第132話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、幼馴染で恋人なので、ずっと一緒に居たいのです。その4

 突然、生徒会長と風紀委員長が現れたことにより、さすがに1年生達もたじろぎ、静かになるのである。


「朝宮君……また、君は問題を起こしましたね」


 女子生徒達に解散しなさいと、注意して、郁人に呆れながらそう言う生徒会長に疑問顔の郁人なのである。もちろん、そんな郁人の表情が気に入らないのか、生徒会長の横に居る長髪イケメンが郁人を睨みつけるのである。


「問題? 何か問題があるんですか?」

「い、いくとさまぁ~!?」


 そう本当に何が悪いかわからないという感じでそう言う郁人に、顔は笑顔だが、あからさまに、こめかみがピクピクして、怒っている生徒会長に、焦るゆるふわ宏美なのである。


「貴様!! 朝宮郁人!!」


 怒る長髪イケメンを手で制す生徒会長は、ため息をつきながら、男子生徒達の方を見て、美月の方を見るのである。郁人も、美月の方を見ると、同じように男子生徒達を一喝して、呆れながら美月に話しかけているポニーテール風紀委員長が目に入るのである。


「夜桜美月……また、お前は問題を起こして……それでも、時ノ瀬の女子生徒か?」

「あの…私、何か問題起こした事ありましたか?」

「美月ちゃん!?」

「美月!?」


 なんで自分が注意されているのか、わからない美月はキョトンとして、そう言ってしまうのである。もちろん、不機嫌そうだった風紀委員長は怒りの眼差しで美月を睨むので、ビクッと怯える美月なのである。


「ゆるふわ……美月が、なんで怒られているんだ?」

「あれですよ~……あの風紀委員長は、前に話した生徒会長と人気投票で負けて~、生徒会選挙でも~、今の生徒会長に負けた人なんですけど~…たぶん、美月さんの人気に嫉妬してるんじゃないですかね~」

「そうなのか?」

「知りませんけどね~……生徒会長も郁人様の人気に嫉妬してるんですよ~……面倒なので適当に謝って、教室に戻りましょうよ~」

「……すみませんが…彼女を責めるのはやめてあげてください」

「い、いくとさまぁ~…な、何言ってるんですか~!?」


 ゆるふわ宏美とヒソヒソ話をする郁人は、美月を叱る鬼の風紀委員長にそう言って話しかけるのである。そんな郁人の行動に驚き、恐怖を感じるゆるふわ宏美は、悲鳴をあげるのである。


「いいいいいいい、郁人様!! いえ!! あああああ、朝宮…私は今大事な話をしているのだ……は、話しかけてくれるのは嬉し……否!! 今は話しかけてもらっては困る!!」


 鬼の風紀委員長は、郁人に話しかけられて、耳まで真っ赤にして、挙動不審になり、支離滅裂なことを言い出すのである。その様子にジト目になる美月は、郁人を見つめるのである。


「急に話しかけてすみません……今回の騒動は自分が悪いので、彼女を責めないでもらいたいんです」

「いいいいい、郁人様が悪いなど……朝宮…君は悪くなどないのだ…すべては彼女が風紀を乱すのが悪いのだ!!」


 郁人に頭を下げられて、顔を真っ赤にしながら両手をブンブン振って、擁護する風紀委員長は、ハッとなって、美月をキリッとした表情で指さしてそう言うと、それは聞き捨てなりませんと、生徒会長が風紀委員長を睨むのである。


「その言い方は気に入りませんね…風紀委員長……学園の平和を乱しているのは朝宮君の方だと思いますよ」

「……生徒会長か……貴様、夜桜美月の肩を持つのか? 相変わらず、気に入らん奴だな」

「それは、こちらの台詞ですよ……この場は生徒会が引き受けますので、風紀委員の方々は、すぐに退去願います」

「それは、こちらの台詞だ…生徒会なぞにこの場を任せておけるか」


 なぜか険悪なムードになる生徒会長と風紀委員長に、さらに廊下は緊張感に包まれ、何とも言えない雰囲気が漂うのである。


「ゆるふわ……あの二人って仲が悪いのか?」

「はい~……とても仲が悪いで有名ですよ~……出合ったら必ず口喧嘩が起こるそうでして~……そういう訳で~…郁人様早く解散して~、教室に戻りましょうよ~」

「いや、この状況でそれは無理だろ」


 また、小声で話しかけてくる郁人にそう答えるゆるふわ宏美は、早くこの場から立ち去りたいのだが、郁人は同じように、全く状況が理解できずに、キョトンとしている美月を、必死に連れ戻そうとする浩二と政宗を見て、ゆるふわ宏美の提案を却下するのである。


「風紀委員長……君が朝宮郁人君に肩入れしていることは調べがついているのですよ」

「それは、こちらの台詞だ……生徒会長、貴様が夜桜美月に、色々便宜を図っていることを知っているのだぞ」

「……君もくだらない男に篭絡されて…今の君にはこの場は任せられません…いいから、ここは生徒会に任せなさい」

「貴様こそ、くだらない女の色香に騙されて…貴様にこの場を任せる訳にはいかん…いいから、ここは風紀委員に任せるがいい」


 そう言って、お互い譲る気はない生徒会長と風紀委員長を呆然と見ていた郁人はハッとなって、小声でゆるふわ宏美に話しかけるのである。


「……この状況どうすればいいと思う? ゆるふわ?」

「知りませんよ~!? やっぱり、これも郁人様と美月さんのせいじゃないですか~!?」

「俺達は悪くないだろ?」

「本気でそう思ってるんですか~!?」


 すべてを察したゆるふわ宏美は、珍しくジト目で郁人を見つめて、怒りの声をあげるのである。もちろん、鈍感な郁人は全く理解していないのである。


「美月ちゃん…とりあえず、早く適当に謝って教室に戻ろうぜ」

「ああ…それがいい…美月…とりあえず謝って、早く戻ろう」

「……え? 私が悪いの!?」


 政宗と浩二もすべてを察して、美月にそう言うと、言われた美月は驚きの声をあげて、よく状況を理解できていない鈍感美月は、とりあえず、頭を下げて謝ることにしたのである。そんな、美月の様子を見ていた郁人は、ならば自分も美月のために頭を下げようと決めるのである。


「あの……すみません」


 意を決して、今も口論を続けている生徒会長と風紀委員長に声をかける郁人に、美月もまた、同じようにすみませんと、郁人の発言でこちらを見てくる生徒会長と風紀委員長に声をかけるのである。


「よ、夜桜美月さん……大丈夫ですよ!! すべて私に任せておきなさい…この悪者の風紀委員長と朝宮郁人は私が成敗しておきますからね」

「いいいいい、郁人様……コホン……朝宮…この場は私に任せてくれ…悪の生徒会長と夜桜美月は私が厳重に注意して、もう二度と朝宮に迷惑などかけさせないようにしておくからな」


 郁人と美月は、そう生徒会長と風紀委員長に捲し立てられて、黙ってしまうのである。睨み合う生徒会長と風紀委員長は、今のお互いの言葉に、納得がいかないと激しく睨み合うのである。


「あの…その…お、俺が悪かったので…とりあえず、解散してもいいですかね?」

「いいいいい、郁人様……あ…いや、朝宮…君が悪いなど、あるはずもない…場を収めようとする君の自己犠牲精神はとても尊いものだが、それを私は許すわけにはいかないのだ」


 もはや、郁人も、女子生徒達も早く教室に戻りたいのである。しかし、代表して郁人がそう言うのだが、譲らない風紀委員長は、自慢のポニーテールをなびかせて、ドヤ顔で郁人にそう言って、生徒会長を睨むのである。


「えっと、すみません…私が1組教室に来たのが悪いんです。もう、教室に戻りますので、許してくれませんか?」

「な、何を申されるのですか!? 君の聖女みたいな美しい外見と同じような美しい心でこの場を鎮めようというのですか!? 確かにそれもいいでしょうが…しかし、私は君が傷つき、心を痛めて彼らを見逃すことを許せないのです……この場は、生徒会が何とかしてみますから、全てお任せください!!」


 美月は、そう言って生徒会長に頭を下げるのだが、生徒会長はそんな美月に跪くと、長髪イケメンもそれに倣って跪き、美月を称えて、そう賛美の言葉を言うと、風紀委員長を睨むのである。


「もはや、許すことはできませんね…風紀委員長、朝宮君……君たちは夜桜さんの心を苦しめる存在です……学園の平和のためにも、ここで決着をつけましょう」

「……それはこちらの台詞だ…生徒会長、夜桜美月…貴様たちの傍若無人の振る舞いも今日までだ、きっちり、貴様たちに学園の風紀と言うものを叩きこんでやる…覚悟しろ」


 郁人と美月は、完全に理解したのである。あ、この二人も話が通じない人だと、その瞬間、郁人と美月は諦めの表情を浮かべて、もはや、悟った表情で事態を静観するのであった。


「……い、いくとさまぁ~!! どうするんですか~!?」

「……ゆるふわ…諦めろ……とりあえず、俺達はチャイムが鳴るのを待つしかない」


 もはや、後の事が恐ろしいゆるふわ宏美は、涙目で郁人にそう言うが、郁人は、チャイムが鳴るまで、廊下で立ち尽くすことを決めたのであった。もちろん、美月も同じように悟った表情で廊下に立ち尽くしているのである。


 そして、チャイムが鳴るまで、一年生の廊下で、二年生の生徒会長と風紀委員長の口論を眺めさせられる一年生達なのであった。

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