第104話ギャルゲの主人公と乙女ゲーのヒロインは、勉強が得意なのである。その4

「郁人様、許しませんからね~、郁人様、許しませんからね~、郁人様、許しませんからね~」


 ドナドナされるゆるふわ宏美は、うつろな瞳でぼそぼそと恨み言を言い続けるのである。右腕を梨緒に、左腕を副会長の委員長に掴まれて、郁人様親衛隊の三人娘を引き連れて、7組教室に向けて移動する様は、物凄く目立ち、何事かと生徒達から注目を集めるゆるふわ宏美なのである。


「郁人様、絶対に復讐してやりますからね~、郁人様、絶対に復讐してやりますからね~、郁人様、絶対に復讐してやりますからね~」


 7組教室に売られに連れていかれるゆるふわ宏美は、うわ言のようにつぶやく宏美に、梨緒はため息をつくと、ニッコリと微笑みを浮かべるのである。


「宏美ちゃん…何も怖くはないよぉ…大丈夫だからねぇ」

「う、嘘です~!! 絶対に信じませんからね~!! だいたい、会長のわたしぃに対してこんなことして、ただで済むと思っているんですか~!?」

「え? 宏美ちゃん? 何か言ったかなぁ?」

「……い、いえ~、何も言っていませんよ~」


 ゆるふわ宏美は、そう言って少し怒ってみせると、満面な笑みで、ラスボスよろしくの圧倒的な圧を放つ梨緒に、身体がすくんでぎこちないゆるふわ笑みで、抜きかけた刃を収めるのである。つまり、ヘタレたのであった。


「そっかぁ…そうだよねぇ…宏美ちゃん…大丈夫だからねぇ」

「……う、うううう~」

「それに、郁人君も喜ぶと思うんだよねぇ…宏美ちゃんが、夜桜さんと仲良く学校で一緒に居ればねぇ」

「……そ、それは~…い、いえ~…だ、騙されませんからね~!!」


 この人は、絶対にまだ、勘違いをしていると確信するゆるふわ宏美は、やはり、この事件の原因は郁人にあると確信して、ますます、郁人の事を恨むゆるふわ宏美なのである。


「だから、今からやることは、Win-Winなんだよねぇ」

「わたしぃはWinじゃないですよ~!! 梨緒さん…だからその件は、勘違いなんですよ~!!」

「大丈夫だよぉ…宏美ちゃん…私達は味方だからねぇ…安心していいんだよぉ」

「そうですよ! 会長…水臭いじゃないですか…一緒にファンクラブを作った仲じゃないですか…我々に任せてください」

「わたしぃの話を聞いてくださいよ~!!」


 完全に彼女達の中では、ゆるふわ宏美は、美月の事がラブの意味で好きだという事になっているのである。


 どうすることもできないままに、7組教室まで連れてこられる宏美だが、教室の前にたどり着くと、梨緒は、戸惑い、郁人ファンクラブ幹部メンバーの進行を止めに入る7組の男子生徒達の一人に声をかけるのである。


「ごめんねぇ…夜桜さんを呼んでくれないかなぁ?」

「あ…あの…す、すみませんが…それはできな…」

「呼んできてもらえないかなぁ?」


 強めの圧をかける梨緒に対して、最初は渋っていた男子生徒も、梨緒の圧にやられて、素早く7組教室に逃げ出すのである。


「な、永田さん!! い、一組の女子の奴らが殴り込みに来ました!!」

「はぁ!? なんだそれ!?」


 相変わらず、美月の所で、何とも言えない様子で立っている浩二と政宗に、先ほどの生徒がそう報告に来るのである。その報告に、超絶不機嫌で、本日7組教室にて一言も口を発していない美月の視線が、窓の外から、教室内に向くのである。


「い、今、なんとか、廊下にいた男子達で押さえているけど…それもいつまでもつか…」

「わかったぜ…すぐ行く…政宗、すまねーが、付き合ってくれねーか?」

「ああ…勿論だとも…行こう、浩二」


 そう気合を入れて、イケメン二人が教室を出て行こうとした時である。7組教室の扉の前に、梨緒と副会長の委員長に捕らえられているゆるふわ宏美が差し出されるのである。


「大丈夫だよぉ…そう警戒しないでよねぇ…私達は、夜桜さんのために、宏美ちゃんを連れてきてあげただけだよぉ」


 そうにこやかな笑顔で、言い放つ梨緒に、気圧される7組男子生徒達なのである。


「ひろみん!? ちょっと…あなた達…ひろみんに何してるのよ!?」


 捕らえられているゆるふわ宏美を見て、美月はすぐに駆け寄るのである。浩二や政宗は、美月のあまりの行動の速さに、美月を止めることが出来ずに、すぐに美月のところに行くのである。


「夜桜さん…勘違いしないでよねぇ…私達…夜桜さんと仲良くなりに来たんだよねぇ」

「え!? り、梨緒さん!?」


 梨緒の口から予想外の言葉が出てきて、ゆるふわ宏美は驚くのである。もちろん、郁人様ファンクラブ幹部メンバーも梨緒の言葉に同意するのである。


「え!? ええええ~…嘘ですよね~!? だって…みなさんあんなに美月さんのこ…」

「宏美ちゃんは余計なこと言わないようにしようねぇ」

「会長…口は災いの元ですよ」


 素早く、副会長の委員長に口を塞がれ、梨緒に黙れと圧を放たれるゆるふわ宏美は、コクコクと頷くのである。その様子を疑惑の眼差しで冷たく見つめる美月なのである。


「……私は、別に仲良くなりたくないよ」

「……そ、そっかぁ…でも、私達は、夜桜さんと仲良くなりたいなぁ」


 そう美月に冷たく言われて、こめかみをピクピクさせながらも、清楚笑みを浮かべて、友好を示す梨緒なのである。


「おい、貴様等…何を考えている」

「これはどういうことだ? 細田…また、てめぇの仕業かよ!!」

「なんで、わたしぃに言うんですか~!! わたしぃはあからさまに被害者ですよ~」

「宏美ちゃん…宏美ちゃんは少し黙ってようかぁ」

「そうですよ…会長…会長は少し静かにしていましょう」


 やはり、政宗と浩二に責められるゆるふわ宏美は、そう言って無罪を訴えるが、それを許さない梨緒達なのである。


「大丈夫だからねぇ…宏美ちゃん…すべて私に任せておいてよねぇ」


 そうニッコリ笑顔で、ゆるふわ宏美に言う梨緒に対して、全く大丈夫じゃないですよ~と思う宏美なのである。そんな梨緒を、ジト目で見ている美月は、やはり超絶不機嫌なのである。


「ひろみん…今すぐ助けてあげるからね」

「み、美月さん!!」


 そう頼もしく言い放つ美月に感動するゆるふわ宏美なのである。


「夜桜さん…宏美ちゃんと話したかったでしょ…だから、連れてきてあげたんだよぉ…夜桜さん…夜桜さんの事は聞いているから…安心してよねぇ」


 そう優しく言う梨緒は、宏美を解放して、美月に差し出すのである。すぐに美月は、前に押し出されるゆるふわ宏美を、両手で倒れないように支えてあげるのである。。


「大丈夫だからねぇ…私は、夜桜さんの味方だよぉ…宏美ちゃんと仲良くしたくても、そこの二人に邪魔されているんだよねぇ…大丈夫…私達が何とかしてあげるからねぇ」


 そう笑顔で言い放つ梨緒は、ニッコリ笑顔で、イケメン二人を見つめながらそう言うのである。


「お、おいてめぇ…三橋…俺達に喧嘩を売ってんかよ!!」

「その言葉は…聞き捨てならない…美月と俺は幼馴染なんだ…邪魔などしていない」


 そうイケメン二人が梨緒に反論するのである。そんなイケメン二人を完全に無視する梨緒は、美月に清楚笑みを浮かべるのである。


「確かに、私達は、夜桜さんと誤解があって…対立していたけどねぇ…仲良くなれると思うんだよねぇ」

「……私は思わないよ」


 やはり、そう冷たく言う美月なのである。あからさまに、郁人様ファンクラブ幹部メンバーの空気が悪くなるのである。


「そ、そう言わないでください…夜桜さん…会長を通じて我々も、夜桜さんと仲良くなりたいのですよ」

『『そうですよ!!』』


 副会長の委員長がそう言うと、それに同意する三人娘なのである。


「私は…仲良くなりたくないかな…ごめんなさい」


 美月は、頭を深く下げて謝るのである。そんな美月に、こめかみピクピクな幹部メンバー達なのである。


「ほら、美月が嫌がってるだろ…早く帰れ…貴様等」

「そうだぜ…美月ちゃんはてめぇ等とは仲良くしたくないってよ!!」


 そう自信を取り戻して、強気で言う政宗と浩二なのである。そんな二人をジト目で見る美月はすかさず突っ込むのである。


「…二人とも仲良くしたくないけどね」


 はっきり美月の口からそう言われて、固まるイケメン二人なのである。場の空気は最悪なのである。


「ドドドドドド、どうすればいいんですか~!?」


 あまりの険悪な雰囲気に絶叫するゆるふわ宏美は、美月の抱き枕にされて、ぎゅっと抱きしめられるのである。


「ひろみん…ひろみんは別だからね!! 大好きだよ!! ひろみん!!」

「みみみみ、美月さん~!?」


 その美月の発言で、郁人様ファンクラブ幹部メンバーから歓声があがるのである。


「宏美ちゃん!! 完璧だよぉ!!」


 そして、梨緒がしてやったという表情で、ゆるふわ宏美を見るのである。まさにカオスな状況に、早く休み時間が終わるように祈ることしかできないゆるふわ宏美なのであった。

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