第139話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、幼馴染で恋人なので、ずっと一緒に居たいのです。その11

 放課後、いつも通り、美月は郁人の事を公園の前で待っているのである。結局、美月は生徒会長の誘いを必死に断ったのだが、生徒会長の必死な説得により、生徒会に入るかは保留となってしまった美月なのである。


(せ、生徒会なんて無理だよ……それでなくても、郁人と一緒に居られる時間が少ないのに…生徒会なんかに入ったら……平日は郁人部屋に遊びに行けなくなっちゃうよ)


 そう、美月が生徒会に入るのを嫌がっている最大の理由は、単純に帰る時間が遅くなって、郁人と一緒に居られる時間が減ってしまうからなのである。


「……美月……今日も待っていてくれたのか?」

「い、郁人!?」


 美月は、何とか生徒会に入らないようにしないとと考えていたところに、急に郁人が目の前に現れて、話しかけてきたので驚く美月なのである。


「び、びっくりしたよ…きゅ、急に話しかけるから……って、郁人……なんか元気ないね…どうかしたの?」

「いや……何も……美月の方こそ、ボーっとして…何か悩みでもあるのか?」

「な、ないよ!! 何も悩みなんてないよ!!」


 郁人の表情が物凄く疲れていることに気がつく美月に、無理に笑顔を作って誤魔化す郁人は、美月にそう言って、質問を質問で返すと、あからさまに動揺する美月なのである。


(はぁ~、言える訳ないよな……もしも、風紀委員に入ることになったら、放課後は会えなくなるなんて……)

(言える訳ないよ……もしも、生徒会なんかに入れられたら……郁人の部屋に遊びに行けなくなるなんて……)


 お互いため息をつきながら、そんなことを考えて落ち込むと、また、お互い視線を合わせて、疑問顔なのである。


「い、郁人……本当に何もなかったの?」

「ああ……美月の方こそ……何か悩みがあるんじゃないのか?」

「な、ないよ……悩みなんてないよ」


 お互い心配しあうが、お互い心配かけないようにと誤魔化すのである。


「……い、郁人……そう言えば……あ…ううん、なんでもないよ!!」

「なんだ? 美月……やっぱり、悩みがあるのか?」

「えっと……悩みってほどじゃないんだけどね……えっとね…そのね…しゃ……ううん、やっぱり何でもないよ!!」


 落ち込む美月は、ハッとあることを思い出して、郁人に聞こうとするが、やっぱりやめる美月に、疑問顔の郁人なのである。


「何でもないことはないだろ……何を言おうとしていたんだ?」

「あ…えっとね…じゃ、じゃあ、言うね……い、郁人……その……しゃ、写真撮ってもいいかな!?」

「きゅ、急にどうした? 美月?」

「そ、そうだよね…ダメだよね……うん、大丈夫だよ!! わかってたからね」


 美月は、昼の生徒会での郁人の写真を思い出して、郁人の写真が欲しくなった美月は、無理を承知でお願いしてみるが、怪訝な表情の郁人を見て、必死に両手を振って、一人で納得する美月なのである。


「……別にいいぞ」

「うん!! ダメなのはわかって……え!? い、いいの!?」

「ああ……いいぞ」


 美月は断られる前提でお願いしたのだが、予想外に郁人から許可が下りて、驚く美月なのである。美月は慌てて、鞄からスマホを必死に探して取り出すのである。


「い、郁人!? 写真だよ!? ほ、本当にいいの?」

「ああ……あ…でも、条件があるんだけどいいか?」

「え? じょ、条件!?」


 両手でスマホを構えながら、上目遣いで、郁人を見て、驚いている美月に、郁人は笑顔でそう言うと、美月は何を言われるのかとドキドキしているのである。


「美月……一緒に写真撮らないか?」

「え!? い、郁人と一緒に……そ、それは、む、無理だよ!!」

「いいだろ……美月写真を撮りたいんだろ……ほら、一緒に撮るぞ」


 そう言って、美月の肩を掴んで引き寄せる郁人にドキドキする美月は、郁人に取り上げられた自分のスマホの画面を見ると、顔と顔がくっつきそうな距離の自分達が映り、顔を真っ赤にしてしまう美月なのである。


「じゃあ、撮るぞ…美月……ほら、カメラ見て…」

「ううう、は、恥ずかしいよ」


 そう言って、恥ずかしがる美月にカメラの方を向かせて、写真を撮る郁人は、撮影した写真を見て、満足して、美月にスマホを返すのである。


「美月…それ、後で俺にも送ってくれよな」

「こ、これ…い、郁人にも送るの!?」


 郁人から、返された自分のスマホの画面を見て、顔を真っ赤にして照れる美月は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている自分と笑顔の郁人のツーショットの画面を見て、郁人にそう言う美月なのである。


「送ってくれないのか?」

「こ……これはちょっと…わ、私の顔……へ、変だし」


 そう言って、写真を送るのを嫌がる美月に、それなら仕方ないと、ポケットから自分のスマホを取り出す郁人なのである。


「え!? い、郁人なんでスマホ取り出してるの? あの……なんで、スマホをこっちに向けるのかな? えっと、い、郁人!! 今シャッター音がしたよ!! 写真撮ったよね!!」


 美月は、必死に顔を隠してながら、写真を撮る郁人に怒りの声をあげるのである。それでも、郁人が写真を撮るので、美月も負けるかと、スマホをカメラモードにして、郁人の写真を撮り始めるのである。


「い、郁人がその気なら、私だって、郁人の写真撮るんだからね!!」

「いいぞ…その代わり、可愛い美月の写真撮らせてもらうからな」

「か、かわ……うううううう~!! い、郁人!! こうなったら、連射モードだよ!!」

「お、おい、美月…それは卑怯だろ…お前がその気なら、俺も連射モードだ」

「ああ!! 郁人!! ずるい真似したらダメなんだからね!! 絶対私の方が多く写真撮るんだからね」


 そう言って、お互いの写真を撮る郁人と美月なのである。そして、しばらく、パシャパシャやった後に、お互い、スマホで撮影した写真を確認してニヤニヤするのである。


「い、郁人……しゃ、写真の事は許してあげるからね…今度から、勝手に撮らないでよね」

「じゃあ、美月・・・さっきの写真送ってくれよな」

「それは……も、もう、お、送ればいいんでしょ…送りますよ!!」


 美月はまた、郁人にスマホのカメラ向けられたために、渋々、叫びながら、郁人に写真を送るのである。美月がら送られてきた写真を見て、郁人は嬉しそうに微笑むので、美月は顔を伏せて真っ赤にして、照れるのである。


「ありがとう…美月」

「う…うん……い、郁人も…その……ありがとう」


 郁人にそうお礼を言われて、美月も真っ赤な顔で郁人を見て、お礼を言って、やっぱり、恥ずかしくなって、すぐに顔を逸らして、スマホの画面を見る美月は、郁人とのツーショット写真を見て、ニヤニヤ喜ぶのである。


「じゃあ、帰るか…美月」

「うん!! そうだね!!」


 郁人にそう言われて、美月は、上機嫌に返事をして、郁人の手を握ると上機嫌に家に帰るのであった。


 そして、郁人の部屋でも、美月は先ほど撮影した写真をニマニマと郁人のベッドで眺めながら過ごして、家に帰って、夕食を作って、お風呂に入り、自分の部屋に戻った後も美月は、スマホをニマニマ眺めるのである。


「あ……これ、印刷しないとだね!!」


 美月はそう言って、思い出したように鍵付きの机の引き出しを開けて、一冊のアルバムを取り出すのである。アルバムは、郁人の写真だらけで、たまに、美月も一緒に移っている写真があるのである。


 しかし、そのアルバムは、幼い頃のモノばかりで、二人で映っている写真も幼い頃ばかりで、中学生の制服の写真はほぼ郁人だけの写真なのである。


「……昔は…写真撮られるのも嫌いじゃなかったのにな……いつからだろう…写真を撮られるのが嫌いになったのは……」


 美月は、そんな答えがわかりきっている独り言を言うのである。そう、写真は、小学生の時の中学年の頃から、数が急激に減っているのであった。そんなアルバムを見て、美月は、痛む心を落ち着かせるのである。


「郁人……最近になってわかったよ……郁人も写真を撮られるの嫌いになった理由…たぶん、同じなんだよね」


 美月はそう言って、秘蔵のアルバムを閉じて、机の引き出しに仕舞って鍵をかけるのであった。暗い気分になってしまった美月は、もう一度、スマホの画面を見て、ハッと思い出したようにある人物に通話をかけるのであった。


「はい~、美月さん…何か御用ですか~?」

「ひろみん!! あのね!! お願いがあるんだけどね!!」


 そう、通話に出たゆるふわ宏美に、あるお願いをするのであった。

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