第123話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その23

 しょぼんとして、チビチビと悲しそうに夕食を食べる美悠と雅人に、疑問顔の郁人なのである。


「二人ともどうかしたのか? さっきまでは、あんなに美味しそうに食べていたのに…な、何かおかしな味でもするのか!?」

「郁人…気にしなくていいよ…自業自得だから…ほっといて大丈夫だよ」


 不安になる郁人に、美月はジト目で、美悠と雅人を見ながら、郁人にそう言って、ムスッとしているのである。郁人は訳が分からず混乱して、美月の言うとおりに、何も言わずにハンバーグを食べるのである。


「み……美月…今日は俺のベッドで寝ていいからな」


 唐突に郁人は美月にそう提案して、ムスッとしている美月の機嫌を戻そうとするのである。そんな郁人を疑問顔で見つめる美月と、ひっそり聞き耳を立てる郁人家と美悠なのである。


「う…うん…ありがとう…郁人…でも、郁人はどこで寝るの?」

「いつも通り…俺はリビングで寝るから大丈夫だぞ」

「そ…そうなんだ」


 いつも通りの会話にホッとする郁人家と美悠なのだが、美月は考え込むのである。


「い、郁人…い、一緒に寝ればよくない? ほら、私達もう恋人同士だし」


 ここで、美月が爆弾発言するのである。驚く郁人家と美悠は、開いた口がふさがらないのである。


「そうだな…まぁ、別にいいかもしれないな」


 郁人も、家族が聞き耳を立てている中で同意するので、驚愕する郁人家と美悠なのである。母の麻沙美などは、わなわなと怒りで震えているのである。


「い、郁人…まだ…二人には早い……それは許されない」

「…そうだな…母さんの言うとおりだ…いいかい…二人とも、交際するのは認めるが、そう言うのはもう少し大きくなってからにしなさい」


 そう、郁人と美月の会話に割って入る郁人の父の晴人と母の麻沙美に、疑問顔の郁人と美月なのである。


「そういうものなのか? まぁ、とくに問題ないと思うが…」

「えっと…ダメですかね? 子供の頃はよく一緒に寝てましたし……」


 あからさまに不満顔の郁人と美月に、この二人何言っているんだと言う表情で、美悠も雅人も驚き、父の晴人は呆れ果て、母の麻沙美は、美月を睨んでいるのである。


「美月ちゃん!! そもそも……そういうことは……女の子が言う事じゃない」

「郁人…きちんと美月ちゃんを大切にしないとダメだぞ」

「お、お姉ちゃん!! こんなところで、そんな話しないでよ!!」

「兄貴……家族の前で…そういう話はよくないと思うぞ」


 必死に二人を説得する郁人家と美悠に、よくわかってない様子の郁人と美月なのである。


「そう言ってもな……もう付き合いだして、美月と一緒に寝たことあるしな」

「そうだよね…今更だと思うけど……ダメなのかな?」


 郁人と美月の発言で場が凍り付くのである。美月と郁人はエターナルフォースブリザードを使用した、郁人家と美悠は凍り付き、場は静まり返った。


「い、郁人……今なんて……言ったのかしら」


 母の麻沙美がわなわなと怒りに震えているのである。父の晴人も珍しく怒っている様子なのである。


「え!? い、いや……何かおかしなこと言ったか?」

「郁人…お前という奴は…そんな奴だとは思っていなかった…美月ちゃんも、もう少し自分を大切に考えてくれる子だと思っていたんだけど」


 頭を抱える父の晴人に、困惑する郁人と美月なのである。美悠と雅人にも睨まれて、訳が分からない郁人と美月は、お互い顔を見合わせて、どうしようと困り果てるのである。


「えっと……よくわかんないが……そ、そんなに怒る事なのか?」

「そ、そうだよね……あの…な、何がダメなんですか?」


 そう逆に聞く郁人と美月に、この二人はもう駄目だと呆れかえる郁人家と美悠なのである。


「常識的に考えればわかるだろ…本当に二人はどうしてこう…はぁ、公人さんと美里さんになんて報告すれば……」

「え!? お母さんとお父さんに!? えっと…普通に…一緒に寝ましたって言えばいいと思いますけど……ダメなんですかね?」

「美月ちゃん……そう言えないから困っているんだよ…自分の言っていること、わかっているのかい?」


 美月が頭を抱えて本気で困っている郁人の父の晴人に、キョトンとした表情でそういうので、ますます、頭が痛くなる郁人の父の晴人なのである。


「……そこまで言うなら…別々の部屋で寝るか」

「うん……残念だけど…仕方ないよね」

「でも…なんで、あんなに同じ部屋で寝るだけで、大騒ぎしてるんだろうな?」

「わかんない……子供の頃なんか、一緒のベッドで寝てたこともあるのにね」


 郁人と美月はそう会話をして、食事を再開するのである。その会話に疑問を覚える郁人家と美悠なのである。


「い、郁人……さっきの話だけど…一緒に寝るってどういう事なんだい?」

「は? なんで今更そんなこと聞くんだ? さっき、滅茶苦茶怒ってたのに…」

「いいから……答えて……郁人」

「は…はぁ……だから、俺の部屋で、美月と一緒に寝るって話だろ」


 郁人は、めんどくさそうな表情を浮かべながら、必死にそう聞いてくる両親に再度同じことを言うのである。


「それは…どう寝るんだい?」

「は? 何言ってるんだ? 父さん……普通に、美月がベッドで寝て、俺が床に敷布団しいて寝るだろ…何当たり前の事言ってるんだ?」


 美月もモグモグ郁人のハンバーグを食べながら、コクコクと同意するのである。


「そ…そうか……つまり、前にもって言うのはどういうことだい?」

「いや、だから……えっとだな……部屋で遊んでて二人で疲れて寝てしまったことがあるだけだけど」


 郁人は少し言葉を選んでそう言うのである。そんな郁人の言葉に郁人家と美悠はほっと胸をなでおろすのである。


「そうか…でも、今日は別々の部屋で寝なさい……いいね」

「いや……だからそうするって言ってだろ」


 父の晴人に改めてそう言われて、少し不機嫌にそういう郁人なのである。美月も不満気に無言で夕ご飯を食べるのである。


 しかし、二人以外は、心の底からホッとして、食事を再開して、この二人は、本当に勘違いをさせる言い方をすると、心の底から思うのであった。






 そして、夕ご飯を食べて、美月と美悠はいったんお風呂に入りに、自宅に戻って、お風呂に入ってから、再度郁人家を訪れて、郁人の部屋で、四人で勉強をして、ついに寝る時間になるのである。


 美悠は客間に移動して郁人があらかじめ用意しておいた敷布団で、雅人は自分の部屋に戻り、そして、郁人はリビングで寝ることになるが、美悠と雅人が郁人の部屋から眠そうに移動した後、まだ自分の部屋に居る郁人は、美月が郁人のベッドにダイブする様子を見て微笑むのである。


「美月……お休み……」

「うん……お休みだよ…郁人」


 郁人は、布団を被って、少しだけ顔を出して、照れながらおやすみなさいを言う美月を微笑ましく見ながら、自分の部屋から出るのである。


そして、誰も居ないリビングに移動して、スマホを取り出して、ゆるふわ宏美に、通話をかけてもいいかとメッセージを送ると、もう日付も変わりそうな時間なのに、すぐに既読がつき、いいですよ~と返事が返ってくるので、通話をかける郁人なのである。


「珍しいですね~…郁人様から、通話をかけてくるなんて~…それほど、今日の事を謝りたいのですね~…いいですよ~、許してあげますよ~」

「……は? ゆるふわ…お前は何を言ってるんだ?」


 ゆるふわ宏美が、ドヤ声でそう言うが、郁人は全くそんな意図はないのである。


「……まさか~…しゃ、謝罪の通話じゃないんですか~!? い、郁人様~!! 郁人様が帰った後…わたしぃがどれだけ大変だったと思うんですか~!!」

「そ、それは…すまなかった」


 ゆるふわ宏美は、通話で泣き叫びながらそう言うので、素直に謝る郁人なのである。しかし、郁人の用件は謝罪ではないのである。


「……では~…なんの用ですかね~」

「ああ…美月の事なんだがな」

「でしょうね~」


 落ち着きを取り戻したゆるふわ宏美の問いに、間髪入れずにそう答える郁人なのである。郁人がゆるふわ宏美に用事など、美月のこと以外ないという事は、短い付き合いのゆるふわ宏美も理解しているので、そうだろうとは思っていたのである。


「ああ…今日の事で俺は…一つ決めたことがある」

「は、はい~……あまり…聞きたくないですが~、な、何ですか~」


 郁人が自信満々に何かを言おうとするときはだいたい、とんでもないことを言うというのは、短い付き合いのゆるふわ宏美でも理解しているので、聞きたくないのだが、聞くという選択肢しかないゆるふわ宏美なのである。


「美月のために…俺は…学校で一番の人気者になってみせる」

「え!? い、郁人様…今なんて言ったんですかね~!?」

「……俺が学校で一番の人気者になると言ったんだ」


 唐突にそう言われて、戸惑うゆるふわ宏美なのである。だが、郁人は真剣なのである。


「えっと~…い、郁人様…い、言いにくいことなんですが~…もうすでに、郁人様は学校で一番人気かと~」

「いや…お世辞はいいんだ……ゆるふわ……こんな俺が学校で一番の人気物に何てなれないだろうが……それでも、なる必要があるんだ…すまないが協力して欲しい」

「えっと~…それは良いですけど~…あのですね~い、郁人様……郁人様はそのですね~」

「そうか…じゃあ、詳しいことは月曜日だ…俺に考えがある」

「あの…郁人様…わたしぃの話を聞いてください~」


 完全にゆるふわ宏美の話を無視して、郁人は話を進めるのである。そう、美月の学校での立ち位置を変えるために、郁人は本気で、人気の学園のアイドルを目指すことにしたのであった。


「そ…それ…意味あるんですかね~」

「大丈夫だ……じゃあ、月曜日…頼むな」

「あ…い、郁人様…わたしぃの話はおわ……」


 そう言いたいことを言って、通話を切る郁人なのである。美月に相応しい人間になるために、郁人は気合を入れるのである。通話を切られてゆるふわ宏美は、やっと、地獄を乗り越えたのに、再度地獄が待っているのかと、憂鬱になるのであった。

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