第141話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、幼馴染で恋人なので、ずっと一緒に居たいのです。その13

 郁人の登場で、女子生徒達は、一斉に道をあけるのである。


「……す、すまない……ありがとう」


 郁人が女子生徒達にそう言って、困惑しながらもお礼を言うと、女子生徒達は嬉しそうに甲高い声をあげて喜びの悲鳴をあげるのである。


「あ……郁人」

「い、郁人様!? ど、どうしてここに居るんですか~!?」

「あ、朝宮!? てめぇ…何しにきやがった!?」


 女子生徒達の花道を郁人が親衛隊の三人娘を引き連れて歩いてくるのに気がついた美月とゆるふわ宏美と浩二はそう言うのである。


「……ゆるふわ……どうなってるんだ?」

「わ、わたしぃにもわかりませんよ~!? 朝、生徒会長に美月さんが絡まれてしまいまして~……その後、風紀委員長に見つかってしまって~…結果がこれですかね~」


 美月達と合流する郁人は、言い合いを続ける生徒会長と風紀委員長を見て、ゆるふわ宏美に話しかけるのである。


「郁人……風紀委員に入るの!?」

「いや……風紀委員に入るつもりはないぞ」

「そ…そうなんだね……よかった…わ、私も生徒会に入るつもりはないからね!!」


 郁人が風紀委員に入るのではないかと不安な美月の質問をすぐに否定する郁人に、ホッと一安心した美月は、ハッとなって今度は力強く生徒会入りを否定するのである。


「そうか……というか……どうしてそう言う話になってるんだ?」


 郁人は、そんな必死な美月にそう尋ねるが、美月は疑問顔で、首を傾げているのである。


「朝宮……学校で、美月ちゃんに気安く話しかけるんじゃねーよ!!」

「……私も、よくわからないんだよね……なんでなんだろうね?」


 郁人が美月に話しかけることが許せずに、呆れる郁人を睨みながらそう言う浩二を、美月は一瞬睨むが、すぐに郁人の方を見て、疑問を口にするのであった。


「生徒会の悪事は我々、風紀委員が必ず暴いて見せるからな……覚悟しろ生徒会長」

「それはこちらの台詞ですよ……風紀を守ると言いながら、風紀を乱している風紀委員会は即時解散し、選抜し直す必要がありそうですからね」


 バチバチにやり合っている生徒会長と風紀委員長を見て、郁人はどうするかと考えるのである。


「……い、郁人さ……コホン!! 朝宮ではないか……おはよう!! 今日はお日柄もよく……」

「……朝宮君ですか……君も来たのですか? というか、夜桜さんから離れなさい……君みたいな生徒か近づいていい存在ではないのですよ」


 腕を組み、話しかけるか、話しかけないかと悩む郁人の存在に気がつく風紀委員長と生徒会長なのである。風紀委員長は、ポニーテールをなびかせて、風紀委員の女子生徒達を引き連れて、郁人の所に来ると、緊張気味に挨拶をして、生徒会長は、美月の近くに郁人が居ることが気に入らないのか、眼鏡をクイっとして、険しい表情で注意してくるのである。


「おはようございます……えっと……ふ、風紀委員長…その、風紀委員の件はお断りしたはずなのですが……」

「い、郁人様!? あ……いや…朝宮……お前が生徒会に嫌がらせをされて、風紀委員に入るかを迷っているのはわかっている……だから、私は朝宮の背中を押してあげることにしたのだ……大丈夫だ…生徒会は私に任せて、安心して風紀委員会に入ってくれ」


 郁人は、戸惑いながら風紀委員長に挨拶をして、すでに風紀委員会に入ることになっている件について確認すると、ドヤ顔で、豊満な胸を叩きながら、そう言い放つ風紀委員長に対して、唖然とする郁人なのである。


「夜桜さん……さぁ、あなた様はこちらに…そこの問題児の二人と一緒に居てはいけませんよ」

「あ…せ、生徒会長!? 私、生徒会には入らないって、お断りしましたよね?」

「大丈夫です…すべて、わかっていますからね……由緒正しい時ノ瀬の生徒会に入りを断る人など存在しませんからね……大方、風紀委員長に嫌がらせを受けているのでしょう…ご安心を、必ずや、我々生徒会が夜桜美月さんの事はお守りしますから…安心して、生徒会に入っていただいて大丈夫ですよ」


 美月の元に来て、郁人から引き離そうとする生徒会長に、美月は戸惑いながらそう言うと、生徒会長は、両手を広げて、爽やかな笑みを浮かべながら、意味不明なことを言い出すのである。


「えっと……い、いえ…た、単純に入りたくないだけなんですけど…」

「大丈夫ですよ…全てわかっていますからね…さぁ、こちらに…」

「あの…私、本当に生徒会には入る気はなくて…」


 生徒会長は、困惑する美月を、郁人から引き離そうと誘導するのだが、さすがの郁人も嫌がる美月を見て、眉間にシワを寄せるのである。


「ああああ…み、美月さんのことは大丈夫ですよ~!! わ、わたしぃが教室までお送りしますからね~!!」

「細田さん……また君ですか」


 郁人に機嫌が悪くなり、郁人が生徒会長と揉める前に、手を打つべく、ゆるふわ宏美は、引きつった表情でその場にとどまる美月と、爽やかな笑みを浮かべながら、さぁ、こちらへと右手で美月を招く生徒会長の間に割って入るのである。


「細田……てめぇが一番信用できねーんだよ!! まだ、生徒会長の方が信用できるぜ」

「……はぁ~、めんどくさいですね~……」


 ゆるふわ宏美は、浩二に詰め寄られて、そう言われて、ため息をついてボソッ独り言をつぶやくとゆるふわ笑みを浮かべるのである。


「永田さん……あなたがわたしぃを信用しなくても構いませんが~……永田さん……最近、目的を見失ってるんじゃないですか~」

「なんだと!?」

「だって~……永田さん…美月さんがこの学校で平和に過ごせるように~…ファンクラブ作ったんじゃないんですか~……今の自分の行動は美月さんのためになってるか~…もう一度考え直した方が良いですよ~」

「そ…それは……」


 詰め寄ってきた浩二に、ゼロ距離まで迫って、ゆるふわ宏美は、ゆるふわ笑みを浮かべて、浩二にしか聞こえないボリュームで、そう言い放つのである。浩二は、ゆるふわ宏美にそう言われて、何も言い返せずに黙り込むと、ゆるふわ宏美は軽やかに、浩二から離れるのである。


「細田さん……今、永田君を脅しましたね?」

「いえ~…脅していませんよ~…ただ、わたしぃは思ったことを口にしただけですよ~」


 あからさまに動揺している様子の浩二を見て、生徒会長は、ゆるふわ宏美を睨むと、涼しげなゆるふわ笑みを浮かべるゆるふわ宏美なのである。チラリと、郁人の方を見て、美月さんの事はわたしぃに任せてくださいよ~とアイコンタクトを送るゆるふわ宏美を見て、郁人はおとなしく静観することを決めたのである。


「なるほど……そうやって、夜桜さんと永田君を脅して生徒会入りを妨害しているのですね……風紀委員長……このような生徒を風紀委員などに入れるのは断じて許せることではありませんよ」

「夜桜美月が生徒会に入ろうと、細田には関係ないことだろ……そうやって、すぐに罪を捏造するのはやめろ」

「風紀委員長それは……あなた達、風紀委員が黙認している女子生徒の化粧の件ですか?」

「また、その話か……くだらん……化粧は濃すぎなければ問題ないと規則でも決まっている事だろ……だいたい、今時、化粧禁止など時代錯誤もいい所だ」


 また、生徒会長と風紀委員長の口論が始まるのである。そして、化粧の話になり、女子生徒の化粧を許可している風紀委員会を許せない生徒会長は、美月を指さしてこう言うのでる。


「夜桜美月さんを見なさい!! すっぴんで堂々と人前に出て、あの美しさですよ…女子高生のお手本となる姿ですよ…少しは見習ったらどうですか?」


 ドヤ顔で眼鏡をクイっとして、そう言い放つ生徒会長に、美月は冷や汗ダラダラの申し訳なさそうな表情なのである。


「えっと……せ、生徒会長…す、すみません…わ、私…化粧してるんですけど」


 勇気を出してそう言う美月にポカーンとする男子生徒達なのである。美月はナチュラルメイクなので、男子から見ると化粧をしていないように見えるのである。


「ふ、ふははははは、生徒会長…もう一回言ってみろ…夜桜美月がなんだって? 聞いてやるぞ」

「……い、いや…夜桜さん……そ、それは本当なのですか?」

「え…は、はい……す、すみません」

「いやいや、夜桜…お前は謝る必要性はないぞ!! 正直者は私は好きだからな…本当に夜桜は服装もきちっとしているし、素直でいい子なのに…どうして男癖だけ悪いのか…嘆かわしいな」


 申し訳なさそうな美月にそう上機嫌に言い放つ風紀委員長なのである。そして、ギロリと驚愕の表情を浮かべている生徒会長を睨んで、追い打ちをかけるのである。


「そもそも、風紀の事を言うなら…生徒会長……貴様の身だしなみはなんだ…シャツは出して、ブレザーのボタンは留めないで羽織るだけ…しかも、髪型もワックスで固めて…それで、風紀がどうのなど言えたものだな」

「……コホン……そうですね……でも、服装の気崩しなど男子生徒なら、誰もがやっている事ですよ…見なさい……君達、風紀委員が言うだらしない格好を朝宮君もしているではありませんか!」


 そう郁人を指差して言う生徒会長に、風紀委員長はうっと後ずさりして、郁人の方を見るのである。


「……い、郁人様は……コホン、朝宮は良いのだ……似合っているからな……だが、他の男子生徒はダメだ……だらしないからな!!」


 かなり自分勝手な暴論を言い出す風紀委員長に、風紀委員の女子生徒達は同調するのである。


「……やはり、風紀委員会はすでに…朝宮君に……風紀委員長…やはり、私は学園のために、風紀委員の悪事を必ず白日の下にさらして見せますからね!!」

「……それは、こちらの台詞だ……生徒会の悪事を必ず暴いて見せる…覚悟しておくことだな…生徒会長」


 勝手に盛り上がる生徒会長と風紀委員長を眺めながら、どうしたものかと考え込む郁人なのである。


「私じゃ、化粧しても意味ないってことだよね……そうだよね…私なんかじゃ…」

「み、美月さん!? だ、大丈夫ですよ~!! 美月さん!! とても似合っていますからね~」


 地味に化粧の件でショックを受けて、落ち込んでいる美月を慰めるゆるふわ宏美なのである。


「生徒会長…貴様がどれだけ妨害しようと…朝宮の風紀委員会入りはもう決定しているからな」

「それは、こちらの台詞ですよ…風紀委員長…夜桜さんの生徒会入りもすでに、決定していますから…覆ることはありませんよ」


 生徒会長と風紀委員長はそう言い放つと、それを聞いた郁人と美月は、絶望の表情を浮かべて、はぁぁぁぁ!!っと悲痛の叫び声をあげるのであった。

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