第122話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その22

 結構時間が経過しても、美月は郁人から離れないのである。さすがに、そろそろ、食事の準備をしないとと思う郁人なのである。


「み、美月そろそろご飯作らないと……」

「……」


 そう言われても、郁人の胸の中で、目をつぶって、しがみつく美月なのである。完全に郁人の発言をスルーする美月に、郁人もタジタジなのである。


「み…美月……ほ、ほら…美月がご飯作るって言ってただろ…そろそろ、ご飯の時間だぞ」

「……」


 そう言って、美月を説得しようとするが、美月は郁人から離れる気はないのである。


「美月…ご飯作らないといけないから離れなさい!!」

「イヤッ!!」


 そう強めに言って説得しようとする郁人だが、美月は頬を膨らませて、不満たっぷりな顔で郁人を上目遣いで見ながら、はっきりとそう返答するのである。


「……そ、そんな不機嫌そうな表情で怒ってもダメだからな」

「ムムムム~!!」


 美月は、不機嫌ですオーラを出しながら、もう少しこうしていたいと頬を膨らませながら視線で郁人に伝えるのである。


「ダメだからな、ほら…頬を膨らませて怒ってないで…ご飯作りに行くぞ」

「もう少しこうしていたいよ」

「……ダメだからな」


 郁人は、そう厳しく言って美月から、離れると、美月は物凄く不満顔なのである。


「……郁人の意地悪」

「仕方ないだろ…俺も…い、いや…ほら、ご飯作りに行くぞ…今日は美月のためにハンバーグだからな」

「郁人、だから、私が作るから…私に任せてよ!!」

「仕方ないな…じゃあ、俺と美月で一緒に作るか…俺が美月の作るな」

「…じゃあ、私が郁人の作るね」


 そう言って、部屋から出て階段を下りて、一緒にキッチンに向かう郁人と美月なのである。そして、一緒にキッチンで料理する姿を、あらかじめ、リビングに避難していた美悠と雅人が見て、結局一緒に料理するなら、最初からすればいいのにと思うのであった。


 そして、美月が郁人の家にお泊りに来るときは、必ずソファー前のテーブルで郁人と美月が二人で食べるのがお約束なのだが、今回は美悠も一緒なのである。


「美悠ちゃん…美悠ちゃんは郁人の席で食べるかい?」

「えっと…私は…」

「ああ…なるほどね…郁人、美悠ちゃんも、ソファーの方のテーブルで食べるから、雅人も今日はそっちで食べなさい」


 郁人の父の晴人に、そう尋ねられる美悠はあからさまに挙動不審に戸惑っているため、晴人はなるほどと全てを察して、郁人にそう告げるのである。


「あ…ああ…じゃあ、そっちに四人分持っていくな」

「……」


 父の晴人に言われて、疑問すら抱かずに、了承する郁人をジト目で見る美月なのである。美月と美悠と雅人だけが、なぜ四人で一緒に食べるのかと言う事情を知っているのである。


「み、美月…ど、どうした!?」

「……別に……なんでもないよ」


 物凄く不満そうな美月に、料理を盛りつけながら、タジタジな郁人なのである。美月は、美悠が郁人の事を好きなこと、雅人が自分を好きなことを知っているため、呑気な郁人に不満な美月なのである。


「と、とりあえず、料理持ってくな」

「……そうだね」


 出来た料理を持っていく郁人に、不満顔で、美月も配膳を手伝うのである。ちなみに、お客の美悠を含めて、誰も手伝おうとはしないのである。もちろん、これは理由があり、手伝おうとしても、二人の邪魔にしかならないためである。


 てきぱき準備して、配膳する郁人と美月に手伝う隙などないのである。そして、配膳が終わり、郁人は仲良く美月の隣にしっかり、陣取るのである。少しムスッと郁人をジト目で見ていた美月が上機嫌のドヤ顔なのである。


「じゃあ、食べようか…いただきます」


 対面に並んで座る美悠と雅人はあからさまに不満顔で、郁人と美月を見るのである。もちろん、美悠の不満な理由の一つが美月がドヤ顔で美悠の事を見るからでもあった。上機嫌に、郁人の後にいただきますと言う美月と、あからさまに、不機嫌にいただきますと言う美悠と雅人なのである。


「やっぱり、郁人のハンバーグは美味しいね」

「いやいや、美月のハンバーグの方が美味いぞ」


 そう言って、郁人と美月は美味しそうに大好物のお互いが作ったハンバーグを食べるのであるが、全く、美悠と雅人にはどっちがどっちのハンバーグなのか判別できないのである。


「あ…兄貴…ちなみにあ、兄貴って他に誰のハンバーグ作ったんだ?」


 そう、恐る恐る聞く雅人に、ナイスゥと心の中で褒める美悠なのである。見た目も味も一緒だができるなら、好きな相手の手料理が食べたい二人なのである。


「ん? 食えばわかるだろ」

「そ…そうだけどさ」


 兄の郁人に、はっきりそう言われる弟の雅人は引き下がてしまうので、美悠は心の中で、呆れかえるのであった。


「お、お兄ちゃん…でも、いちよ…お兄ちゃんと……お、お姉ちゃんから教えて欲しいな…な、なんて」


 美悠が郁人にそう話しかけている途中から、姉の美月がジト目で妹の美悠を睨むので、どもってしまう美悠なのである。美悠の援護射撃に、雅人は心の中で、ナイスゥと心の中で美悠を褒めるのである。


「見ればわかるだろ」

「そうだよね…見ればわかるよ」


 疑問顔の郁人は、何をこの二人聞いているんだという顔でそう言うのである。しかし、美月の方は、今日の出来事で、自分達の料理は、自分と郁人しかわからないと悟ったのである。今まで、郁人と同じ鈍感な美月だが、美悠や雅人の気持ちを知って、成長したスーパー美月ちゃんなのである。


「食べればわかると思うよ…さぁ、二人とも食べてね」


 美月は、そうドヤ顔で美悠と雅人に言うのである。しかし、ここで、妹の美悠は全てを察して、隣の雅人にアイコンタクトを送るのである。


(これは、たぶん…お姉ちゃんの嫌がらせだよ…つまり、私のがお姉ちゃんので、あんたのがお兄ちゃんの作ったハンバーグだよ)

(……そう言う事だよな…よし、交換しようぜ!!)


 一瞬のアイコンタクトで、全てを察した美悠と雅人はハンバーグを交換するのである。そして、ハンバーグを食べる美悠と雅人は、満足そうな表情を浮かべると、それを見て驚く美月なのである。


「え!? なんで交換するの!?」

「お姉ちゃん…お姉ちゃんの考えはわかってるんだから」


 そう、驚く美月に、ドヤ顔でそう言い放つ美悠と、美味そうにこれが姉貴のハンバーグなのかと満足そうな雅人なのである。


「……雅人……お前…そんなに俺の料理が食いたかったのか」

「は!?」


 美味しそうに料理を食べる雅人を見て、感動する郁人なのである。それを見て、呆れる美月なのである。


「……せっかく、私が、美悠に郁人の手料理食べさせてあげようと思ったのに…」

「え…えええええ!!」


 実の姉は物凄く優しかったのである。そんな優しい姉を、疑った美悠には天罰が下るのである。美月は呆れ、呆然とする美悠と雅人に、何も知らない郁人だけが、そうか、そんなに俺の料理が好きだったかと物凄く嬉しそうなのであった。

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