第140話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、幼馴染で恋人なので、ずっと一緒に居たいのです。その12

 次の日の朝、なぜか待ち合わせの場所で待っていたゆるふわ宏美を不満顔で見つめる美月に対して、疑問顔の郁人なのである。


「ひろみん……どうしてもダメなの?」

「だ、ダメですよ~!!」


 挨拶をした後に、美月が不満顔でゆるふわ宏美に何かをお願いして、それを必死に断るゆるふわ宏美を見つめる郁人なのである。


「どうしたんだ? 何かあったのか?」

「な、なんでもないよ!!」

「は、はい~…な、なんでもないですよ~」


 美月とゆるふわ宏美は、疑問顔で、そう聞いてくる郁人から、視線を逸らして誤魔化すのである。


「あ…も、もう行かないとだね……い、郁人また後でね!!」

「そ、そうですね~…では、郁人様…美月さんの事は任せてくださいね~」

「あ…おい……何でもないことはないだろ?」


 怪しむ郁人から、そそくさと逃げ去る美月とゆるふわ宏美なのである。郁人は、逃げ去る美月とゆるふわ宏美の背中を見ながら、後で、ゆるふわから無理やり聞き出すかと思いながら、しばらく、いつも通り、この場で時間をつぶすのであった。


「ひ、ひろみん……くれぐれも、私があの写真を欲しがってるって事は郁人には内緒だからね」

「大丈夫ですよ~…わたしぃは口が堅いですからね~」


 郁人から逃げて、足を止める美月は、ゆるふわ宏美にそう言うと、ドヤ顔で無い胸を張ってそう言い放つゆるふわ宏美なのである。


「……ねぇ、ひろみん」

「ダメですよ~…あの写真はファンクラブの入会特典なんですから~…美月さんにあげることはできませんよ~」

「そ、そこを何とか~!! ひろみん!!」

「み、美月さん!? は、放してください~!! 無理なものは、無理なんですよ~!!」


 美月は、ゆるふわ宏美にしがみついて、必死にお願いするのだが、ゆるふわ宏美は、必死に断るのである。


「通話でも言いましたけど~……もしも、美月さんが写真を持ってることをバレたら大変じゃないですか~…絶対ダメですからね~……美月さん…絶対持ち歩きそうですし~」

「も、持ち歩かないから!! 私の秘蔵のアルバムにいれて大切に保管するから!! お願い!! ひろみん!!」


 ゆるふわ宏美が、ボソッと言った最後の言葉を、ばっちり聞いていた美月は、ゆるふわ宏美にしがみついて必死にお願いするのである。


「そ、その秘蔵のアルバムってな、なんなんですか~? あ……い、いえ~…何でもないですよ~」

「聞きたい!? ひ、ひろみんには特別に教えてあげるね!!」

「あ…いえ、なんとなく予想できるので~…大丈夫ですよ~」

「えへへへ、郁人の写真を集めたアルバムだよ!! 郁人にも内緒なんだからね!!」

「そ、そうなんですね~……そうだと思いましたけどね~」


 ドヤ顔で、美月は自分の秘密をカミングアウトするのだが、ゆるふわ宏美は、引きつったゆるふわ笑みを浮かべながら、ボソッとツッコミを入れるのである。


「ね!! だから、大丈夫だよ!! 鍵までかけて、保管してるんだよ!! 郁人にも見つからないから、大丈夫だよ!!」

「……いえ~…み、美月さん……絶対何か恐ろしいことしでかしそうだから~…しゃ、写真はお渡ししたくないんですよね~」

「ひ、ひろみん!! 私何もしないよ!! 信じて!! ひろみん!!」


 美月はとんでもないことをしでかすという認識のゆるふわ宏美は、美月に写真を渡すと、トラブルを起こすだろうという予感がしており、絶対に写真を渡したくないのである。


「だ、ダメなものはダメですからね~!! それに、美月さんなら、郁人様にお願いして写真を撮らせてもらえばいいじゃないですか~!!」

「違うんだよ!! あの写真が欲しいんだよ!! ねぇ!! ひろみん!! お願いだよ!!」


 必死にお願いする美月と、絶対に写真を渡したくないゆるふわ宏美の攻防は激しくなるのである。


「美月……何してるんだ?」

「い、郁人!?」

「郁人様……な、何でここに居るんですか~!?」


 ゆるふわ宏美に、必死にしがみつく美月を怪訝な表情で見つめる郁人に、驚きの表情を浮かべる美月とゆるふわ宏美なのである。


「なんでって……俺はいつも通り、時間ずらして学校に向かってるだけだ……美月とゆるふわは何してるんだ?」

「……み、美月さん…早く学校に行きますよ~!!」

「そ、そうだね!! は、早く学校に行かないとだね…じゃあ、郁人また後でね!!」

「あ…おい…美月!!」


 ゆるふわ宏美に必死にしがみついている美月を怪訝な表情で見て、怪しむ郁人から、焦りながら、またもや逃走する美月とゆるふわ宏美なのである。


「……な、なんなんだ? と、とりあえず、また少し時間潰すか……」


 郁人は、バタバタと逃げていく美月とゆるふわ宏美に呆気に取られて、またもや、五分くらい時間をつぶしてから登校することにしたのであった。


 この僅か5分の時間のずれのせいで、この後面倒なことに巻き込まれる郁人なのである。


「……な、なんの騒ぎなんだ?」


 郁人がいつも通り校門を抜けると、男子生徒達と女子生徒達が集まっているのである。何事かと、郁人は疑問顔で足を止めるのである。


「あ……郁人様おはようございます!!」

「尊い郁人様…おはようございます!!」

「おはようございます!! 今日も一生推させていただきますね!!」


 校門で呆然と立ち尽くす郁人を見つけて、素早く駆け寄って挨拶してくる郁人親衛隊の三人娘なのである。


「ああ…おはよう……これは、なんの騒ぎなんだ? 何があったのか?」

「えっと…それがですね……私達はいつも通り、郁人様をお待ちしていたのですが、そこにまた、風紀委員長たちが来て……その後、夜桜さんと会長が生徒会長を連れて、ここに来たことで、風紀委員長と生徒会長が喧嘩を始めてしまったんです」


 代表して、郁人様親衛隊のセンターの小鳥遊さんが、申し訳なさそうに郁人に説明するのである。


「わたくし達は、尊い郁人様をお守りするために、校門の前で待機していました」

「はい!! 本日も郁人様を推します!! 一生推します!! 郁人様を一生推すと決めた私達の邪魔をする生徒会とは戦争です!!」

「……あの東雲さん……お、落ち着いてくれ……とりあえず、様子を見に行こうか」


 生徒会に敵意むき出しの郁人様親衛隊の一人に対して、不穏な空気を感じて、落ち着かせる郁人は、とりあえず、美月が心配で様子を見に行くことにするのであった。


「風紀委員に、学園の問題児の朝宮郁人君と細田宏美さんを入れるなど……ついに狂ってしましましたか…風紀委員長」

「それは、こちらの台詞だ……学園の風紀を乱している夜桜美月と永田浩二を生徒会に入れるなど……どこまで生徒会を私物化する気だ…貴様は」

「あ…あの私は…生徒会に入る気はないんですけど……」

「わ、わたしぃも風紀委員に入るつもりなんですよ~」


 郁人が、親衛隊の三人娘を引き連れて、近づくと、そんな会話が聞こえてくるのである。なぜか、すでに風紀委員に入ることになっていることに頭を抱える郁人は、意を決して、生徒達に囲まれている美月達の元に向かうことにするのであった。

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