第92話乙女ゲーのヒロインは、幼馴染と恋人同士になれたのに、よそよそしくなってしまうのである。 その17

 結局、美月とは、どこにも出かけずに、今まで通り、郁人の部屋で一緒に過ごすだけのゴールデンウィークだったのだが、郁人も美月もとても、幸せだったのである。


 そんな、ゴールデンウィークを過ごして、結果的に、恋人と言う関係より、今まで通り幼馴染だった頃の関係のまま、お互い歩んでいくことが望ましいと思った二人だが、美月的には、やはり、少しは恋人らしいこともしたい訳である。


 結果的にどうなるかと言うと、こうなる訳である。


「あの~…美月さん…ど、どうかされたんですか~?」


 普段通り、学校に向かうため、ゆるふわ宏美との待ち合わせ場所で合流した郁人と美月だが、美月とゆるふわが一緒に行こうとした時、美月が、郁人の元に駆け寄り、抱き着いて、郁人をぎゅっとするのである。


 そんな、美月の行動に戸惑うゆるふわ宏美は、困惑の表情を浮かべ、そう発言するのである。


「郁人、行ってくるね」

「あ…ああ…」


 流石の郁人も、戸惑い、少し気恥しくなるのである。そんな郁人の胸に顔をうずめて深呼吸をした後、美月は、郁人から離れて、イタズラに成功した子供のような笑みを浮かべて、少し照れている郁人に、満足気な美月なのであった。


「い、郁人様…美月さんどうかしたんですか~?」


 戸惑うゆるふわ宏美は、郁人に近づいて、小声でそう尋ねると、郁人もよくわかっていないのである。


「さ、さぁ? まぁ…美月だし…そう言うこともある」

「どういうことですか~!?」


 郁人の発言を、全く理解できないゆるふわ宏美は、疑問を口にして、戸惑うばかりなのである。


「み、美月さん……あの~…な、何かあったんですか~?」

「え!? とくに何もないよ」


 再び美月に、何かあったのかと質問するゆるふわ宏美なのだが、美月は、ニッコリ何も無いと言うのである。


 絶対に何かあったと思うゆるふわ宏美なのであるが、これ以上質問しても仕方ないと諦めて、いつも通りのゆるふわ笑顔を浮かべるのである。


「じゃあ、行きましょうか~…美月さん」

「そうだね…じゃあ、郁人…また後でね」


 名残惜しそうな美月に、ゆるふわ宏美はそう言うと、美月も、納得して、宏美と一緒に学校に向かうのであった。






 そして、学校の校門を抜けると、いつも通り、浩二が美月を待っていたのだが、あからさまに、今まで上機嫌だった美月の雰囲気が変わるのである。


「あ…美月ちゃん」


 声をかける浩二を完全に無視する美月は、機嫌以前に、浩二に対して、完全に無なのである。


「ひろみん…早く行こうよ」

「え!? あの~…そ、そうですね~」


 美月は、浩二をスルーして、歩き出すので、戸惑うゆるふわ宏美だが、美月の冷たい表情に気圧され、美月について行くのである。


「美月ちゃん…待ってくれって!!」


 そう美月を追いかけて声をかける浩二を無視する美月に、ゆるふわ宏美は、違和感を覚えるのである。なぜなら、美月は、声をかけられえれば、渋々、嫌いな相手でも相手をする人物だと宏美は思っていたからである。


「み、美月さん? あの~?」

「何? ひろみん?


 浩二を無視する美月に、恐る恐る声をかける宏美に、笑みを浮かべて答える美月なのである。


「あ…いえ~…は、早く教室に行きましょうか~」

「そうだね」


 そんな、あからさまに宏美と浩二に対して、態度の違う美月に何も言えなくなる宏美は、早く教室に向かうことにしたのである。そんな、二人のやり取りを、何とも言えない表情で見つめて、後から、ついてくる浩二なのである。


 教室前で、宏美と別れて、美月は自分の教室に入り、自分の席に座ると、浩二がやって来るのである。


「美月ちゃん…あのさぁ」


 浩二が、話しかけるが、完全に無視をする美月は、窓の外を眺めるのである。そんな、美月に、さすがの浩二も、話しかけづらく、とりあえず、居心地悪そうにする浩二である。何とか声をかけようとする浩二だが、美月は完全に拒絶モードなのである。


「……おはよう…美月…何かあったのかい?」


 そんな中、政宗が登校してきて、いつも通りすぐに美月の所に来て、挨拶をするが、重い雰囲気に疑問を口にするのだが、美月は、ため息をつくと、政宗の方を向いて、一言おはようと返して、また、窓の外をボーっと眺めるのである。


「浩二…何かあったのか?」

「え…い、いや…なんもねーよ」


 政宗にそう尋ねられ、浩二は誤魔化すのである。そんな二人のやり取りすらどうでもいいと、窓の外を眺めながら、美月は、早く郁人に会いたいなと思うのであった。


「あの…美月ちゃん…そのこの間の事だけど……僕は本気で、美月ちゃんの事を思って…」


 そう話を切り出す浩二に、窓の外を眺めていた美月は、一瞬浩二を睨み、また、窓の外を眺めるのである。そう、美月から、無言で、黙れという圧を感じる浩二なのである。さすがに、おかしいと思う政宗は、美月にイケメンスマイル浮かべて尋ねるのである。


「美月…なにかあったのかい? 浩二が…どうかしたのか?」


 そう尋ねる政宗も、無視する美月なのである。さすがの政宗も、少し気圧されて、浩二を睨むのである。


「ま、政宗…僕は別に……」

「何があったんだ?」


 そう尋ねられて、浩二は、渋々、政宗を連れて、教室の外に出て、一緒にトイレに向かうのである。そして、浩二は、ゴールデンウィーク前の日の出来事を政宗に話すのである。


「いや…政宗……すまねぇ…朝宮のヤツより、政宗の方が美月ちゃんの事を幸せにしてくれるみたいなことを言ってしまってよ……それで…すまねぇ…余計な事を言っちまったぜ」


 少しぼかして、政宗に、美月に嫌われてしまった理由を話す浩二なのである。そんな浩二を見て、そうかと頷く政宗は、内心では、少し嬉しかったのである。


「わかった…浩二…俺が、美月と仲を取り持とう…話せば美月もわかってくれるさ」

「政宗…すまねぇ…恩に着るぜ」


 男同士の話をトイレでして、政宗は自信満々に浩二にそう言い放ち、素直に感謝する、浩二なのだった。だが、美月の怒りを鎮めるのは、二人が思っているより、簡単なことではないのであった。

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