

「梨緒……お前…」

「フフフ…どうして、そんな驚いた表情をするのかなぁ…郁人君? こういう、処世術を私に教えてくれたのって郁人君なのにねぇ」


 梨緒の悪知恵に呆気にとられる郁人に、嬉しそうな表情で梨緒はそう言うのである。


「俺が…梨緒に……」

「そうだよぉ……郁人君が私に教えてくれたんだよぉ」


 郁人はそう言って、再び見回りのために歩き出す梨緒の背中を見つめながら、過去を思い出してみるが、全く思い出すことも、心たりもない郁人は、疑問に思いながらも、梨緒の後を追って、見回りを続けるのであった。

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