第91話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その16

 美悠は、姉の美月が帰ってきたことに気がついて、姉が自分の部屋に入ったことを確認して、素早く一階の客間に移動するのである。そして、客間に入ると、敷布団で寝ている雅人が居るのである。


「ほら、早く起きて、お姉ちゃん帰ってきたから…たぶん、今からお風呂に入るから、素早く家に帰ってよね」


 布団を引っぺがして、雅人を叩き起こす美悠は、寝起きの雅人にそう言って、急かすのである。


「……マジかよ…ねみぃ…わ」

「全く…お姉ちゃんが泊まるからって、ウチに逃げてこないでよね……というか、邪魔してきてよ…全く」


 まだ眠い雅人は、眠たげに目を擦りながら、理不尽なことを、腰に手を当てて言い放つ美悠を見るのである。


「……あ…ああ、朝か…って、お前が何でここに居るんだよ!?」

「ここ、私の家でしょ!! あんたが、昨日、お姉ちゃんが帰らないから、家に居るの気まずいって、ウチに来たんじゃない…はぁ…覚えてないわけ」

「…そうだったぜ……いや…気まずいだろ…ていうか……俺は、姉貴に気持ちを伝えたんだからよ…次はお前の番だろ」


 布団から出て、起き上がって、背伸びをしながら、美悠にそう言う雅人に、呆れる美悠なのである。


「あのねぇ…誰も、告白しろなんて言ってないでしょ……今告白しても無理だってわかるよね? 本当に、あんたって馬鹿よね」

「なんだと!? お前が言ったんだろーが、気持ちを伝えた方が良いって」

「言ったけど、今行けとは言ってない…まあ、私は、もう少しお兄ちゃんとの仲を深めてからかな」


 そっぽを向いて、腕を組んで、そう言う美悠を、ジト目で睨む雅人なのである。雅人からしたら、騙された気分である。


「お前…それは卑怯だろ!!」

「うるさいなぁ!! アンタが勝手に盛り上げって、勝手に自爆したんでしょ!!」


 喧嘩を始める二人は大声を出してしまうのである。


「美悠? どうかしたの?」


 そんな二人の騒ぎに、美月が二階から声をかけるのである。


「お、お姉ちゃん!? な、なんでもないよ!! ちょ、ちょっと、テレビ見てて、テンション上がっちゃって…」

「そ、そう…じゃあ、私、お風呂入るからね」


 そう言って、美月はお風呂場に向かうのである。ホッと胸をなでおろす美悠は、キッと雅人を睨むのである。


「い、いや…俺は悪くねぇ…ていうか…大丈夫なのか?」

「何が?」

「姉貴…バレてないか!?」

「あ…大丈夫でしょ…お姉ちゃん、鈍感で馬鹿だしね…気づかないよ…だから、バレないうちに、とっとと帰ってよね…あと、お兄ちゃんにもバレないでよね!!」

「わ、わかってるって…じゃあ、さっさと帰るか」


 雅人は、そう言って、帰ろうとすると、ふと振り返って、美悠に一言お礼を言うのである。そんな、雅人に少し、照れる美悠は、さっさと帰れと家から叩きだすのであった。


 雅人を追い返した美悠は、久しぶりに、リビングで映画を見ることにしたのであった。






 雅人は、こっそり、家に帰るが、兄の郁人の気配がないので、ホッと一安心して、自室に戻って、再度ベッドでふて寝をするのである。


 しかし、どうせ、今日も、美月は兄の郁人に会いに来るだろうと思った雅人は、正直、美月に会うのは気まずいが、覚悟を決めて、ベッドから起き上がり、愛用のゲーム機を持って、一階のリビングに向かい、ソファに寝転がって、ゲームをプレイする雅人なのであった。


 そして、昼前になると、兄の郁人が起きてきて、リビングの雅人に声をかけるのである。


「雅人…昨日はすまないな…夕食大丈夫だったか?」

「兄貴……適当に食っておいたから大丈夫だぜ」

「そうか……少し、心配だったんだが…美月の奴が、大丈夫って言うからな」


 相も変わらず、兄貴は、姉貴には甘いなと思う雅人なのである。正直、兄である郁人とも、少し気まずく、あまり、話したくはない雅人なのである。


「とりあえず、昼飯、何か適当に作るな…後、今日、美月家に来るからな」

「兄貴……毎回言うけど…今日もだろ…ていうか…姉貴帰った意味あるのかよ?」


 久しぶりに、兄の郁人にツッコム雅人なのである。そんな雅人を見て、笑みがこぼれる郁人なのであった。


 そして、昼ご飯を食べて、雅人は、そのまま、リビングで横になって、ゲームを再開すると、兄の郁人に、ご飯を食べてすぐに横になるなと注意されるが、無視して、ゲームに熱中する雅人なのであった。そんな、雅人に呆れながら、郁人は自分の部屋に戻っていくのである。


 そして、しばらくすると、美月が郁人の家に来るのである。お邪魔しますという美月の声を聞いて、焦る雅人なのである。昨日の出来事で気まずい雅人だが、意を決して、美月と会うことを決めて、リビングに居たのである。


「あ…雅人君、こんにちは」

「あ、姉貴……こ、こんにちは」


 美月は、リビングに居た雅人に気がついて、挨拶をすると、すぐに二階の郁人の部屋に向かうのである。一昨日の雅人の告白の事は、昨日で解決したと言わんばかりの美月の普段通りの振る舞いに、戸惑いと、少しの怒りを感じる雅人なのである。


(姉貴…絶対に……一人の男として、一瞬でも意識してもらうから…絶対に)


 雅人はそう決意して、ゲームを再開するのであった。






 そして、にこやかに郁人の部屋に入り、にこやかにベッドにダイブして、ニマニマする美月なのである。


「美月……やけに今日は機嫌がいいな」

「えへへへ、今日もお昼寝しようかと思って」

「……今寝ると夜眠れなくなるぞ」

「大丈夫だよ…夜は、ひろみんとお話しするからね」


 そうベッドに横になって、布団を抱きしめながらドヤ顔でそう言う美月なのである。郁人は、心の中で、ゆるふわ…頑張れと応援するのであった。


「さぁ!! 郁人…勝負の続きだよ!! 絶対私が連勝して見せるんだからね!!」

「そ…そうか…美月…頑張れ」

「うん!! 頑張るんだからね!! 郁人も、手を抜かないで本気で来てよね!!」


 そう意気込む美月に、呆れながらも、嬉しい郁人なのであった。普段通りの関係に戻れたことが郁人にとって、一番嬉しいことなのであった。

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